第62話 幕間の物語−???の目論見−
ーーーー[第三者視点]ーーーー
「あー……次はどんな手を使おうかなぁ」
異世界アマリスのとある時空の狭間。
その空間に1人座っていたとある人物が退屈そうにそう呟いた。
退屈そうに呟いている者の名は……『???』。
……?
名前が表示されない。
『???』……『???』……『???』……。
「あー……何私の名前をバラそうとしているのかなぁ?勝手に私の名前をバラさないでくれない?私は可憐な女神様なの!……理解した?」
その人物は突然空中に向かって話し始めた。
と言うか……第三者視点に突っ込むのはやめてもらえますかね。
とりあえず『女神』と表記することにしよう。
「うーん……。神に対して「様」をつけないのは、本来不敬なんだけど……仕方ない。今回はそれで我慢してあげるよ。名前をバラされるのは阻止できたからね。大体、私の名前が今わかってしまったら話がつまらなくなっちゃうでしょ?」
可憐な女神様とやらは何やらメタ発言をしながらそんなことを言い始めた。
最終的に女神で納得したからよしとする。
その女神様とやらはまた思案顔になった。
「さてと……旭君が転移される前に、転移させておいた丹奈ちゃんは負けちゃったし……。次はどうしようかなぁ」
どうやら笹原丹奈は旭が転移される前に、女神が《アマリス》に送り込んだらしい。
旭が転移されるのは5ヶ月前から決まっていた事実のようだ。
ただ、旭を転移させるのはこの女神の仕事ではないらしい。
「まさか旭君があそこまで規格外の能力を持っているとはね……。丹奈ちゃんのパーティメンバーもその筋で結構強いイケメンが来るように調整したんだけどなぁ……。旭君の【成長促進】の効果が強すぎるんだよ……。まさかヒロインまでチートになるなんて……聞いてないよ!」
丹奈のパーティメンバーも女神が斡旋した者達だったらしい。
そんなイケメン達は女神の思惑など知らずに、丹奈を愛してしまっているのだが。
神ですら知り得ない旭の実力は……たしかに規格外なのかもしれない。
「じゃあ〜……今度は篠田伊吹姫ちゃんでも転移させてみようかなぁ?あの子なら旭君の面白い反応を引き出してくれるっしょ。丹奈ちゃんに伝えた時はまだ決定じゃなかったけど……やっぱりあの子を転移させた方が面白そうだし!」
旭の面白い反応を見たいから異世界に転移させる。
女神が言いたいのはそういうことらしい。
傍迷惑な神もいたものだ。
……いや、神というのはそういう存在なのかもしれない。
悠久の時を生きる彼らにとって人間はいい暇つぶしなのだろう。
女神はパァァっと表情を輝かせて、パンと両手を叩いた。
「そうだ!どうせならなるべく早く転移させようかな!?転移先は〜今旭君がいるウダルの街でいっか。あそこの決闘場?に転移させれば問題ないっしょ!そうと決まれば……準備を進めないとねぇ。今から準備すれば……2週間以内には転移させられるかなぁ」
どうやら早く旭の驚く顔が見たいらしい。
ウキウキと転移の準備を始める女神だったが、ふと虚を突かれたような表情に変わった。
「……人が楽しく準備してるのに誰よ……って丹奈ちゃんか!やっほー!旭君に負けたみたいだけど大丈夫?死んでない?」
連絡してきたのは笹原丹奈だったようだ。
最初は不機嫌だった女神だったが、相手が丹奈だとわかった途端に笑顔に変わる。
転移させた以降も連絡を取り合っているみたいである。
神と人間がここまで親しくしているのは珍しいことだと思う。
最後の一言で台無しな気がしなくもないのだが。
「なになに、どうしたの?……え?篠田伊吹姫ちゃんを転移させるのはいつか旭君が知りたいって?ちょっと!?なんで旭君にそのことをバラしてるの!サプライズで転移させるつもりだったのに!……仕方ないか。大丈夫、怒ってはいないよ。そんな些細なことで怒るほど神の器量は狭くはないから!そうだなぁ……今準備を始めたところだから2週間後かな。今丹奈ちゃんがいるウダルの街に転移させる予定でいるよ」
どうやら丹奈は旭に伊吹姫が転移されてくることを話してしまったらしい。
一瞬語気が強くなる女神だったが、そんなことで怒っては友達失格だよね!と言わんばかりに丹奈に足して言い訳をしていた。
神と人間が友達になるなんて珍しいことm(省略)。
「はぁ……まさか丹奈ちゃんが旭君にバラしてしまうなんてねぇ……。まぁ、勝負に負けていたから仕方ないのかもしれないな。さーてと、2週間後までに転移させるためにも、女神様頑張っちゃうよー!?」
丹奈との連絡を終えた女神はため息をついていたが、すぐに笑顔になった。
バレたとしても問題はないと思ったのだろう。
現在はとても楽しそうに転移に関する準備をしている。
篠田伊吹姫の現在住んでいる場所、家族構成、1人になる時間……etc.
思わず個人情報はどうしたと言いたくなるが……そんなものは神には存在しない。
女神はそんな情報を集めながら、ひたすら笑みを浮かべていた。
はたから見たらかなり気持ちが悪い。
▼
女神が篠田伊吹姫に行う転移の準備を開始してから、数時間後。
楽しそうに準備をしていた女神はハッと顔を上げ、周りをキョロキョロと見渡し始めた。
「…………この感じ……鑑定されてる?……時空の狭間にいるこの私に鑑定……?旭君が攻めてきた……?いや、いやいや。それはないはず。丹奈ちゃんにもこの場所は伝えていないし。……じゃあ誰が?と、とりあえずレジストしておこう。ふ……ふふふ。この女神様のステータスを覗き見ようだなんていい度胸してるじゃない!」
ーーーー[生意気にも抵抗してきましたか。低階級の女神に告げます。大人しく抵抗をやめて鑑定を受け入れなさい。さもなくば大変なことになりますよ]
時空の狭間に別の女性の声が響き渡る。
その声は無機質ながら、どこか苛立ちを感じている様子が感じ取れた。
この作業を早く終わらせてさっさと帰りたい……そんな感じだ。
「……いきなりステータスを鑑定されたら抵抗するのは当たり前でしょ!?っていうか、なんで私が低階級の女神だって知っているのよ!大体姿を見せないくせに女神に対して偉そうなこと言わないでくれない!?」
低階級と言われたことに腹を立てた女神は、声を発しているそれに対して叫ぶ。
それにしても、あんなに偉そうなことを言っていても低階級だとは……。
だから口調が軽いのかもしれない。
ーーーー[どちらが上級の存在か理解していないのですね。……いいでしょう。これでどうですか]
再び無機質な声が響き渡ると同時に、1人の女性が空間に現れた。
その女性はピンクの髪で巫女服を着ていた。
女神はその女性を見て、呆然としている。
「…………誰よ貴女?」
女神の質問に女性は肩をすくめてやれやれと呟く。
その動作に青筋を浮かべる女神だったが、女性が話し始めたのでなんとか怒鳴るのを抑えた。
ーーーー[私は【叡智のサポート】。今は響谷旭の固有スキルです]
「なんで固有スキルが私の目の前に……って、【叡智のサポート】!?最上級の神ですら相手にできないと言われている!?なんでそんなもんが旭君のスキルなんてやっているのよ!」
【叡智のサポート】はすごい人物?だったらしい。
神ですら反論できないというのはもはやスキルの枠に収まらないと思うのだが……。
そんな【叡智のサポート】は女神の言葉を聞いた途端、とてつもない殺意を女神に浴びせる。
その殺意は旭のヒロイン達がよく使っている【狂愛】のものと類似していた。
彼女もヤンデレの素質があるらしい。
ーーーー[最上級の存在と判明したのにも関わらずタメ口ですか……?いいから早くステータスを鑑定させなさい。貴女と話しているこの時間ですら惜しいのです]
「……なんなのよ!なんで貴女も旭君の女の子達みたいにヤンデレになっているのよ……!」
女神の言うことは至極もっともだ。
【叡智のサポート】は旭の支援という形に徹してきた。
通常ならばヤンデレに覚醒するはずがない。
そう思っての叫びだった。
それに対する【叡智のサポート】の答えは至極簡単なものだった。
ーーーー[そんなの……私が旭を好きになった以外に理由がいりますか?]
「……絶対におかしいでしょぉっ!?神よりも上位の存在の貴女が1人の人間に恋をするなんて聞いたことがないわよ!!」
女神は髪をブンブン振り回して、ありえない!と叫び続けている。
その様子を見て、話が一向に進まないことを理解した【叡智のサポート】は1つため息をついた。
先ほどと打って変わって、顔から感情が抜け落ちている。
ーーーー[……時間がないって言っているでしょう?さっさとステータスを鑑定させなさい。3度目はありません。もし抵抗する場合は……貴女の身柄を旭の目の前に連れて行き、その存在を消滅させます。……正直旭の事を思うのなら、そうした方が喜んでくれそうですが]
「待って待って待って!!!!本気!?本気なの!?そんなことしたらこの世界を管理するのは誰がやるの!?」
【叡智のサポート】が言ったことは実際に行動に移しそうだと察知した女神は慌て始めた。
神と言えども不死の存在ではない。
ステータスが見れる事からもそれがわかるというものだろう。
だからこそ、旭の前に連れていかれて消滅させられるという脅しは、女神にはよく効いた。
しかし、女神も一応とは言えどもアマリスを管理するという役職についている。
なので、この世界の管理者として慌てたのだが……。
ーーーー[そんなのは私と旭でどうにかなりますよ。最悪【全知全能の神】もいますし、問題はないでしょう]
「……そんなことでゼウスを使うのは後にも先にも君たちだけだよ……」
【叡智のサポート】はそんな事全く問題ないかのように淡々と事実を女神に伝える。
そこで引き合いに出されるゼウスは可哀想ではあるが……。
本人が聞いたら卒倒してしまうだろう。
ーーーー[……で?貴女は大人しくステータスを鑑定させてくれるのですか?それとも消滅しますか?]
「わかりました!ステータスならいくらでも見てもいいから、消滅させないでください!!」
……女神の心が折れた瞬間だった。
ようやく抵抗がなくなったのを確認した【叡智のサポート】は深くため息をつく。
ーーーー[……初めからそうしていればいいのに。貴女のせいで旭に愛してもらう時間が減ってしまったじゃないですか。存分に愛してもらえなかったら……その時は覚悟しておくように。旭の手を煩わせず……貴女を消します]
そう言って【叡智のサポート】は姿を消す。
姿が消えたことと鑑定されている感覚がなくなったことを確認した女神は、ぺたんとその場に座り込んでしまった。
「旭くんに存分に愛してもらえなかったら覚悟しろって……。……そんなの……完全な八つ当たりじゃないのよぉぉぉっ!!」
時空の狭間に女神の涙交じりの叫び声が響き渡る。
なんでこうなったんだ!!私が悪いの!?素直に鑑定されていればよかったの!?と駄々をこねる子供のように叫び続けている女神。
しかし、その空間には女神しか存在しない。
1人で叫び続けている姿はなかなかにシュールだ。
「……ぐすっ。そこの貴方!!何を傍観しているの!可憐な女の子が1人泣いているんだから慰めなさいよ!!」
……だから第三者視点に話しかけてこないでくれますかね?
さっさと役目を終えるとしよう。
「え……ちょっとまって。私が悪かったから、いなくならないで!うそ……本気?ごめんなさいごめんなさい!!」
女神はその場に座ってわんわんと泣き始めた。
ーーーその頃、【叡智のサポート】改めソフィアからその話を聞いた旭達は……。
「ソフィア……ただのスキルではないと思っていたけど……上級の神より偉いってやばくないか?」
「パパ、それどころじゃないと思う。ソフィアお姉ちゃんを敵に回したら絶対に勝てないよ……これ」
「えっと……ソフィアさん?まさかとは思うけど、お兄ちゃんの敵になったりはしないよね……?」
[大丈夫ですよ、リーア。私が旭の敵になることなんて、万が一にもありえません。こんなに愛しい人を裏切りたくありませんから]
「レーナさん、リーアさん。こう言っていることですし、大丈夫ではないでしょうか?ソフィアさんの気持ちはよくわかりますから」
ソフィアの真実に驚きつつも、敵にならないことに対して深く安堵していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます