第77話 旭は転移を阻止するための準備を整える

女神がけしかけてきた男達を壊滅させてから2日目の朝9時頃。

 俺達[ROY]の面々と[マスターガーディアン]の丹奈とレンジは決闘場に集まっていた。

 今日は女神が篠田伊吹姫を転移させてくる当日だからというのが理由だ。

 レンジ以外のイケメン達はどうしたのかって?

 来ようとしていたが……正直邪魔にしかならないので、丁重にお帰りいただいた。

 ……脅してはいないぞ?俺はね。


「……女神は本当に今日伊吹姫を転移させるんだよな?」


「うん、それは間違いないと思うよ。転移にかかる日数が短縮できたことを私に何度も何度も報告してきたもの。あーちゃんが男達を全滅したことについてはかなり驚いていたけどね。……ねぇ、どうやって数百人規模の襲撃を壊滅させたの?」


「それをお前に教える必要はないと思うんだがな。どうしても知りたいなら……ウチのヒロインを倒してからにしてくれ」


「なにそれ……無理ゲーすぎる……」


 丹奈は俺がどうやって男達を撃退したのか知りたいようだったが……適当にあしらっておく。

 どうせ話したところで真似できるわけでもないし。

 今の丹奈はただの顔見知りレベルなので、そこまでする必要性を感じないというのが正直なところなんだが。


「パパ。……うまくいくかなぁ?」


 そんなことを丹奈と話していたらレーナが服をくいくいと引っ張ってきた。

 一昨日の襲撃の後からレーナは元気が無くなってしまった気がする。

 そんなに男の汚い部分を見せつけられたのがトラウマだったのだろうか……。

 俺はレーナを抱き上げて、同じ目線に合わせた。

 レーナのきれいな碧眼が若干潤んでいる。

 俺は不安そうにしているレーナをギュッと抱きしめた。


「必ず成功させるさ。レーナ達を危険な目に合わせた女神は絶対に許すわけにはいかないからな。できることなら送り返すだけじゃなくて、女神本人を引きずり出したいくらいだよ」


「……わぷっ。ぱ、パパ!抱きしめてくれるのは嬉しいけど……流石にちょっと恥ずかしいよっ」


 レーナはもがくようにじたばたと暴れるが……それを無視して抱きしめ続ける。

 本当に嫌がっているわけではなく、独り占めできて嬉しいというのが耳の動きから丸わかりだし。

 この光景を見たらリーアが嫉妬してきそうなものなのだが……珍しいことに嫉妬していないようだ。


「リーア、今日は嫉妬しないのか?」


「……うん。レーナが汚らしい物を見せつけられたのは事実だからね。かわいい妹のために譲ってあげるのも……お姉ちゃんの役目でしょ?」


 リーアはそう言って優しくレーナの頭を撫でた。

 なんだろう。

 最近リーアがお姉ちゃんっぽく振る舞うことが増えてきたような……。

 たまに百合の花が見える時があるのだが……。

 ……ハッ!?これが巷で噂になっている「咲き乱れてますねぇ!」状態……!?


[……楽しそうなところ申し訳ありませんが……。そろそろ女神の転移に備えるべきでは?]


 若干呆れたようにソフィアが俺に進言してきた。

 ソフィアの言葉に俺は意識を切り替える。


「……そうだな。じゃあ当初の予定通りに行こうか。ソフィアはゼウスとハーデスの召喚を頼む。俺は四神を召喚するから」


[Yes,My Master。……顕現しなさい。【全知全能の神】と【冥府の神】]


「それじゃあ……俺も召喚しようかね。【召喚魔法:四神】」


 決闘場に莫大な光が出現し……ゼウス含め従えた神が勢ぞろいした。


『『『『『『ただいま馳せ参じました!!』』』』』』


 ゼウス達はそれぞれ頭を下げた状態で顕現された。

 俺が個人的に呼んでもそんな態度は取らなかった気がするんだが……ソフィアがいるからか?

 いや、今回はいつもと違って重大な仕事だと感じているんだろう。

 ……そうだよな?


「全員に告ぐ。女神による篠田伊吹姫の転移が早まった。本日転移を行うらしい。前回決めた役割に沿ってそれぞれ動いてくれ。何か質問はあるか?」


 俺の言葉に神々は首を横に振った。

 うんうん、作戦をしっかりわかっている証拠だな。

 しかし、念には念を入れたほうがいいだろう。

 俺は神々を近くに集め、大声を張り上げた。


「俺が従えた神々よ!今回の任務は非常に重大なものとなる!転移の影響を二度と受けないようにするのもそうだが……。あろうことか女神は俺の女を犯そうと刺客を送ってきやがった!よって今日この場で女神を討つ!世界の管理?そんなものは知ったことではない!!女神を倒してから考えればいい!!……いいか、失敗は許されない!失敗しようものなら……生きて送還できると思うな!」


『『『『『『Sir,Yes Sirッッ!!!』』』』』』


 俺は殺意を振りまきながら神々に叫ぶ。

 ……全員やる気になってくれたようだ。

 もしサボっていたとしてもソフィアがいるから大丈夫だろう。


『主、意見をよろしいですかな?』


「許そう。どうした?」


 ゼウスが挙手をして俺に発言の許可を求めてきた。

 ……なんか変なノリになりつつあるが……いまさらだろう。


『我は女神に対する囮の予定ですが……レーナ嬢達を襲ったことは正直我慢の限界でしてな……。こっちの世界におびき寄せてもよいですか?』


「……その提案はかなり魅力的だな。よし、許可する!あのくそったれな女神に制裁を与えるためにも、こっちの世界に引きずり出してやれ!!1人で問題ないか?」


『はははッ。低階級の女神程度を我1人で引きずり込むことができねば、ソフィア殿に怒られてしまいますぞ!お任せくだされ!!……ゲホッゲホッ。強く……叩きすぎましたか……』


 ゼウスは力強く自身の胸を叩いた。

 強く叩くのはいいんだが……それでむせてたら台無しだぞ?

 まぁ、ゼウスの強い意志は確認できたので、女神を引きずり出す役目は任せるとしよう。

 こっちの世界に来たら俺が直接手を下せるからな……ッ!


「それじょあ準備を開始しよう。……っと、その前に……【眷属強化】。……よし、四神達は結界の展開を頼む」


『了解した、ご主人。各々、配置につけ!……着いたな……?行くぞ』


『『『『四獣結界!!』』』』


 朱雀を筆頭に四神達が【四獣結界】を展開する。

 毎回結界を張ってもらっているからなのか……発動までがかなりスムーズだ。

 ……白虎がおとなしいのも一因なのかもしれないが。


 結界が展開されたことを確認した俺は、ハーデスの方を向く。

 ハーデスは今回の作戦の要だ。

 絶対に成功してもらわないといけない。


「ハーデス、ハッキングの準備は大丈夫か?お前が失敗したら……伊吹姫が何度も転移されてくる可能性もある。失敗は……許されないぞ?」


『大丈夫だ、ご主人。既にハッキングとウイルスの準備は整っている。ソフィア殿くらいの存在でないと破られることはないはずだ』


 ハーデスは自信ありげにそう宣言した。

 ふむ……ただボーッと立っているだけかと思ったが……。

 しっかり準備は整えていたらしい。

 ただ、しっかり準備をしていますよアピールは完全にソフィアを意識してる気がする。

 チラチラとソフィアの方を見ているしな。


「さて……と。これで準備は整ったな。……って、ニナ。お前は何青ざめた顔をしているんだ」


「いや……こう改めて見ると……あーちゃんを本気にさせた女神はバカだなぁって……」


 丹奈は転移に備えるために俺が召喚した神々を見て、女神に対して呆れているようだった。

 いやいや、向こうが先に仕掛けてきたんだから、俺が今出せる全力で相手をするのは当然だろう?

 やられたらやり返すのは当然のことだと思う。


「旭さん、神々の準備が整ったようです。これでいつ転移してきても安心ですね」


 丹奈に呆れていると、ルミアが俺に話しかけてきた。

 周りを見渡すと……うん、確かに準備が整ったようだ。

 全員やる気に満ちた目をしている。

 ……いや、ハーデスだけは違うな。

 あれはソフィアに怯えている目だ。

 失敗は許されないから仕方ない。


「ルミアの言う通り準備は整ったみたいだな。……ソフィア。転移の歪みを感じたらすぐに報告してくれ。事前に告知があったほうが心に余裕ができるからな」


[了解しました。では、時空の歪みを感じたら報告しますね]


 ソフィアはそう言うと目を閉じて集中し始めた。

 目を閉じていて感知できるのか……?と思ったが、視認できるものではないのかもしれない。

 俺の【長距離転移】とはスケールの大きさが違うしな。


「お兄ちゃん、ゼウスがこっちの世界に女神をおびき寄せたとして……どうやって対処するの?」


  俺がソフィアを眺めていると、いつのまにか隣にきていたリーアが尋ねてきた。

 ちなみにリーアはレーナの頭をなでなでしている。

 レーナを落ち着かせようとしているのかもしれない。


「そうだなぁ……。【大地流砂縛】か【空間固定】で拘束してから……拷問かなぁ?なんで俺の反応を見ようとしたのかとか……俺の異世界転移について知っていることはあるのかとか聞きたいことは多いし。情報を得られなかった場合は……久しぶりに【四肢消失】でも使うか」


「……お兄ちゃんの女神に対する怒りは相当なものだね……。まぁ、私も同じ気持ちなんだけど……。お兄ちゃん、【百鬼夜行】を脅しに使う?妖怪達の中でも見た目がグロテスクなものを呼び出せば、精神的にもダメージを与えられると思うし」


 俺の答えにリーアは嘆息していたが……リーアも女神に対してはかなり怒っているようだ。

【百鬼夜行】の妖怪達を使って女神の精神を破壊しようとしているくらいには怒っている。

 見た目がグロテスクな妖怪か……精神ダメージには適しているんだろうけど……。

 あまりにも見た目がグロいのはレーナのためにならない。

 ……ん?触手ならなんとかなるんじゃないか?


「リーア。妖怪達の中に触手を使う奴はいるか?」


「触手……?一応いるにはいるよ?お兄ちゃん、触手の妖怪をつかうの?」


 俺の言葉に首をかしげるリーア。

 触手を何に使うかわかっていないらしい。

 ……異種姦の同人誌を読んでいないから仕方ないのかもしれない。


「あぁ、女神の身体を拘束した後に役に立つと思ってさ。……ちなみにその妖怪はレーナ達に襲いかかったりしないよな?」


「それについては大丈夫!私の管理下にあるし、私の命令以外では動けないから!もしそうなったとしてもお兄ちゃんが助けてくれるんでしょ?」


 リーアは自身たっぷりにそう答えた。

 ……まぁ、レーナ達がその触手妖怪に襲われたとしてもすぐに助け出すけどさ。

 丹奈は助けるのかって?

 それはレンジの役目であって俺の役目ではない。


「じゃあ、女神を拘束したらその触手妖怪を呼び出してくれ。他の妖怪についてはリーアの判断に任せるよ。……あんまりグロいのは勘弁してくれよな?」


「はーい!」


 リーアは元気よく返事をして俺に抱きついてきた。

 レーナもリーアと一緒に抱きついてくる。

 俺がそんな2人の頭を撫でていた時のことだった。

 目を閉じていたソフィアの両目が開かれた。


[……マスター!!時空の歪みを確認!篠田伊吹姫がこちらの世界に転移してきます!!]


 ソフィアの言葉と同時にゼウスとハーデスが準備を始めた。

 ……いよいよこの時がきたか。

 伊吹姫の転移については……正直どうでもいい。

 ハーデスがハッキングをしっかりかけてくれればもう二度と会うこともないだろうから。


「……待っていろよ、女神。お前を必ず俺の前に引きずり出してやる……ッ!」


 大切なレーナ達に手を出した罪は絶対に許すわけにはいかない。

 俺は時空の歪みを睨みつけながら黒い笑みを浮かべるのだった。

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