第95話 模擬戦-2試合目 旭vsリーア-
『さて、1試合目はレーナ君が勝利した。ちなみに今回の模擬戦では、レーナ君達5人は旭君に勝ったらご褒美がもらえることになっている様だ。旭君は勝つことはできるのか!?というよりも、一回は勝ってくれないと民衆に力を見せつけるのは厳しいと思うぞ〜?それでは、2人に入場してもらうとしよう!』
『今回の模擬戦でご主人が戦うのはリーア嬢だ。レーナ嬢の替わりとしてダマスクの奴隷をしていた過去を持っている。まぁ、そのダマスクから救ったのがご主人なのだが。リーア嬢は近接戦闘が主体だ。どういう戦闘になるのか今から楽しみではあるな』
コロシアムではギルドマスターがそんなことを叫んでいる。
一回は勝ってくれないと……と言うが、俺としてはあんまりレーナ達を傷つけたくはないんだよ。
勝てなくても俺の力は見せつけることはできていると思うが……。
ギルドマスターが俺を煽ってくる一方で、ハーデスはまじめに解説役をしている様だ。
……あのハーデスが真面目に解説役をやってるのは違和感しかないんだが。
自分は真面目にやっていますよアピールが半端ない。
後でソフィアをけしかけるするとしよう。
「じゃあ、リーア。コロシアムに行くとしようか」
「わかった。お兄ちゃん……覚悟してよね?私だってご褒美もらってやるんだから」
俺はリーアの手を繋いでコロシアムに向かって歩いていく。
……うん、いい感じに緊張が解れているな。
模擬戦前に対策を講じたのは成功だったと言えるだろう。
『さて……旭君もリーア君も準備はいいかい?……それでは、模擬戦2試合目を開始するッ!!』
俺とリーアがお互いに向かい合ったのを確認したギルドマスターは、試合開始を宣言した。
さて……ブラックドラゴン討伐の時からどこまで強くなったのか……。
俺は僅かな期待に心を躍らせた。
▼
「お兄ちゃん、私とルミアさんは近接戦闘主体……。お兄ちゃんにかすり傷を負わせたら勝利になるけど……馬鹿正直に突っ込んだりなんてしないよ。……【狂愛】と【嫉妬】の発動を確認。と言うことで、一旦空中に避難させてもらうから!!」
リーアはそう言って空中に飛び上がっていった。
……レーナもそうだったが、俺と戦う時は空中に避難するのが定石になっているのか?
恐らくだが、レーナとリーアの2人が話し合って決めたのだろう。
「リーア、空中に上がったのはいいが……。そこからどうする?敵に時間を与えると言うことは……魔法とかの準備をさせることになるぞ?……【聖域】」
そう言いながら俺は強化した【聖域】を展開した。
もはやバフスキルのワードを唱えなくても発動できる様になっているのだが、強化されていないと勘違いさせるためのブラフだ。
これに引っかかるリーアではないと思うが……。
「お兄ちゃんに関しては準備を与えようと与えまいと関係ないからね……。なら……物量作戦で挑むのみ!!【魔力分身】と【百鬼夜行】を同時展開!!お兄ちゃんの足止めを頼んだよ!!」
「「「「ウォォォォオォォ…………!?」」」」
『おっと、リーア君は空中で【百鬼夜行】と【魔力分身】を使用した様だ。妖怪達は飛行能力がないのか悲鳴をあげながら地面に落下しているが……。この行動についてはどう思う?』
『ふむ……あの規模の妖怪が空中から落下したらその衝撃も大きいだろう。リーア嬢は足止めと言っていたが、落下による衝撃ダメージも狙っている様だ。その証拠に分身はゆっくりと地上に降下していっている。皆の者、あそこに太った人間がいるな?あれが悪徳奴隷商人のダマスクだ。なぜか冥界にこないで妖怪になった悪人の成れの果てよ。悪事を働いたらあの様になる可能性もあることを心に刻み込むがいい』
ハーデスの言葉に観客席から悲鳴の様な声が若干聞こえてきた。
……どうやら悪事に手を染めている者も幾人か見にきている様だ。
ハーデスの言葉で足を洗ってくれるといいんだがな……。
「さて……と、考えている場合じゃないな。分身は分身で対応すればいいが……流石に大量の妖怪を相手にするのは面倒だな……」
悲鳴なのか罵声なのか分からない声を発して落下してくる妖怪達をみて、俺はポツリとそう呟く。
いや……あの規模であっても問題はないんだが……。
精神的疲労の方が大きそうなんだよなぁ……。
分身の意識を共有して戦うのは疲れるし……。
「……ん?それじゃあ、一気に狙えばいいんじゃね?」
「お兄ちゃん、なにを考えたのかわからないけど……妖怪達はもう地上に到着するよ?のんびりしていて大丈夫なの?」
俺がこの状況を打破するための魔法を創造していると、空中からリーアの言葉が聞こえてきた。
一歩も動かない俺を見て焦ったのだろうか?
リーアの口調は模擬戦中だというのに心配する様なものだった。
俺はニヤリと笑って……リーアに告げる。
「大丈夫大丈夫。すぐに終わるから。……攻撃範囲を設定、【マルチロック】」
俺は今しがた創造した魔法を使って、攻撃の対象を妖怪に絞っていく。
ダマスクは……ブラックドラゴンの時の件があるから……対象外にして……。
「さて……俺が創造した魔法はうまく作動してくれるかな?…………【終焉の極光】」
「「「ぐ……グォォォォォォォ!?」」」
俺の放った【終焉の極光】は細い光となって妖怪達を狙っていく。
それはレーザーが敵を自動追尾するが如く。
レーザー状になった【終焉の極光】に撃ち抜かれた妖怪達は、塵も残さず送還されていく。
ふむ……即興で創造したにしては……いい出来なんじゃないか?
『これは……!?ハーデス、これは何が起こっているんだ……!?』
『お主……もはや敬称を使うつもりすらないな?……ご主人が最初に使ったのは、複数選択の魔法だろう……。だがあんなものは見たことがない。神霊光闇魔法である【終焉の極光】が細長いレーザーになったのも……それが原因だろうな。もはや最終兵器と言える代物だぞ……あれは。ご主人を敵に回すのはやめた方がいいと改めて感じさせるな』
『それについては同感だ』
ギルドマスターとハーデスが互いに頷きあっている。
俺に敵対しない様にするための模擬戦なんじゃないのか?
というか、レーナの時と違って解説多いな。
レーナの時もそれくらい解説しなさいよ……。
「……まさか、妖怪達が全部送還されるなんて……」
「イや、マテ!!俺ガまダ残ってイるゾ!?なゼ聞こテいなイ!?」
「リーアに見えない様に【遮断空間】を展開したんだから当然だろうが」
リーアはダマスクの姿を認知できていない様だ。
ダマスクはリーアに何やら叫んでいるが……俺の【遮断空間】のせいで声が聞こえることはない。
「お前には言いたいことがたくさんあるんだが……。なんで妖怪になっているのかは……どうでもいいけど」
「そコは聞いテくれなイノカ!?」
「いや、別に興味ないし。悪徳商人の成れの果てとしては相応しいんじゃないか?だがな……」
俺は殺意を全開にしてダマスクを睨みつける。
ついでに【空間固定】も展開して、拘束する。
「誰の許可を得て……リーアに意見しているんだ……?お前には……この場で制裁を受けてもらう」
「そンな理不尽ナ!!!」
ダマスクが騒ぐのを無視して、俺は1人【遮断空間】の外に出る。
ちなみに……【遮断空間】は俺が展開した空間だ。
……ということは、攻撃を通すかどうかも俺次第ということになる。
ここまでくればどうなるか予想できる人もいるんじゃないだろうか。
『おっと、旭君が突然現れたぞ?どうやらダマスクを閉じ込めていた様だ』
『それはいいんだが……。ご主人……殺気を放ってないか……?ダマスクの奴……今度は何をやらかしおった……』
「お兄ちゃん、ダマスクだけ残っていたのを今知ったんだけど……どうするつもりなの?」
ギルドマスターの解説を聞いて、ダマスクだけが攻撃されてなかったことを知ったリーアが尋ねてきた。
しかし、その表情は興味がなさそうにしている。
まぁ、ダマスクはリーアに酷いことをしてきたんだから当然といえば当然だが。
「まぁ、見てればわかるさ。ギルドマスター、これはダマスクへの洗礼だから……【聖断】を使用してもいいよな?」
『……あ、あぁ。それは構わないが……なんでそんなに殺気を……?』
よし、ギルドマスターからの許可も得たし……【聖断】を展開しよう。
ギルドマスターの疑問は無視して問題ないので、スルーする。
「……【聖断】をダマスクの周りに展開、ならびに攻撃範囲を【聖断】の結界内に固定……。【遮断空間】解除」
「……!?コれはなンだ!?」
俺が【遮断空間】を解除したことで、拘束されたダマスクの姿が明らかになった。
その表情は恐怖に染まっている。
今から何をされるのかわかっていないようだ。
「もう二度とレーナやリーアに意見できないようにしてやろう。…………【神威解放】の使用を確認。……【魔神王の洗礼】」
俺が魔法を発動した瞬間に、ダマスクがいる【聖断】に真っ赤な光の竜巻が出現した。
なんで名前が変わっているのかって?
魔法を打つ前に【神威解放】をしたら名前が変わっていたからだよ!
魔神王ってなんだよ……◯ジン◯ーZEROか?
「グォォォォォォォ!?や、やめッ!!妖怪になったが、痛覚はまだあるんだぞ!?体を細かく刻むのは……ヤメロォォォォォォォッ!!」
ダマスクは悲鳴をあげながら……送還されていった。
うんうん、これでリーアに生意気なことを言うことはなくなるだろう。
「……っとと?」
ダマスクに相応の報いを与えた俺はよろけてしまった。
どうやら【神威解放】をしてから最大威力の魔法を使うと少しだけ隙ができてしまうらしい。
動けないことはないし、【聖域】も展開されているが……魔法は上級までしか使えなくなっている様だ。
「お兄ちゃん、大丈夫!?」
俺がよろけたのをみたリーアは、駆け足で俺に抱きついてきた。
……やばい……この状況はやばい。
何がやばいって、一瞬の間に大量に分身したリーアに囲まれたってのがやばい。
あ、これ……俺負けたかもしれん。
「本当はこんな状態で勝ちたくなかったけど……これもご褒美のため……。お兄ちゃん、覚悟してね?」
そう言ったリーアは1人が俺を抱え込み、全員で俺に攻撃をしてきた。
いつも使っている【吸生の死剣】は構えていないが……その両手足には魔力が込められている。
そして……
「ーーーーガハッ!!」
俺の【聖域】を破った拳が俺の腹にクリティカルヒットした。
思わず血を吹き出してしまう。
……いや、【持続回復】かけてあるから傷はすぐに治るんだけど……。
『ここで旭君が吐血!!よって……この模擬戦はリーア君の勝利だ!!!旭君、大丈夫か!?』
『ギルドマスターとやら。ご主人があの程度でくたばるわけがなかろう。見ろ、既に傷は癒えている』
『……そういえば旭君は常識が通じない相手だったな。しかし、リーア君の勝利条件は揺るがないぞ!』
『『『…………あの女の子……怖……』』』
ギルドマスターの勝利宣言と同時に、男性の恐怖した声がコロシアムに響き渡った。
これで、リーアに手を出そうとする輩は出なくなることだろう。
まぁ、観客の声はリーアには聞こえていないんだが。
「お兄ちゃん、大丈夫……?タコ殴りにしてごめんね……?」
リーアはそう言って俺に抱きついてきた。
涙目になっているから……先ほどの攻撃について後悔しているのかもしれない。
俺はそんなリーアの頭を撫でながら微笑んだ。
「気にするなって。【神威解放】の効果をしっかり確認していなかった俺の油断さ。……ブラックドラゴンの時も言ったかもしれないが……強くなったな。俺としては誇らしいよ」
「お兄ちゃん……。う、うわぁぁぁぁぁぁ……ッ」
俺の言葉を聞いたリーアは、感情が抑えきれなくなってしまったのか泣き始めてしまった。
そんなリーアをお姫様抱っこした俺は、リーアを慰めながら控室に戻っていく。
それにしても……二連敗か。
2戦とも予期しない出来事で油断していたのが敗因だろう。
こんな状態でウダルの民衆に認められるかどうか……。
『……女の子の実力もやばいが……。旭のあの威力の攻撃はそれ以上じゃないか……?』
『勝負には連続で負けているが……あれが俺達に向けられたら……』
『こんな模擬戦が後3つもあるのか……。やばすぎるだろ……』
俺は観客のそんな声に気がつくことなく、控室に向かって歩いていくのだった。
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