第23話・幸運の始まり
燻製がいい感じに仕上がる頃、俺はもう何箱目になるかわからないほどの木箱を抱えていた。
出るわ出るわ………これが全部、鉱石なのか。なんで土の下から出てくるかわからんが、ここは畑としては全く使えない。やれやれ。
「ねぇルナ、やっぱりあんたは幸運の女神ね」
「にゃは~」
「ふふ、いい子いい子」
「おい………ルナもいいけど少しは手伝えよ」
「えぇ~、今日は疲れたわよ、水浴びしたーい」
「家の裏の川でしろよ。その前に、少しはこっちの手伝いしろっての」
「あんたね……か弱い女神の私に、石運びなんてさせるつもり?」
「か弱いヤツは中型魔獣を一撃で倒したりしないっつーのっ!!」
アテナはしぶしぶ手伝い始めた。
とりあえず、掘り出した鉱石を箱に詰め、家の隅に置いておく。
どうやら貴重な鉱石らしいから、これからの作業の足しになるかもしれないからな。
「なぁ、ルナって……」
「ふっふっふ。これがルナの幸運の力よ。私が戦いと断罪を司るように、この子は愛と幸運を司るの。アローはルナに好かれてるみたいだし、きっとこれからたくさんの幸運が訪れるわよ!!」
「へぇ~……まだ実感がわかないな。だっていくら石が出てこようが身体はヘトヘトだ。これが幸運ってんなら割に合わない……」
「ま、幸運はまだ始まったばかりよ。期待してなさい」
「はいはい………お、戻ってきた」
ジガンさん、ドンガンさん、そしてゴン爺がやってきた。
********************
ゴン爺は箱に放り込まれた鉱石を見て、ひたすら眉をひそめていた。
「うぅむ、まさか……」
「ああ。これで鉱石不足が一気に解決だ。武器も新調出来るし、農具や家屋の補強も出来る……カッカッカ!! こりゃ忙しくなるぜ!!」
「うむ。だがラゴス一家は何故にこのことを……」
「……真相は不明だな。家族は全員魔獣にやられたからな。聞き出そうにもどうしようもない」
「まぁいい。アローよ、この鉱石だが」
「ええと、よくわかりませんがどうぞ。まだまだ出てきますんで、発掘は続けます」
「頼む。これだけの貴重な鉱石……この集落だけでなく、取引にも使えるかもしれんのぅ」
「ゴン爺、それは……」
「うむ。ワシらも取引に乗り出す時が来たかもしれん」
何を言ってるのかわからんが、とにかく俺は発掘作業に取りかかろう。
大人3人が難しい話をしてるのを尻目に、俺はひたすら鉱石を掘り出し木箱に入れる。
「はぁ……ホンットキリが無い。なぁアテナ、これもルナのおかげなのか?」
「そーよ。この子は幸運を引き寄せる性質があるの。神である私に恩恵はないけど、人間であるあんたには効果バツグンよ。残りの人生、ハッピーが約束されたようなもんね」
「ハッピーねぇ……」
「まぁ、私たちもあんたに付き合うわ。この身体の寿命は人間と同じだし、あんたはルナに好かれてるしね」
「そりゃどーも。俺も嬉しいよ」
アテナはともかくルナは可愛い。
なんか癒やされる。無邪気な笑顔が、俺の心を癒やしてくれる。
「アロー、いいか?」
「あ、はい。ジガンさん」
俺はジガンさんたちの元へ。なにやら難しい話をしてたけど。
「明日からこの土地一帯を発掘しようと思う。お前も手伝ってくれ」
「もちろん、でも……これは数日じゃ終わらないと思いますよ?」
「わかってる。ドンガンだけでは鍛冶の手が足りんし、発掘にも人数がいる。そこで……ここから最も近い集落に、応援を要請することになった」
「応援……でも、交流はないんじゃ?」
「そう、今まではなかったが……交流の時が来た」
「おぉ……」
「そこで、お前を使者として送りたい。もちろん護衛と案内は」
「はいはーーいっ!! 私が行くっ!! 私とアローとルナで行きまーーーっす!!」
いきなりのアテナに、俺もジガンさんも驚いた。
「おいアテナ」
「何よ。私の強さは知ってるでしょ? この集落の誰より強いわよ。何なら……試す?」
ジガンさんに向けて、強烈な笑みを浮かべる。
さすがに俺もビビった。それくらいアテナから何かを感じた。
「……いや、やめておこう。それに言われずとも、キミを護衛にするつもりだ」
「いやっふーーーッ!!」
「こいつ……」
調子乗りすぎだろ……いつか痛い目に遭いそうだ。
「あの、俺でいいんですか……?」
「ああ。不思議だが……お前じゃないといけない気がしてな。これはゴン爺とドンガンも同意した。それにお前はマリウス領の領主だろう?」
「あ……」
冗談だろうか、でも……ジガンさんは笑ってる。
これは期待だ。きっと俺に重要な役目を任せてくれようとしてる。
「食料と地図はこちらで用意する。アロー、頼んだぞ」
「……はい!!」
集落に来て1日なのに……忙しくなりそうだ。
**********************
こうして俺は、集落の代表として近隣の集落へ向かうことになった。
護衛はアテナ。ルナは連れて行くのは難しいと感じたが……アテナがどうしても連れて行くと言うことと、俺から離れると大泣きするという理由から連れて行くことになった。
ここから最も近い集落まで徒歩で9日ほど。川沿いを伝って進むルートだ。
当然、魔獣の心配はある…………わけないか。
「ま、私がいるからね」
「はいはい。頼りにしてるよ女神さま」
「あぅあ~」
食料もたっぷりカバンに入れ、ルナの食事も保存が利く物をたっぷりとカバンに詰めた。
ローザさんから赤ちゃんの注意事項を聞き、俺と密着するようなおんぶ紐も作って貰った。
準備はバッチリ、そして出発の日。
「アロー、この書状をもっていけ。向こうの集落の長に見せろ」
「わかりました」
いくつかの鉱石と書状を持ち、準備は完了。
「気をつけていけ、アロー」
「ジガンさん……行ってきます」
「アテナ、アローをお願いね」
「まっかせなさいローザ、私が居れば問題ナシ!!」
「いってらっしゃい、ルナ」
「あうぅ」
ジガンさん一家に見送られ、俺たちは出発した。
これから9日間、3人でマリウス領を歩く。
この時はまだ分からなかったな……この集落に戻ってくるのが、かなり後の事になるなんて。
マリウス領を巡る旅は、ここから始まった。
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