第63話 旭は勘違いをする

 叡智さん改めソフィアがうちの嫁達に認められ、俺の新たな嫁となった翌日。


[……旭、起きてください。もう朝ですよ]


 ソフィアの口付けで俺は覚醒する。

 ちなみに、ソフィアはずっと人間の姿で顕現することに決まった。

 ソフィア自身が強く希望したからだ。

 俺にたくさん愛されたいと言うのが理由らしい。

 ……そんな可愛らしいことを言われて何も思わない訳がなく、その後レーナ達と協力してソフィアをとことん気持ちよくした。

 最後の方は呂律が回っていなかったが……気持ちよくなってくれたと思う。


[旭、昨日の事を思い浮かべないでください。……恥ずかしくなってくるじゃないですか]


 そんな事を考えていたら、顔を真っ赤にしたソフィアが恨めしそうに俺を見つめてきた。

 ソフィアは俺の固有スキルだから、俺の内心も手に取るように分かってしまう。

 俺はごめんごめんと言いながら、周りを見渡した。


「……ん?いるのはソフィアだけなのか。他の3人はどうした?」


[ルミアは現在、朝食の準備を行なっております。レーナとリーアの2人は……何故か冒険者ギルドに行きました。行った理由につきましては、旭には内緒にして欲しいと言われたので……私からは言えません]


 俺には言えない理由……?

 まさか……男に会いに行ったのか!?

 ……昨日あんなに愛してると言ってくれたのは……嘘だったのか……!?

 こうしちゃいられない……!

 すぐにあの2人に問い詰めなければ!


「ソフィア!俺は今から2人を探してくる!ルミアには朝食が遅れるかもしれない事を伝えておいてくれ!……【時間遅延】と【赤き鎧】を同時に発動!」


 俺は【透明化】をかけた分身を一体置いて、冒険者ギルドに向かった。

 分身から聞こえてきたのは……


[あの2人に限ってそれはないと思いますよ……って、もう行ってしまいましたか。普段ならあんな勘違いはしないはずなのですが……悪夢でも見たのですかね。……本当なら【叡智のサポート】として付いて行くべきなのでしょうが……マスターから命令を受けましたから、私は命令を遂行するとしましょう。後……旭?恐らくは聞いているのでしょうから通知しておきますよ。【狂愛】と【嫉妬】、【固執】を獲得しました]


 ソフィアの呆れたような……でもどこか愛おしさを含んだ言葉だった。

 そして、新たに3つのスキルを獲得したらしい。

 そんな言葉を頭の隅に置きながら、俺は全力疾走するのだった。


 ▼


【時間遅延】が発動している空間の中、魔力を足に集中させた俺は空中を全速力で駆けていく。

 恐らく俺が通った後は衝撃波が発生してるのではないだろうか?

 ……被害が出ないように空中を駆け抜けてるから許して欲しい。


「レーナとリーアの居場所は……あそこか!!」


 俺は探知魔法を索敵範囲を最大にして、2人の場所を探す。

 街から出たところに2人の反応を見つけた。

 だが、そこには6つの別の反応がある。

 反応からして男みたいだ。

 2が……細かい事は着いた時に気にすればいい。

 俺は心の内側から溢れてくるどす黒い感情を感じながら、さらに速度を上昇させた。


「おい……嬢ちゃん達……本当にいいのか?」


「しつこいなぁ……問題ないって言ってるでしょ?」


「……ッ!?レーナ、上から何か強大なのがくる!」


「「「「「「……え?」」」」」」


 ーーーーズドン!


 俺は男達とレーナとリーアの間に着地する。

 勢いが強すぎて地面にクレーターができてしまったが……それは些細なことだろう。

 何か言い争っていたみたいだが……そんなことは知らん。

 まずは目の前の男達だ。

 かなり汚い身なりをしている。


「……お、おい!いきなり割り込んでくるんじゃねぇ!!今俺達はそこの嬢ちゃん達と話していたんだ!」


「親分、さっさとこいつを処分しやしょう!そしてこの嬢ちゃん達で楽しみましょうぜ!」


「待て待て。見た感じ……こいつはこの嬢ちゃん達の男らしい。こいつの目の前で犯してやったほうが盛り上がると思わねぇか!?」


「「「違いねぇ!!」」」


 親分とやらに話しかけた男の言葉を受けて、周りの男達もギャハハと気味の悪い笑い声を上げている。

 その視線はレーナとリーアに向けられたままだ。

 2人の身体を厭らしい目で舐め回している。


 なんか身なりも汚いし、鉈なんか持ってるし……山賊みたいな奴らだな。

 だけどさ……こいつら今なんて言った?


 俺の目の前でレーナとリーアの2人を犯す……?

 その言葉を脳内で反芻した時……一瞬目の前が真っ暗になるのを感じた。

 続いて湧き上がってくるのは純粋な殺意。


「……決めた。何があったか聞く気も失せた……。お前らはここで……死ね」


「……はぁ!?そんな丸腰の相手が何言ってやがる!お前は今からこの嬢ちゃん達が犯されるのをただ見てればいいんだよ!……って、え?」


 親分らしき男が素っ頓狂な声を上げて隣にいる男を見た。

 隣にいた男は……首から上が消失している。

 話している間に俺が首を飛ばしたのだから当然だろう。


 俺は生首を男達に放り投げて、言葉を続ける。


「……お前ら全員地獄に落としてやる。……【赤き鎧】を発動。それと同時に……顕現せよ【冥府のハーデス】」


 俺は怒りに身を任せ、ハーデスの召喚を行う。

 ちなみにハーデスを召喚するのは今回が初だ。

 召喚魔法の光から出てきたのは俺と同じくらいの身長の男だった。

 漆黒のマントをつけて周りの景色を眺めている。

 ハーデスは冥府の神なので本来ならば試練が必要なのだが……。


『……我を呼び出したのはお前か……。人間が冥界の王を召喚するなんぞ今までにないぞ?……我を従えたいなら試練をt「…………あ゛ぁ゛!?」……すまない、我が悪かった。ご主人と認めるからその鬼気迫る視線を我に向けないでくれ』


 俺はハーデスをひと睨みして試練をスキップさせた。

 ……そんなに鬼気迫る表情をしていたか?確かに今の俺は怒りのボルテージがMAXだが……。

 ……後で話だけは聞いてやるとしよう。

 今はとにかくこいつらを殺さないと。



「ハーデス、冥府の王たるお前なら魂の管理とかもしているんだろ?」


『そうだな。人間界で死んだものは冥界に流れ着き、そこで我が輪廻転生を管理している。それがどうかしたのか?』


「……今からここにいる5人の屑を殺す。その魂を永遠に地獄に束縛してもらいたい。……できるよな?」


『……本来ならばそのような事は規約違反なのだが……。わかったわかった。規格外なご主人の言うことだ。今回は特別にそのような措置を取ろう。何か言われたらカバーしてくれよ?』


「それについては問題ない。【叡智のサポート】のソフィアがいる。何も言われることはないだろうさ」


『……まさか【叡智のサポート】まで味方につけているとはな。……了解した。そこの男達の魂の束縛については我に任せよ』


「頼んだ」


 ……よし、男達に対する罰は決まった。

 後は……1秒でも早くこいつらを殺すだけだな。


「……パパかなり怒ってない……?リーア……内緒にしていたことを話さないとやばいんじゃ……」


「……多分その予想は当たってると思う……。だって……今のお兄ちゃん……【狂愛】と【嫉妬】を使用しているもの。……うん。あの男達が始末されたら2人でしっかり謝ろう?」


「そうだね……許してくれるかなぁ……」


 俺の後ろで2人のそんな声が聞こえる。

 2人を傷つけることは絶対にないが……俺に内緒で行動していたことにショックを受けたのも事実だ。

 後でどう言うことなのかをしっかり問い詰めなければ。


「……お、おい。あの男……かなりやばい人間なんじゃないか?」


「あんな召喚魔法……見たこともねぇぞ……?親分、ここは引きましょう!こいつは……俺らが勝てる相手じゃねぇ!」


「それもそうだな……。おい、お前ら!命からがらでもいいから全速力で逃げろ!生き延びろよ……!」


 子分の言葉を受けた親分とやらは、部下に指示を出して逃亡を図った。

 まとめて逃げるのではなく、四方に散らばっての逃走だ。

 逃げる時にいつも使っている手段なのだろう。

 だが、それはにしか効果はない。

 特に俺のようなチートの塊には効果なんてあってないようなものだ。


「……逃すと思うか?【魔力分身×10】の使用を開始、同時に意識の統一を本体に固定する。……塵も残さずに消し去ってやる……ッ!」


 俺は分身をツーマンセルでそれぞれ男達を追いかけさせる。

【赤き鎧】を使用したままなので、男達の敏捷では逃げることすら叶わない。

【時間遅延】を使用しても良かったが……こんな底辺野郎に使うのはもったいないと言うものだろう。

 分身を解き放って30秒後には俺の前に男達が戻ってきていた。

 ちなみにまだ殺してはいない。


「くそっ!なんなんだよ!なんでこんな化け物がこの街にいるんだよ!」


「俺達はただ……か弱そうな幼女エルフとお楽しみになりたかっただけなのによ!」


 男どもは口々に文句を言っているが……なんでこうなっているのか理解できていないようだ。

 俺は凍てつくような視線を男どもに向け、冷たく言い放つ。


「俺の女に手を出そうとした時点で生きてる価値はないんだよ」


「ま、まて!あれだ!俺らが奪った金を全部やる!!それで見逃してはくれないか!?お前は大金が手に入る。俺らは生きて帰れる。WIN-WINじゃねぇか!?」


 親分らしき人物が見苦しくもそんな説得をしてきた。

 ……そんなもんで俺が動くと思ってんのか?

 あまり俺を舐めないで欲しいものだ。


「俺の女に近づいておいて金で解決だと……?金なんざお前達を殺してから報酬金として貰えばいいだけだ。……言いたいことはそれだけか?」


「……ひぃぃぃ!」


 俺は真っ赤に光る手を男達に向ける。

 分身達も同じ動作をしている。

 今からこいつらを……塵も残さずに消す。

 本当ならソフィアに魔法を調べてもらうところだが……今は家に待機させているから俺が選ばなければ。

 ……いいや、【終焉の極光】で消し炭にしよう。


 そう思って魔法を唱えようとした瞬間だった。


「……パパ待って!」


「お兄ちゃん、話を聞いて!!」


 レーナとリーアが俺の両手を抱きしめて妨害をしてきた。

 ……なんでこんな男達をかばうんだ……?

 まさか……もう……?


「レーナ、リーア。そこを退きなさい。……2人に性的なことをしたこいつらは生かしておく必要がない」


「されてないから!パパを愛しているのにそんなことするわけないでしょ!!」


「そうだよ、お兄ちゃん!私達が体を許すのはお兄ちゃんだけなんだから!とりあえず、消し炭にする前に私達の話を聞いて!!」


 ……レーナとリーアは全力で俺に抱きついてくる。

 あれ……なんでそんなにも必死なんだ?

 俺は男達を拘束した状態を維持しつつ、2人に問いかける。


「ソフィアには2人から俺には内緒にしておくようにって言われたんだが」


「「それは……その……」」


 2人はそこまで言って、大きく頷いた。


「「パパお兄ちゃんにプレゼントを買ってあげようと思って、お金を得るために山賊狩りをしようとしていたの!!」」


「……はい?」


 呆気にとられる俺をスルーして、2人は早口で捲したてる。


「だってだって!Aランク冒険者の[マスターガーディアン]にも余裕で勝てるんだから山賊くらい余裕だと思うじゃん!パパにはいつも愛してもらっているから、わたし達も何かプレゼントしたかったの!」


「レーナの言う通りだよ!それにお兄ちゃんは私をダマスクから救ってくれたんだよ!?それだけでも返しきれない恩があるのに、こんなにも強く愛してくれるんだもの!たまにはプレゼントをして喜ばせたいじゃない!」


 ……と言うことはあれか?

 俺の勘違い……?

 そういえば、ソフィアも他の男に会いに言ったなんて一言も言ってなかったような……。

 誤解だったと理解した俺はその場に座り込んでしまった。


「……はぁぁぁ……。なんだよ……俺の勘違いだったのかよ……恥ずかしいなぁ……」


 深くため息を吐く俺に対して、レーナとリーアはひしっと抱きついてきた。

 碧眼と赤眼の両方の瞳には涙が滲んでいる。


「ごめんね……ごめんね……ッ!サプライズで渡して驚かせたかったの……!!パパを嫌いになったとかではないから許してぇ……」


「お兄ちゃん……黙って冒険者ギルドに行ったのはごめんなさい……。でも……どうしても私達もお兄ちゃんにプレゼントをあげたかったの……!」


「……うん、俺も勘違いしてごめん。2人の愛を疑うようなことをしてしまった。でも、今度からは一緒に行こうな?……2人がいないのは寂しいんだ」


 俺は2人を強く抱きしめる。

 言葉が涙交じりになってしまったのは……仕方ないだろう。

 俺はこんなにも愛してくれる2人がNTRれたと勘違いして、暴走してしまったのだから。


「「……グスッ……。うわぁぁぁん……!!」」


 俺の言葉を聞いた2人は大声をあげて泣き始めてしまった。

 そんな2人の頭を撫でながら俺はひたすら抱きしめる。

 絶対に離すもんか……!と強く誓いながら。


「……あのー……俺達はどうなるんですかね……?」


『……シッ!静かにせんか!ご主人達の邪魔をするでないわ!』


「……フベェッ!!?」


 ハーデスの方からそんな言葉が聞こえたが……今しばらく待ってくれ。

 今レーナとリーアの愛をこの身に刻み込んでいるところだから。

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