観賞用にも堪えがたい
「謝って謝って謝ってそれで済まされることだとは思ってない、おまえの痛みはいかほどだったかなどと俺には言う資格さえ、ないっ、ないさ、わかっている承知してるよそんなこと、それでもリンネ・フェスティバル――おまえならわかってくれるかだなんて、ああ、そんなのだって俺の甘ったれか、帝国のせいじゃない、俺の王国のせいでも、ない、だったらなんのため、なんのせい……」
情けなく消えゆく、声、まるで泣きそうで、俺が、この俺が、優秀で忠実な聖騎士として聖騎士団で名を馳せた、俺が、こんな醜態――ああしかもいま目の前にいる相手は、マリーですらない、ん、だ、
「おまえと俺は、おまえと俺は、おまえと俺はな、――おんなじだろ、う、」
「馬鹿。きさまごときといっしょにするな」
リンネは――冷徹な顔をしていた。
帝国の人間に、……帝国科学者に、ふさわしく。
「おんなじだあ? なにがだよ。きさまと私が、おんなじだって?」
「そう、だ……」
「――きさまの王国には紅い花が咲くのか? 咲かないだろう。ルーン王国の花は寒色だと聞いている」
「だ、から、謝るからっ――」
帝国科学者は、ふわりと、
哀しそうに、
笑った、
「いまさら謝ったところでどうしようもないのがわからないのか?」
……その顔は不覚にも、きれいで。輝いていて。
「では尋ねるがな王国の騎士よ、私に悪い悪い申しわけないと思うなら、なにができる、きさまは私になにを与えることができる? 供給することが――って、そちらの地方にはまだここまで経済学の概念がないのか、うーん、そんだったら、いやそんなことはどうでもよくて――きさま、私に、なにかをくれるのかよ?」
「なにかって……なんだよ……なにを用意すればいいんだ、俺にできることならなんでも、」
「だったらマリー・ローズをおくれよ」
「……無理だ! それは……」
「……ほら。無理だろう?」
帝国科学者リンネの――東方の少女とまるでそっくりな瞳は、うつむく。
笑顔でいて、それでいて、苦しそうで。
「……頼むよ。いまさら、参ってしまうのだ。……愛された人間も愛する人間も嫌いだ。そんな人間、……僕はいらない。そんなの、ホルマリン漬けにする価値さえ、ない、飾っときたくもないよ、観賞用にも堪えがたい……」
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