第112話 旭はリーアの攻撃を見届ける
「敵は俺達を見下している!!数ではこちらが有利だ!!あの傲慢な女に自分の立場をわからせてやれ!!」
「騎士様よ、あの女に勝ったら……その身体は俺たちが自由にしていいか?あそこまでコケにされたんだ。その身にたっぷりとわからせてやらねぇとなぁ!?」
「ふん、好きにすればいい。お前達が攻撃を耐え切った上で反撃できればの話だがな」
騎士隊長と思われる男が指示を出した後、冒険者の1人が厭らしい表情を浮かべる。
冒険者の不躾な発言に対し、騎士隊長は冷たくそう言い放った。
……冒険者の男はNTRに興奮するタイプなのだろう。
だが、俺がいるところでリーアを襲わせるつもりはないし、そんなことは絶対に許さない。
とりあえずあの冒険者は後で殺しておこう。
「意気込むのはいいのだけれど。まず、貴方達程度の存在が、お兄ちゃんの愛情を受けて強くなった私に勝てると思っているの?……死なない程度の魔力を両手足に付与して……。さぁ、どちらの実力が上なのかはっきりさせようじゃない」
リーアは男達の罵声をてんで気にしていないようだった。
それどころか、冒険者や騎士達を煽る始末だ。
俺以外の男には興味がないから、当然の反応かもしれないが。
ちなみに戦闘には模擬戦の時にも使用した魔力による体術を使用するつもりみたいだ。
今回は【狂愛】などのバフに加えて、【神絢解放】まで付与されている。
死なない程度の威力といえどもかなりの衝撃になるだろう。
その証拠にリーアが魔力を込めた箇所は禍々しい銀色の光を放っている。
ーーーードンッ!ドンッ!ドンッ!
リーアは冒険者と騎士達を挑発した瞬間に地面へ着地した。
本体が着地したのを皮切りに大量の分身達も地面に着地していく。
着地した箇所が抉れているが……あれ、地面大丈夫か?
「お前達!騎士としての誇りを見せる時だ!!行くぞ!」
「おい!俺達も騎士様に続くぞ!!そしてあの女が泣いて許しを乞うまで犯してやろうじゃねぇか!」
「「「「ウォォォォォォ!!!」」」」
地面に着地したリーアを見た騎士達と冒険者は、大きな声を上げてリーアに襲いかかった。
……というか、冒険者共は山賊かなにかか?
言ってることがまんま犯罪者なのだが……。
俺としてはリーアを犯そうとする冒険者は殺したいが、リーアを信じるといった手前……今は傍観するしかない。
「あら、怖い。……だけど、貴方達のような粗末なモノには興味ないの。……【能力強化】を敏捷と攻撃に特化。……いくわよ?」
「……なにを言って……おい、あの女はどこに行った!?」
リーアは冒険者に【挑発】を入れた後にその姿を消した。
実際は姿を消したわけではなく、目に見えないほどの速さで動いただけなのだが。
騎士達は姿を消したリーアを警戒しているのか、防御に特化した陣形になっている。
「……このスピードについてこれないのに、よく私を犯そうだなんてそんなバカなことを言えたわね……。お兄ちゃんと比べるとこれでもかなり遅いというのに」
リーアの呆れたような声が周囲からステレオで聞こえてきた。
冒険者達は声のする方向を探して周囲を見渡していたが、その行動もすぐに終わる。
……というのも。
「……な!?どこから声g……ガハッ!?」
「お、おい……大丈夫k……グハッ!?」
「な、なんだ……!?どこから攻撃してきやがった!?」
「気をつけろ!奴はどこからともなく攻撃してくる……ゾォォォォォ!?」
周囲を見渡している冒険者達がどんどん倒れていったからである。
それはもう面白いくらいに倒れていく。
例えるなら人間ドミノ倒し状態といった所だろうか。
リーアは冒険者達の鳩尾を狙って攻撃しているらしく、攻撃を受けた冒険者達は一撃で気絶したみたいだ。
……身体を鍛えていると鳩尾へのダメージは効かないと聞いたことがあるのだが、両手に付与した魔力で筋肉の壁を突破しているらしい。
「……ふぅ。これで冒険者達は静かになったかな?お兄ちゃん〜、穢らわしい男達に触れちゃったから、癒してほしいなぁ?」
「……ったく。まだ戦闘中なのにリーアは甘えん坊だなぁ。……【
リーアは分身を下に残して、勢いよく俺の方に飛び上がってきた。
俺は飛んできたリーアを抱きとめて、両手に浄化の作用がある魔法を使う。
咄嗟に創造した魔法だが、何もしないよりはマシだろう。
俺が唱えた魔法は、リーアの両手を淡いオレンジ色の光で包み込んだ。
「……すごい。魔法を受けたのは両手だけなのに、身体全体が癒されていく感じがする……。ありがと、お兄ちゃん!これでまた頑張ることができるよ!!」
俺から【聖皇浄化】を受けたリーアは、満面の笑みを浮かべてそう言った。
下を見ると、分身体にも同じような魔法の光が両手に現れている。
どうやら本体に魔法をかけると、分身にも影響があるタイプの魔法らしい。
「何も考えずに作成した魔法だったが、役に立てたならなによりだ。冒険者達は俺の方で拘束しておくから、リーアは存分に騎士の相手をしておいで」
「うん!ありがとう、お兄ちゃん!模擬戦の時とは違うってこと……しっかりその目に焼き付けておいてよね!」
そう言ったリーアは再び地上に向けて下降していった。
抱きついたことで精神的にも癒されたみたいだ。
なんというんだっけ……?
あぁ、リラクゼーション効果だったか。
「俺に抱きつくだけでリラクゼーション効果があるとは思えないが……。いや、レーナ達もリーアと同じ反応をしそうだな。……っと、冒険者達を拘束しなくては。……【空間固定】を冒険者達に。そうだな……吊るし上げておくか」
俺は下降していくリーアを眺めつつ、冒険者達に【空間固定】を使用する。
ただ、そのまま拘束したのでは反省しないだろうと思い、空中に浮かべてから透明の十字架のように拘束した。
高度は俺と今いる場所と同じだから……500mくらいか?
半永久的に魔法の効果が持つと思うので、ギルドマスターや冒険者達から謝罪がない限りはそのままにしておこうと思う。
「ねぇ、ダスクの騎士さん達?貴方達の実力はこんなものなのかしら?これなら分身を呼び出さなくても勝てるわよ?」
「……チィッ!あの異様な速度さえなんとかなれば我らにも勝機があるというものを!」
「隊長!このままでは防戦一方です!どこかで手を打たなくては!!」
「そんなことは俺が一番わかっているわ!クソッ、騎士ともあろうものが1人の幼女に防戦一方など……!」
「……思った以上に騎士達の粘りがすごいね……。魔力付与による打撃もあるから問題はないと思ったんだけどなぁ……。しょうがない、出力を上げるしか……あ」
磔にされた冒険者達を眺めていると、下からリーアと騎士達の声が聞こえてきた。
どうやら敏捷値をさらに増加させたリーアが、騎士達を攻撃しているようだ。
しかし、騎士達は防御の陣形のままで応対しており、リーアも思ったようにダメージを与えられていない。
騎士側も防御に専念するのが精一杯みたいだから攻撃できないみたいだが。
そんな中、リーアは1つの方法を思いついたようだ。
だが、それと同時に俺の方に不安げな表情を向ける。
それはイタズラを思いついた子が、親にバレてしまった時のような表情だった。
「……これやるとお兄ちゃんに怒られちゃうかなぁ……。でも、これをしないと騎士達に痛い目を合わせることができないし……」
リーアは自分が考えた手が俺に怒られてしまうのでは……?と不安になっているみたいだった。
俺はそんなリーアを見て、無言でリーアのそばに転移する。
「……なんだ貴様!約束を反故にするつもりか!?」
「……うるせぇ、死にたくなければ黙ってろ」
「…………ッ!?な、なんだ……この殺気は……!」
騎士隊長が降りてきた俺に対して文句を言ってきたが、一言で黙らせた。
隊長を含めた騎士達は俺の殺気に当てられたのか、ガクガクと体を震わせている。
……リーアにこれから伝えることは重要なことであり、それを邪魔されるのは心底我慢ができない。
俺の邪魔をする奴がいたとしたら、すぐに殺してしまう可能性があった。
例えそれが冒険者ギルド全部を敵に回すことになるとしても。
「……リーア。俺にはリーアがどんな手段を思いついたのか検討もつかない。でもな?今回の件でリーアに無茶な要求をしているのは俺の方なんだ。どんな方法を思いついたのか……耳打ちでいいから教えてもらえないか?」
「……わかった。お兄ちゃん、あのね……?」
俺の言葉を聞いたリーアは涙ぐみながらも俺に耳打ちしてきた。
高い身長をリーアに合わせ、かわいらしい吐息で耳打ちしてくるリーアの作戦を静かに聞く。
「……うん、いいんじゃないか?騎士達が展開しているあの防御の陣形をどうにかしないといけないとは思っていたんだ。それがそんな方法で解決するなら……俺は喜んで手を貸そう」
「……やっぱりお兄ちゃんはそこらの男とは器量が違うね。……私の考えを真剣に聞いてくれてありがとう。……じゃあ、作戦を開始するから準備をお願い……!」
「……準備は任せておけ!リーアの力、ちゃんと見届けるからな」
「…………うんっ!」
リーアは俺に一度抱きついた後、再び騎士達の方に向かっていった。
しかし、攻撃するのではなく、ただその場で目を閉じて瞑想している。
「……敵を前にして目を閉じた……?おい、今が好機だ!今のうちに攻めるぞ!?」
「……させるかよ。……【聖断】を騎士の周囲に展開」
「……なんだ!?この虹色に輝く結界は!?」
「隊長!この結界……ビクともしません!恐らく先ほど放った大儀式魔法でも破れないものと思われます!」
「えぇい!ならば手数で勝負するのみよ!あの女が目を閉じている今が好機なのだ!これを逃したら勝機はないと思え!」
無防備なリーアを攻撃しようとした騎士達を【聖断】で閉じ込めた。
リーアと騎士達は見事に分断されていたため、リーアの分身には影響はない。
……手出ししすぎたか?
だが、攻撃は加えていないのだから問題はないだろう。
騎士達はリーアが目を閉じている間に結界を破壊しようと様々な攻撃を加えている。
だが、この結界は単なる時間稼ぎだ。
……っと、こんなことをしていないで俺も準備をしないとな。
俺は無言で騎士達の下にとある魔法を放った。
「……きたっ。やっぱり詠唱なしで魔法が発動できるお兄ちゃんは頼りになるね。……さぁ、これが……ラストミッション!」
リーアはそう呟いたかと思うと、目をカッと見開いた。
その瞳は光が消えており、【狂愛】の発動が継続されていることが確認できる。
ただ、最後の言葉は絶対にガン◯ムのアニメを参考にしているよね?
「……分身体への命令を変更。そして……【終焉の極光】!!」
そう言ったリーアは真上に【終焉の極光】を打ち出した。
レーナや俺ほどではないが神霊魔法級の【終焉の極光】は空高くまで届き、空中で大きな爆発を起こす。
その爆発によって騎士達には大きな影が浮かび上がった。
「……分身に告ぐ。これよりある魔法の発動を許可する!」
リーアの言葉と共に分身体達が自らの影に潜っていく。
あれは俺が『大和』の艦内から転移する際に使った【影縫い】だろう。
分身は一瞬のうちに影の中に潜ってしまった。
「……なんだ?いきなり分身が影の中に消えたぞ?」
「隊長!これはチャンスでs……ウワァァァァッ!!」
「…………!?」
「か、身体が!影に引きずり込まれる!!」
「や……やめろ……!ヤメロォォォォォォ……ォ……」
「おい……なんだよ……これは!!どうして味方が影に引きずり込まれていくんだ!」
リーアの分身が影に潜った瞬間、騎士達から悲鳴が上がった。
どうやら作戦は成功したようだ。
リーアから目にも見えない速さで騎士達を【影縫い】で引きずりみたいと聞いたときは驚いたものだ。
2000人いた騎士達は一瞬のうちに騎士隊長1人のみを残し、その全てが影の中に引き込まれてしまった。
騎士隊長は周囲を見渡し、呆然とした表情を浮かべている。
まぁ、一瞬で味方全員が影の中に連れていかれたのだから無理もないだろう。
そんな騎士隊長にリーアが忍者のポーズをして一言ポツリと呟く。
「……これぞ闇の神霊魔法の1つ……【
「なんだよ……それは……!?そんな魔法聞いたこともn……」
騎士隊長は絶望の表情を浮かべて何やら叫んでいたが、それもすぐ影に飲み込まれた。
リーアの言葉が終わると同時に、分身が影の中に騎士隊長を引きずり込んだ。
まぁ、死ぬわけではないから安心して反省してくれ。
「はぁ〜……。ようやく終わった〜……!お兄ちゃん、私頑張ったよ〜!!」
「……おっとと。お疲れ様、リーア。まさかあの魔法を媒体にあんな魔法を発動させるなんてな」
「えへへ……。今はまだお兄ちゃんの魔法の手助けがないと使えないけど、いつかは私1人でもできるようになってみせるから!!」
全ての騎士を影に引きずり込むことができたリーアは、トテテーと俺の方に抱きついてきた。
抱きつかれた際に俺とリーアの地面が大きく抉られたが……まぁ、些細なことだろう。
俺から褒められたリーアは頭巾を外して、にへへと蕩けた微笑みを浮かべた。
リーアは自分で考える力もあるし、向上心もある。
近いうちにリーアだけであの作戦を実行できるようになると思う。
「…………なんなんだよ……あれは……」
そんな中、ギルドマスターは1人呆然と呟いた。
座り込んだその地面に変なシミを見つけたが……そこはあえて触れるまい。
俺はリーアの頭を撫でながら、ギルドマスターの元に向かった。
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