第21話・仕事

 

 女神だの何だのは全て置いて、まずはアテナを紹介するためにジガンさんの元へ。

 ルナはアテナが抱っこしてる。今はスヤスヤと眠ってる。


 「ねーアロー、ルナの抱っこ替わってよー」

 「あのな、お前が保護者だろうが。しっかり面倒見ろよ」

 「えー、だってさ、ルナはあんたに懐いてるわよ? ほら」

 「え」


 いつの間にルナは起きたのか、俺に向かって手を伸ばしてる。

 俺は仕方なく手を伸ばし、ルナのちっちゃな手に触れた。


 「きゃは、きゃは~」

 「……はぁ、全く」


 不思議と癒やされる。 

 俺はルナの手を握り、優しくほっぺをプニプニして遊ぶ。

 

 「ほ~ら、どう見ても私よりあんたに懐いてるじゃない。はいこうかーん」

 「お、おい!? ったく……」

 「あぅ?」


 ルナを抱っこし、仕方なくそのまま歩き出す。

 目的地はジガンさんの家だ。距離的に近いし、散歩がてらゆっくり歩く。

 まさか集落に来て早々、赤ちゃんを抱っこして歩くことになるとは。しかも連れは女神とか言ってる妙な女の子だし、人生わからんな。


 「ねぇアロー、さっきのオオトカゲってさ、食べれないかなぁ?」

 「……知らん。それに、もう他の魔獣たちのエサになってると思うぞ」

 「そっかー、残念ねぇ、まぁまた狩ればいっか」



 ホント、なんでこんなことになってるんだろう。



 **********************



 俺とアテナはジガンさんの家に到着し、俺はドアをノックする。

 すると、ローザさんが出迎えてくれた。


 「はーい、って………」

 「こ、こんにちは。その……ジガンさん居ますか?」

 「ふふ、可愛い赤ちゃんねぇ。アローくん、奥さんが居たのかしら?」

 「断じて違います。その辺も説明したいんで、その」

 「はいはい、どうぞ」


 ローザさんは苦笑しながら入れてくれた。

 どうも勘違いされてる気がするが、とりあえずジガンさんにこれからのこと、それとアテナたちのことを説明しないと。

 すると、ジガンさんはレナちゃんに何かを教えていた。どうやら文字の書き方を教えてるようだ。


 「あ、おにーちゃんだ」

 「………」


 ジガンさんは無言で俺を見つめた。その気持ちはわかります。俺だってワケわかんないんです。


 「………説明しろ」

 「はい………」

 「ふぁ……ねぇアロー、話が終わったら狩りに出かけない? でっかい大型魔獣を狩って食べましょうよ!!」

 「お前ちょっと黙ってろ!?」

 


 俺はアテナを黙らせ、ジガンさんに事情を話した。



 **********************

 


 俺はジガンさんに、アテナとの出会いを説明した。

 女神云々は置いて、取りあえず迷子と言うことにして、俺の家で保護したということにする。

 そして、これからのことを話した。


 「ジガンさん、俺は復讐を忘れません。だけど……まずは、このマリウス領で生活します。生きて力を付けて、いつかセーレ領を取り返したい」

 「そうか……それがお前の答えならそれでいい。では、まずは何から始める?」

 「それは……」


 全く思い浮かばない。生きるためには食べなくちゃいけない。なら……ジガンさんみたいに狩りをするか、それとも家の前の畑でも耕すか。


 「はいはいはーいっ!! 私は狩りをしまーすっ!! か弱い乙女だけどメッチャ強いからっ!!」

 「お前な……いや待てよ?」

 

 アテナは確かに強い。中型魔獣を一撃で両断したし、あれより小さい魔獣なら簡単に狩れるかも。

 俺が家の畑を耕すのもアリか。農業の知識はあるし、種や苗があれば育てることは出来る。


 「確かに、アテナが狩りをするのはアリかも」

 「でしょ? ふふふ、私に任せなさい。デッカい獲物を狩ってやるから」

 「……アロー、この子は強いのか?」

 「はい。それは間違いないです。中型魔獣を1人で倒したのを見ました」

 「むっふっふーん」

 「むぅ……お前が嘘を付く人間じゃないのはわかるが……」

 「なによオッサン、信じてないの?」

 「おいこら、オッサンっていうな!!」

 

 結論。俺が畑を耕し、アテナが狩りをすることになった。

 アテナの実力が未知数と言うことで、明日ジガンさんと狩りに出かけることになり、今日はゴン爺に挨拶へ行くことになった。俺はローザさんに、ルナの離乳食の作り方を習うので同行はしない。


 「いい、オムツは清潔にして。布の巻き方を教えるから、しっかりね」

 「は、はい」

 「それと、離乳食はバランスを考えて。しばらくは食材を分けてあげるけど、ちゃんと自分で調理しなさい。いいわね」

 「わ、わかりました」

 「ふふ……集落に来て1日なのに、大変ね」

 「は、ははは……」



 アテナが帰って来るまで、ローザさんの授業は続いた。



 **********************

 


 「たっだいま~っ!! ねぇ聞いてアロー、あの爺さんからこれ貰った!!」

 「ん、おいそれって……剣か?」

 「ああ。ゴン爺が彼女を気に入ってな、若い頃使っていた剣を譲ったんだ」

 「むっふっふ。アローの剣と似てるけど、こっちのが業物ね。ふふふ、明日が楽しみだわ!!」


 アテナの手には1本の剣があった。

 俺の持ってる剣と似てるけど、確かに刀身の輝きが違う気が……いや、わからん。

 アテナはうっとりと剣を見つめ、鞘に戻した。


 「さてアローくん、アテナちゃん。今日は夕飯を食べていきなさい」

 「え、でも」

 「いいの!? やったぁっ!!」

 「お前な、少しは遠慮しろよ」

 「気にするな。多い方が楽しい。それにレナもお前に懐いてるしな」


 ちなみに、ルナとレナちゃんはお昼寝中。

 せっかくだし、ご馳走になるか。


 「アローくん、明日から畑仕事をするのかい?」

 「はい。外の倉庫に農具も入ってたので」

 「じゃあ、種を少し分けてあげるわ。しっかりね」

 「……本当に、ありがとうございます」


 ローザさんには頭が上がらないな。ここまでいろいろしてくれるなんて。

 俺も出来る限り助けになろう。俺の力なんてたかが知れてるけど、それでも恩は返さないと。


 

 頑張ろう。このマリウス領で……生きていくんだ。

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