第108話 旭はダスクのギルドマスターと対峙する

「さて、ダスクのギルドマスター。この戦力差を見て、まだルミアを冒険者ギルドに戻そうというのか?」


 俺はデススネークが戻ってきたのを確認して、ギルドマスターに問いかけた。

 こちらの戦力はゼウスを筆頭にハイエンジェルにデススネークとナーガ、四神。

 それに加えて、リーアが召喚した【百鬼夜行】の妖怪達と空中戦艦『大和』。


 対してダスクの戦力は250人の冒険者と2000人の騎士達のみ。

 こう言っては失礼かもしれないが……勝ち目は全くないだろう。

 そう考えての発言だったのだが……。

 ダスク側は[マスターガーディアン]を除いて、戦意喪失していないようだった。


「確かに戦力的には足りないかもしれない。だが、俺達が何もせずにただ襲来するのを待っていたと思っているのなら、それは間違いだと言わせてもらおう」


「……自信満々なのはいいんだけどな。そちらの情報は俺達に筒抜けだということを忘れていないか?転移阻害の魔道具の他にも報告は入ってきてるぞ?それに転移阻害されるとわかっていたから、わざわざ行軍してきたんだし」


 俺は自信ありげに叫ぶギルドマスターに同情の視線を送る。

 先ほど言ったように、デススネーク隊から転移阻害魔道具以外の情報も入ってきていた。


 例えば、魔法の適性がないものでも魔法が使用できる魔道書。

 全ステータスを一時的に2倍に引き上げる強壮薬。

 街全体を魔力の媒介として発動する大型魔法陣。

 即死級の攻撃を一度だけ完全に防ぐ結界(【聖域】の劣化版らしい)

 魔力に応じて低階級の召喚獣を呼び出す巻物……etc.


 よくもまぁ……こんな短い期間にここまで揃えられたと思うよ。

 だが、それをもってしても俺達には敵わない。

 ハイエンジェルやデススネーク、妖怪達には効くかもしれないけどな。


「くっ……!そういえばデススネークが偵察していたな……!だが、情報が漏れていたとしても圧倒的な火力で制圧すればいいだけのこと!女神様から賜った魔道具が一介の冒険者に負けるわけがない!!」


「「「そうだそうだ!!」」」


「いくらお前の力が強かろうが、この世界を管理してくださっている女神様より強いはずがないだろ!!」


 ギルドマスターがそう叫ぶと、周りにいる冒険者や騎士達が大きな声をあげて賛同した。

 自分達が用意した魔道具によほど自信があるらしい。

 ……ん?

 今、ギルドマスターはなんて言った?

 


「……ユミ、ソフィア。艦橋に出てきてくれないか?確認したいことがある」


[旭、どうしました?何かあったのですか?]


「にぃに。ソフィアおねえちゃんはわかるけど……なんでユミまで……んぷっ!?」


「……発動、【天降る女神】」


 ソフィアとユミが俺の言葉を聞いて、転移魔法で艦橋にやってきた。

 俺はユミに無言で魔力供給を行い、【神威覚醒】を発動させる。

 ちなみにギルドマスター達は、いきなり俺が幼女にキスをした場面を見て固まっていた。


「……プハッ。お兄様、いきなり【神威覚醒】を促すとは……どうしたのです?しかも……こんな沢山の人が見ている中でなんて……!さすがに恥ずかしいのですけれども!」


「ごめんごめん。ちょっと確認したいことがあってな。……ユミ、模擬戦の時は結局聞けずじまいだったけどさ。……【時間遡行】前の記憶が戻ってきているよな?」


「……お兄様は何を言っているのでしょう?私の記憶が戻った?お兄様の気のせいではありませんか?」


 俺の質問に対して、ユミは顔を反らしながらそう答えた

 ……その時点で俺の言葉を肯定しているようなものなんだけどな。

 俺は顔を反らして聞こえませーんとアピールしているユミを横目に、ソフィアに尋ねることにした。


「しらばっくれても後でちゃんと確認するからな?……で、ソフィア。ギルドマスターは用意した魔道具などを『女神から賜った』と言っていた。この女神というのは……【時間遡行】する前のユミで間違い無いんだよな?」


[そうですね。『この世界を管理している』という言葉からしても、【時間遡行】前の女神で間違い無いでしょう。……ユミ、ダスクに贈ったという道具と旭。どちらが強いですか?正直に答えたら……旭に抱かれる権利をあげましょう]


「もちろんお兄様の方が強いです!大体、低階級の女神がそんなに強い神器をもっているはずがないじゃないですか!!」


「……ソフィア、いくら正直に言ってもらうためとはいえ……俺を餌にしないでくれ……」


[しかし、効果てきめんだったでしょう?そろそろユミだけ仲間外れにするのは可哀想ですし]


 ソフィアからの甘い誘惑に負けたユミは、バッと顔を上げて高らかに宣言した。

 そしてこの発言によって、ユミの記憶が戻りつつあることと女神が贈った道具よりも俺の方が強いことが証明された。

 まぁ、ユミの記憶が戻ったとしてもあのウザい女神になる様子はないから問題はないんだけれども。

 ……べ、別にユミを抱いてこなかったことをソフィアに咎められたからとかではないからな。


「……旭、もしかして……そちらの水色の髪をした女の子は……。しかも、その隣の美女は一体……?」


「ん?あぁ、正気に戻ったのか。ニナから説明を聞いてないのか?薄水色の髪をしているのが、先ほどからお前達が言っているこの世界を管理して女神だ。今は俺の魔法で通常時は6歳くらいまで時間が遡っているけどな。で、こっちの美女が【叡智のサポート】であるソフィア。今では2人とも俺の嫁だけどな」


「………………」


 俺の言葉を聞いたギルドマスターは再び身体が固まってしまったようだ。

 口をパクパクさせながら俺の方を見つめている。

 俺はそんなギルドマスターを横目に、丹奈達に視線を向けた。


「おい、ニナ。お前は俺達との勝負の後にギルドマスターに報告をしに行ったんじゃないのか?なんで、ユミとソフィアのことを知らないんだよ」


「いやいや、そっちのユミって子が戦力として数えられてることは知らなかったし。ソフィアさんについても詳しく聞いてないから報告できるわけないでしょ!?」


 俺の質問に丹奈はギャーギャーと喚きだした。

 いや、ソフィアについては、目の前で実力を見ていただろうに。

 多分だが、説明するのが面倒だったんじゃないかと考えている。

 ギルドマスターの言動からするに、丹奈が報告したところでルミアを諦めるという選択肢はなかったのだろうし。


「…………ハッ!?……ゴホンッ!と、とにかく、自称女神様がなんと言おうとこちらには攻撃を防ぐ結界がある!それを破られなければ問題はないし、旭の実力程度で破壊できるわけがないだろう!」


「自称って……。お兄様、不敬罪であの男に裁きを与えてもいいですか?」


「いや、一応あれでも冒険者ギルドのギルドマスターだからそれはダメだ。……あぁ、この手があったか」


 ギルドマスターは二度目の気絶から立ち直ったようだ。

 だが……俺の実力程度で破壊できないというのは聞き捨てならないな。

 ユミも自称女神様呼ばわりされて苛立っているようだし。


 俺はユミをなだめつつ、1つの方法を思いつく。

 この方法ならギルドマスター達も反抗をやめてくれるかもしれない。


「ハイエンジェル隊に告ぐ!今より例の砲撃を行う!司令塔に移動し、艦体のバランスを調整するように!!四神達は【四獣結界】の再展開!砲撃後の衝撃波を吸収できるようにしてくれ!いいか?これは威嚇射撃だ。被害を出してしまうことがないように全力で取り組め!」


『『『わかりました!!!』』』


『『『『任せろ、ご主人!!【四獣結界】の再展開及び範囲調整を行う!』』』』


 俺の言葉にハイエンジェルと四神がそれぞれの役割を全うすべく動き始めた。

 その様子が尋常ではないことに気がついたギルドマスターが、騎士や冒険者ギルドの方に向き直る。


「……旭が何かしてくるようだ!魔法の発動準備を!俺達が今放てる最大威力の魔法で迎え撃つぞ!!」


「「「「おぅ!!」」」」


『……パパ、ギルドマスターのおじさん達が攻撃してくるみたいだけど……どうするの?こちらも迎え撃つ?」


 ギルドマスター達の行動を見ていたレーナが艦内から通信してきた。

 こちらが攻撃を受ける前に、ギルドマスター達の目論見を阻止したいのだろう。

 俺とユミ、ソフィアは転移で艦内に移動し、水晶が置いてあるとある装置の前に立った。

 転移と同時にレーナとリーア、ルミアが近づいてくる。


「打ち出すのはこちらの攻撃に合わせてみたいだし問題はないだろう。リーア、一応念のためにダマスクを射線上に配置しておいてくれ」


「……ダマスクを囮にするんだね?わかったよ、お兄ちゃん!」


 リーアは俺の言葉を受けてダマスクをギルドマスターの目の前まで移動させた。

 妖怪達はリーアの意見に逆らえない為、命令すればその場所まで動いていく特性を持っている。


「ダマスク、準備が出来るまで説得を頼んだよ」


『……チッ、命令なら仕方ないカ……。ギルドマスター、このままだと大変ナことになル。ルミアのことは諦めロ』


『悪徳奴隷商人にそんなことを言われる筋合いはないと思うんだが』


 リーアからの命令を受けたダマスクは渋々ギルドマスターに説得を始めた。

 ……だが、俺のルミアを呼び捨てにしたことは万死に値するな。

 よし、あいつを巻き添えにして威嚇射撃するとしよう。


「リーア。砲撃を放つ際に、砲塔を上空に向ける。その際にダマスクが巻き込まれるように誘導してくれ」


「先ほどのルミアさんの呼び方については、私も思うところがあったから賛成。……未だに私の命令に従順じゃないから……もっと後悔させないとね……」


「リーア、ダマスクに対する罰はその辺にしておこう?パパ、そろそろ準備しないと」


 黒い微笑みを浮かべるリーアをなだめたレーナは、俺に砲撃準備を促してきた。

 ……そうだな。

 ダマスクへの制裁は確定事項だし、今は準備を進めないと。


「……じゃあ、俺を囲むように円陣を組んでくれ」


「「「「[はい!]」」」」


 俺の言葉を聞いたレーナ達5人は、俺と水晶を囲うように円陣を組み始めた。

 5人の存在を近くで感じつつ、俺は水晶に手をかざす。


「……【神威解放】!……空中戦艦『大和』よ、今その艦隊にこの言葉を刻め。俺とその嫁の魔力を糧にかの者達にその圧倒的な力を見せつける時が来た。……魔力注入開始!」


 俺の言葉を受けて水晶が淡く光り始める。

 砲撃のための魔力を貯め始めた合図だ。

 魔力を貯める工程は俺1人でも十分だが……今回は俺達の実力を知らしめるために5人の魔力も送っている。


「……パパほどじゃないとはいえ……結構魔力を持ってかれるね……」


「レーナさん、【狂愛】を発動させましょう。魔力を絶え間無く送るにはそれが適していると思います」


「ルミアさんの言う通りだよ。私達は【狂愛】のコントロールだけはお兄ちゃん以上なんだから、そこで頑張らないでいつ頑張るの」


「……それもそうだね。【狂愛】……全開!!」


 レーナ達5人は【狂愛】を全開にして魔力を注ぎ始めた。

 淡く光っていた水晶に禍々しいオーラが追加されていく。


『まだ準備は整わないのカ!?ダスク側の準備は終わったみたいだゾ!?』


 魔力を注いでいると、囮をしていたはずのダマスクから報告が入った。

 どうやら奴さんは準備を終えたようだ。

 ……こちらも魔力の重点が完了した。

 さぁ、戦争を起こそうとする気力をなくすほどの威力を見せつけてやろう!


 俺は水晶に手をかざしたままニヤリと笑うのだった。

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