十二ノ巻 覚醒スル、魂(五)
憑鉧神の放ったビームが
大地を打つ光の柱。吹き飛ばされた土砂が盛大に土煙をあげた。
憑鉧神は油断しなかった。もうもうと立ちこめる黒煙に向かって更にビームを撃つ。
スザクストリートは濃灰色の闇で塗り潰される。
だが、風が土砂のカーテンを引き裂いたとき、そこに深紅のMFの姿はなかった。
あまりの熱量に、着弾する前に蒸発したか。
否。
「消えた……!?」
式神ドローンを経由し戦いを見守っていたハルアキラが、呆然と口を開ける。
知らぬ間に握った拳には、汗が滲んでいた。
陰陽師は見た。
ビームが直撃する寸前、
前触れさえなかったので、今まで見えていたのが幻だったのではと錯覚してしまいそうだった。
獲物を見失った憑鉧神が足を止める。
その瞬間、深紅の影が現れた。
消える前と同じ位置、同じポーズ。
「……
ハルアキラの思念は興奮と感動で揺れていた。
さらにはそこからの帰還も果たした。
完全幽体化を成し遂げた者は、キョートピア、いやヘイアンティス史上を見てもわずか数名しかない。
それが今、目の前で行われた。
「すごいですぞ、素晴らしいですぞショウゴロウ君! 君なら、
ハルアキラは新たにドローンを送り込み、先の1体が録画した映像を再生した。
しかし、こういう現象を記録した場合によくあることだが、録画には失敗していた。
砂嵐だけが映る画面。
失望のあまりハルアキラは奇声をあげて髪をかきむしった。
陰陽博士の苦悶に関係なく、戦闘は続行されていた。
『
Gレイヴンはついに発射準備を整えた。
将吾郎の網膜に照準が映し出される。
照準中央に表示された十字と、接近してくる憑鉧神が重なる。
「吹っ飛べぇっ!」
将吾郎の攻撃意思が、トリガーを引いた。
目も眩むような閃光が、Gレイヴンの砲口から迸る。
圧縮加熱され、加速されて撃ち出されたシャーマニュウムの怒濤。
それは高熱高圧の光の巨柱となって憑鉧神を直撃する。
発射と同時に、銃身後方のブースターノズルがジェット噴射で反動を相殺する。
それでも
倒れまいとする機体がみしみしと悲鳴をあげた。
「くっ……!」
あまりの光量に、限界まで明度を下げたモニターさえホワイトアウト。
将吾郎の視界までもが白に塗り潰される。
ビリビリと空気が震え、息もつけない。
途切れそうになる意識を繋ぎ止めたのは、しがみついてくるポンテの握力と体温だった。
将吾郎は半ば無意識にポンテの肩に手を当てる。
そして。
エネルギーの放出が終わり、視力が回復したとき。
目の前には、胴体を円形にくっきりとくり抜かれた憑鉧神の骸があった。
「嘘でしょ……」
ポンテが震える声で呟く。
「こいつは……強力すぎる……」
「…………」
精根尽き果てたように、ガックリと膝をつく
Gレイヴンの銃身カバーが展開。
内部にこもった熱が、白煙となって勢いよく吐き出されていく。
ぱらり、と憑鉧神の亡骸の上を鉄屑が転がり落ちた。
それを呼び水として、全体に崩壊が広がっていく。
「――あ」
鋼鉄で構成される悪霊の、唯一生物的に見える部分――眼球が露出。
その瞬間、将吾郎と憑鉧神の視線が交差する。
――どうして。
その目は、パワーショベルの憑鉧神と同じ問いかけを将吾郎に投げかけていた。
――どうして? 私にこうしろって言ったのは、あなたたちなのに。
憑鉧神も、原理的には式神と同じものである。
彼らは人間の要求を忠実に果たしているに過ぎない。
日々の退屈さや窮屈さに悲鳴をあげ、いっそすべてがなくなってしまえば楽になれるのではという、人々の破壊衝動を代行しているだけだ。
特に誰のものでもない、この街に住む人間すべての、負の総意。
――そうしてくれと言ったから、壊そうとしたのに、どうして邪魔するのか。
――どうしてあなたたちの味方である私を滅ぼそうとするのか。
戸惑い、怨み、悲嘆、純粋な疑問――そんな感情を混ぜ合わせた目は、すぐに瓦礫に押し潰されて見えなくなった。
「……ごめんな」
将吾郎の目からは涙が溢れる。
尽くした相手に尽くしていたことさえ認識されず、手酷く拒絶される。
そんな姿が、我が身に重なった。
「僕にはまだ、おまえたちまで助ける力が、ない……」
将吾郎は背もたれに身を預けた。
目眩がする。
Gレイヴンの使用と本能的にやった完全幽体化が、将吾郎の心身を大きく消耗させていた。
だが、休んでいる暇は与えられない。
レーダー式神が、
KBCのMF使いだ。
武者型2機、足軽型4機。いずれもまだ半幽体化さえできない三流以下の武士だったが、置物同然と化した今の
「どうする、ショウゴロウ……?」
次々に着地を果たす敵影に、ポンテが怯えた声をあげる。
街から1歩も出られぬうちに取り押さえられてしまうのか。
憑鉧神を討とうとしたばかりに。
MFだけでなく、
その中から束帯姿の貴族が1人、歩み出てきた。
ミチナガだった。
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