(7)11月26日AM08:46

 月曜日はいつも特に憂鬱なのに、学校で会えると思うと、それだけで無性に心が弾む。24日も25日もデートと称して日中はずっと会っていたけれど、それとこれとはまた別のドキドキ感があった。

 うきうきと足取りも軽く教室へ入ると、数名の女子が机を取り囲んでいる。その席は…。

 思わず、そこで立ち止まっていると、その中のひとりが顔を上げてこちらに気付いた。何かを耳打ちして、全員でぞろぞろと近付いてくる。

「あんたが、椎名基子しいなもとこ?」

 知らない顔ばかりだ。口振りからすると上級生だろうか。

「は、い、ええと……」

 つい敬語になってしまった。

 戸惑っていると、腕を引っ張られ、そのまま廊下へと連れ出された。更には中庭の方へと引っ張られていく。

「え、ちょ、っと、あの」

「いいから。話あるんだからちょっと来て」

 来て、という割りには強制連行である。もしかして、彼の取り巻きか何かだろうか? 早速彼女が出来たという噂を聞き付けて、「別れろ」とか「不釣り合いなんだよ」とか言ってヤキでも入れられてしまうのだろうか。

 掴まれた腕が痛くて抵抗する気も起きず、中庭に入ったところでようやく解放された。そこには更に数名の女子が待ち構えていた。その中のひとりだけ、妙に見覚えがあるように感じて、つい顔をまじまじと見つめていると、彼女はその視線を避けるようにふいと顔を背け、他の女子の背中に隠れてしまった。その後ろ姿に、あ、と思った。あの、公園から出てきた、なびくような長い黒髪。

「で、どういう手を使って男をたぶらかしたワケ?」

 左隣から低くうなるようにそう言われた。

「たぶらかす、って」

「じゃ、何? 弱みでも握って自分と付き合うように脅してんの?」

「あの、言ってる意味が」

 本当に分からなかったが、言った途端、例の黒髪ロングの女子が両手で顔を覆って泣き出した。続けて右隣から怒声を浴びた。

「ヒトの彼氏盗っておいて、まだしらを切るつもり? ふざけてんの?」

「ヒトの彼氏って」

 視線が自然と、泣いて俯いている女子へ移る。彼に取り巻き集団がいる事は、知っていた。彼女は、いるとか、いないとか…。

 …いたのだ。

「ゆっ……悠ちゃ……いきなり何も言……ずに、別れてくれって、メールで……っ」

 それは、おまじないをする「前」なのだろうか、…した「あと」なのだろう。きっと。

 この3日と数時間の間に見た彼の表情を思い出す。それは本当に嬉しそうで、楽しそうで、好きだと言ってくれた、少し照れたようなその笑顔にもその言葉にも、偽った素振りは微塵もなくて、それは、

 おまじないで、願ったから?

 気持ちを捩曲ねじまげて、作り上げたもの、だった?

「おーい、おまえらー。HR始まるぞー。何やってんだそんなとこで」

 先生に声を掛けられて、全員がそちらを向いた隙に、輪の中からさっと抜け出した。

 教室に戻ると、ほぼ登校し切っているクラスメイト達の視線が一斉にこちらを向いた気がした。

「盗ったんだってー……」

「えげつないよなー……」

 ひそひそと、そんな声まで聞こえてくる気がする。

 すぐに先生も入ってきたのでささやき声もすぐに止んだが、心配そうに視線を向けてくれていた彼の顔だけは直視する事が出来ず、授業の準備をする振りをして、開いたノートの上に、握ったシャーペンの先を、

(……何を、何と願えばいいんだろ)

 結局何も思い浮かばなかった。

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