(3)11月21日PM05:41

 荒々しく玄関を開く音に、扉が閉まり切る前にばたばたと階段を駆け登る足音が続く。扉の開閉は静かにといつも口酸っぱく言ってくる母親に「うるさいわよ!」とやはり怒鳴られたが、構わず自分の部屋へと駆け込んだ。

 扉を背に、肩で息を切る。鼓動が早いのは、ここまで足早に帰ってきたせい、だけではない。

「……うそだぁ……」

 そう呟きながらも口角が上がってしまう。

 肩からずり落ちた鞄の中には、返却されたテスト用紙が入っている。そう、返ってきたのだ、100点と記された答案が!

 『いつも苦戦してる数学でよく頑張ったな』と先生もニコニコ顔だった。数学以外のテスト結果は相変わらずだったが、素行のお陰でカンニングを疑われる事もなく、ただただ努力の賜物たまものだと褒められた。

 違う。

 今もまだ半信半疑だが、これはあのおまじないのせいに違いない。どのテストであるかを言及していなかったから、最初に受けたテストで効力を発揮したのだろうか。これは、『全てのテストで』と書かなくて良かったかも知れない。いきなり全教科満点ではさすがに怪し過ぎる。いや、だから、まだ完全に信じた訳ではないのだけれど。

 ごくりと唾を飲み込み、呼吸も落ち着いてきたところで、鞄に視線を落とす。そう、信じた訳ではない。だから、

 だから、確かめなくては。

 おもむろに鞄からノートと筆箱を取り出すと、机に向かった。片手でがさがさと筆箱を漁りつつ、片手でノートを適当に開く。その真ん中を、シャーペンで2回突っつき、くるりと回す。回してから、考えた。願い事、願い事、ねぇ…。

(あ、そうだ)

 今度は恋のおまじないといこう。相手のある事ならば、確かめやすい。

坂本悠一さかもとゆういちくんと恋人になる、っと)

 クラスいちのイケメンである。おまけに気配り上手でムードメーカー、当然人気者で、ファンのような取り巻き集団がいるのは知っている。彼女もいるとか、いないとか。別に片想いをしている訳ではなかったが、あんな全てが揃ったような完璧な男子に告白される機会なんてきっと一生ないだろう。そう思うと、途端にドキドキしてくる。

 間違いなく期待している自分に気付いて、慌てて頭を振った。違う違う、これは確かめるだけ。だって、おまじないが本物だったとしたら、それはとんでもなく凄い事なのだから。

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