(4)11月22日PM03:29

 意識している自分がとてつもなく恥ずかしかった。いつ声を掛けられるのだろうと1日中そわそわしていた自分を穴に埋めてしまいたい。やっぱりおまじないなんて馬鹿馬鹿しい。あのおまじないをしたあとに「たまたま」テストで100点を取れたからと、真に受けてうきうきとあんな子供騙しのおまじないをもう1度やるだなんて。いや、もしかしたらあの動画を見ながらでなければ効果がないのかも知れない。…いや、もう止めよう。何でも願いが叶うだなんて、そもそもある訳がない。試せば試すだけ、虚しくなるだけだ。

「日直は課題を集めて職員室まで持ってくるように。以上」

(げ……今日日直じゃん)

 虚しさで膨らんだ心にトドメといわんばかりの憂鬱さがのし掛かる。あーもうツイてない。目の前には乱雑にノートが積まれていく。女子は女子だけの分だが、それでも20冊ともなるとまあまあ重い。

 掃除当番ががたがたと机を移動し始めたので、溜息もそこそこに席を立った。

「椎名さん、一緒にいこ」

 手にノートの束を抱えた男子の姿が目に入る。そのまま視線を上げたところで、

「えっ……さ、坂本くん!?」

 びっくりしてノートの山をばさばさと崩してしまった。「なんで」と問う前に彼が口を開く。

「須田から日直代わってくれって言われてさー。まいっちゃうよね」

 自分の抱えていたノートの束を隣の机に置いて、落ちたノートを拾ってくれる。少し低めに響く声に、くらくらした。きっと耳まで真っ赤になっていただろう。しかしそんな女子の狼狽ろうばいも見慣れているのか、にこりと爽やかな笑顔で拾い上げたノートをこちらに差し出してくる彼。

 今更であるが変に思われないように、ぎくしゃくしながらもそれを受け取る。それから、ノートの束を抱えて、彼の後ろについて歩いた。

 やけに廊下が長く感じる。沈黙が痛い。けれど喉は生唾を飲み込むばかりで、言葉を吐き出そうとしてくれない。そうしてお互い何も話さないまま、階段の方へと曲がったところで急に立ち止まった彼の背中にぶつかってしまった。

 またしてもノートの束がばさばさと落ちた。

「あ、わ、ご、ごめん!」

 これでは意識し過ぎだ。恥ずかしさと動揺で半ばパニックに陥りながら、慌ててしゃがみ込んでノートを掻き集める。彼もしゃがみ込んで、拾うのを手伝ってくれるものだと思いきや、

「……椎名さんてさ、彼氏いるの?」

 唐突にそんな事を、しげしげと顔を覗き込みながら、言うのである。

 真っ赤な顔が、更に熱くなる。

「か……!?」

 いや、待て、落ち着け。まだ別にはっきりと何かを言われた訳ではないではないか。脈絡はないが、これはまだ、あくまでも雑談の領域であって、あくまでも、ただの質問なのであって、

 勘違いして恥を掻くのは目に見えている、のに、

「……そりゃいるかぁ。だよね、椎名さん、可愛いもんなー」

「えっ、いやっ、いないっ、けど!」

「いないの?」

 否定の声が思ったよりも大きくて、階段に反響する。反面、彼は至極静かに、その言葉を反芻はんすうした。その顔は、どこか少し嬉しそうにも見えた。見間違いだ、そんなの、絶対、

「じゃあ、さ」

 形の綺麗な唇が、耳もとへと、近付いてくる。

「俺と付き合ってくれる?」

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