(11)12月08日11時45分

 痛い。

 地面に尻餅をついている。

 地面についた手の平に、砂利が食い込む。

 投げ出されたつま先のすぐ傍を、車が行き交っている。

 信号が、青になる。

 人の波が左右から流れていく。

 すぐに、何が起こったのか把握出来なかった。

 何度か瞬きをして、それから、

「基子ちゃ……!?」

「馬鹿!」

 ハっと顔を上げたすぐ傍で、かなり大きめに怒鳴られた。

 彼女の声だった。

「え……え?」

「信号赤なのに! 何で渡ろうとしたの!」

「……え?」

 ぽかんとしている間にも、彼女は怒涛どとうのように声を張り上げて色々まくし立てている。よく分からない。「動画を見て」「もしかしてと思って」「死ぬのはあたしの筈だと思ってたのに」ーーえっ!?

「ちょっと待って……えっと、何て? 動画……って」

 彼女は、涙ぐんだまま、少し鼻をすすってから、自分のスマホを取り出した。

 2回目のデートで買った、お揃いのストラップがぶら下がっている。山羊と、蟹の、マスコットだ。彼女はそれを手に取った際「ヒツジ!」と言ったので「山羊だよ」と訂正してあげたのを覚えている。「俺、山羊座なんだよね」と。だから、蟹座の彼女の分と合わせてふたつずつ、お揃いとして、

「あの気持ち悪い猫の被り物をつけたやつの動画。あたしも、見てたの」

「……」

「悠一くんが山羊座だって言ってたから、たまたま動画を見つけて、それで」

「……」

 だんだんと彼女のトーンが下がっていく。

 恥ずかしそうに、後ろめたそうに、もじもじと、視線をさ迷わせながら、

「悠一くんがあたしを庇ったら、悠一くんが死んじゃうみたいな内容だったし、だから、悠一くんのお家なら危険も少ないかなって、でも、駄目って言われたし、とにかく今日1日どうにかしないとって、そしたら、悠一くんがふらふらって車道に」

「ま、待って」

 その動画を見たなんて話、していない。

 そこで彼女がしまった、というように口に手を当てた。

 ようやく立ち上がり、手に付いた砂を払い落とす。

「……隠し事はさ、なしにしよっか。お互いに」

「……」

「俺も、最初からちゃんと言うから。げ……幻滅させちゃうかも、知れない、けど」

 ズボンの砂を払う、その腕に彼女がそっと手を伸ばしてきた。

「しないよ。全然、そのまんまで、いいんだって」

 それこそが、何よりも欲しかった言葉だった。

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