(11)11月16日07時58分

「いってきまーす」

 結局、テスト勉強ははかどらなかった。というか、あれきり教科書を開く気にもなれなかった。もしそこに『テストで100点取れますよーに』なんて書いてあるのを見つけてしまったらーーなんて。

 思い出すだけで、まだ恐怖に胸がばくばくと鼓動を刻んでいる。いや、もしかしたら、全部夢だったのかも知れない。勉強があまりにも嫌で、悪夢を見ただけなのだと言った方がまだ説得力はある。それでも、そうは思えないほどリアルで、未だに細部までしっかりと覚えているのだ。そこでまたぶるりと背筋が震えた。

「悠くんったらもー」

 明るい女子の声が聞こえる。校門の手前、その他数名の女子に囲まれて、見慣れた長身の男子の後ろ姿。ハっとして足が止まった。同時にその男子がやおら肩越しに振り返る。一瞬だけ、視線が交錯して、それはすぐに彼の方から逸らされた。何事もなかったかのようにまた前を向いて、校舎へと消えていく。

 それは、少し切ないような、ほっとしたような、複雑な思いだった。

 けれど、これで良いんだ。

 だって、本気で願いを叶えたかったらーー。

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