(2)11月14日23時49分

 スマホの通知音で目が覚めた。

 体を起こす動作がやけに気だるい。病は気からというものなのか、或いは、彼女に嘘を吐いて先に帰った罰だろうか。溜息もすっかり癖付いてしまっている。でも、そうしなければ呼吸もままならないような気さえして、どうしても止められないのだ。

 また彼女からのメールだろうか。しかし無視する訳にもいかない。陰欝な気持ちでスマホを手に取ると、表示されていたのは全く異なるものだった。

「あなたへのオススメ動画?」

 そんな設定、しただろうか。確かによく利用する動画投稿サイトからの通知で、開くとあなたへのオススメと称したサムネ一覧がずらっと表示された。何となくスクロールして、すぐに指が止まる。

「……絶対に当たる、明日の星占い」

 思わず鼻で笑ってしまった。

 黒の背景に白文字でそれだけ書かれたサムネが、色とりどりに目を引くその他大勢の中にぽつんとあって逆に目立っている。占いなんて興味もないのに、指はその動画をタップしてしまった。

 現れたのは、大きな猫の被り物で顔を隠した、恐らくは男性と思われる人物。両手を振る動作に加えて、『やあ、こんちは!』と字幕が流れた。わざとらしいオーバーリアクションだが、不快感はない。古い、海外のコメディアンでも見ているようだ。

『今回は山羊座の君の、明日の運勢を教えちゃうよぉ!』

 どきりとした。星座を言い当てられたのかと思ったが、きっと、あなたへのオススメ一覧に選出される際、サイトに登録した生年月日からわざわざこの『山羊座』の動画がピックアップされたのだろう。画面の中で猫の被り物が軽快なステップを踏んでいる。字幕が流れた。

『恋愛運が急上昇! お目当ての相手とお近付きになれるかも!? ラッキープレイスは、図・書・室!』

 …一気に気分がえてスマホを閉じた。

 別に何かを期待していた訳ではないが、よりにもよって、今は『恋愛』なんて単語、見たくもなかった。そんなもの、身勝手な思いを抱かれて、理想を一方的に押し付けられて、疲れるだけだ。『お目当て』? 誰が? いない。いる訳ない。彼女か? 有り得ない。

 いや、有り得ないなんて言ってしまっては、いけないだろう。仮にも付き合っているのに。

「はぁ……」

 ああ、また溜息だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る