(3)11月15日16時03分

 昨日の動画が引っ掛かっていた訳ではないが、放課後、彼女の教室へ向かう道中、ふと、何とはなしに図書室の前を通った。通り過ぎるつもりが、足が止まる。日中は逆に前を通るのも避けていたが、特に『恋愛運急上昇!』に関連するような事はなく、いつも通り疲れる1日を送っただけであった。これから彼女と会う憂鬱さに畳み掛けられる前に、少し現実逃避したいなんて思ったのだろうか、気付いた時にはそろりと扉を開けて、中へ踏み込んでいた。

 数えるほどしか訪れた事はない。夕方だというのに照明もそこそこに薄暗い室内。カウンターの内側にひとりと、その前にひとり。見覚えがある。あれはーー。

「あ、ごめんなさい……」

 扉の前でぼんやりたたずんでいると、そのは本を抱えて小さく俯き、さっと横をすり抜けて出ていった。とん、と肩がぶつかる。けれどそのまま廊下を小走りに、足音はあっという間に遠ざかっていった。

「あの」

 カウンターの内側に座る女子に声を掛ける。

「さっきの人が借りていった本って」

 そういう言い方をすれば、女子は慌てたような照れたような表情で、貸し出しカードを見せてくれた。

椎名しいな基子もとこ……)

 いつも自分を取り巻く輪の外側にいるあのクラスメイトのフルネームを、今この時、覚えた。

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