17 都市上空の闘い
二騎は〈ペリュトン〉へ最短距離で向かった。高層ビルを二〇メートル左にしてイクサ・フレームが飛行すると、数秒後に衝撃波が従い、窓ガラスが盛大に吹き飛ぶ。
〈グランドエイジア〉の電脳が敵騎のルートを予測演算し、サブモニタに出力。ナガレはハクアへそのデータを転送した。
やがて〈ペリュトン〉に追いつく。〈グランドエイジア〉はその後尾、〈テンペストⅢ〉はその前方へ出る軌道。挟撃の構えだ。
〈ペリュトン〉が発生させるホロ・フィールドの虹色の光は薄れており、前進翼付き三角形状の騎体の周囲に時折切れぎれの光が目に映る。フィールドを
〈グランドエイジア〉による予測修正含め照準完了したナガレがタネガシマ・ライフルを連射した。――
〈ペリュトン〉は加速した。ナガレの予測を超える速度であった。
その加速が回避運動になった。〈テンペストⅢ〉の一刀が空を切る。
〈ペリュトン〉はループ翻転し、虹色の光をまとった刃めいて〈テンペストⅢ〉の五〇度上方から襲いかかった。
ハクアはエンジン出力を絞り、重力の働きのまま
〈テンペストⅢ〉を毒牙に掛け損ねた〈ペリュトン〉が向かう先は、当然〈グランドエイジア〉であった。まばゆい光の刃が迫る!
「
二騎が交錯する。――
互いに別方向へ飛び去ってゆく〈ペリュトン〉と〈グランドエイジア〉。
ナガレは撃剣の手応えを感じながら、〈グランドエイジア〉の握るカタナを見た。刀身が半分の長さになり、その断面は赤熱化の光を帯びていた。なんたるビーム出力! ナガレは折れたカタナを捨て、予備のものに持ち替えた。地上で撃破した敵騎から三本ほど見繕って回収していた。しかしどこまで役に立つものかは知れなかった。実際〈ペリュトン〉の機動性や出力には一片のダメージも窺えない。
ナガレは自騎を〈テンペストⅢ〉と合流させた。
「予想以上に速いな!」
『ええ。〈ペリュトン〉の速度はこちらの一五〇パーセントと見積もりましたが、それ以上です』
機動力、防御力、攻撃力。この三つのステータスを高水準で両立している。ホロ・フィールド展開中は傷一つつけられず、当たればこちらが真っ二つ。恐るべき相手だった。
「しかし奴の長所は大出力に由来している。新型のエンジンでも積んでるのか知らんが――」
『形あるものに滅せぬもの無し――弱点は必ずやあるはずです』
ナガレにはハクアの言葉が重要な事実を内包しているように思われた。
PPP! 三次元ジャイロ羅針盤に複数の騎影出現。二時方向。スクリーンがズーム。白黒塗装のイクサ・フレームは軍警察が使用する〈ジェラルマ〉だ。タネガシマ社とナガソネ工房が協同して造り上げた1.5世代新式量産騎である。数は六騎。アサルトタネガシマを手に提げてこちらへ向かってくる。
先頭に立つ青い肩部装甲の〈ジェラルマ〉の頭部で、黒い透明なバイザーの下から
『そこのイクサ・フレーム二騎! 着地して武装解除せよ!』
当たり前だがハクアと似たことを言っているな、とナガレは思った。さて、どう出るか――ナガレが出方を伺っていると、後方下部で光の筋が奇妙な曲線を描いた。危険!
「下から来るぞ、気をつけろッ!」
ナガレの声に反応したのはハクアの〈テンペストⅢ〉だけだった。彼女の騎体は速度を緩め、高度を下げた。
『何を言って――グワーーーーッ!?』
――
『何が起きた!? 何が起きた!?』
『隊長!? 隊長!? 隊長ォーーーーーーー!!』
無論これは〈ペリュトン〉の仕業に決まっていた。〈ペリュトン〉は〈ジェラルマ〉に目をつけたのである。そこには合理的な理由は感じられなかった。ただそこに現れたから斬っただけ、というドライバーの加虐的な意思をナガレは見た。
――
弾幕を突破して上昇した〈ペリュトン〉はそのまま
両脚部と両腕部は――爆発に巻き込まれず落下!
右脚部はユカイ・タカイ・タワーへ突き刺さる! 左脚部はカジノ「モウケモノ」の天井をぶち抜く! 右腕部は〈テンペストⅢ〉がライフルで撃墜し爆発四散! 左腕部はちょうど飛来位置にいた〈ジェラルマ〉がビームカタナで切断したが、二つに分断落下!
「――クソがッ!」
ナガレは〈グランドエイジア〉を降下させた。高度を下げていたのは幸いだった。
ただ〈グランドエイジア〉が示す、二つのパーツの落下予測地点――人がごった返す中央交差点と避難指定場所のユカイ・メガ・パーク公園――この二箇所を同時に救うことは距離的に無理だとナガレは判断した。
ナガレのニューロンが短時間のうちに目まぐるしく思考し、彼は中央交差点へ向かった。
――
ナガレの主観が泥化する。
レーダーが目標の飛来パーツを発見。しかしごった返す群衆が下に。機銃や砲撃は危険だ。
「――間に合えええええええええええええッ!!」
ナガレはペダルを踏み込んだ。カルマ・エンジンの回転数が更に増す。スラスターの出力が限界を超える。
泥化する主観の中で〈グランドエイジア〉の鞘に収まったままのカタナが突き出される。
降下してゆく〈ジェラルマ〉の拳パーツが見える。
カタナの刀身が拳パーツに触れた。その感触が、確かにナガレにはあった。
上空へ弾く。
〈グランドエイジア〉の騎体を強引に捻って
細かく破砕される拳パーツ。
「……ハァーッ、ハァーッ……」
ナガレの主観の泥が拭い去られる。荒く息を吐く。際どいところであった。
はっとして、ユカイ・メガ・パーク公園の方向を見た。立ち昇る土煙――今頃阿鼻叫喚の様相を呈しているだろう。
自分は人を救ったつもりでも、実は別のところへ被害を生み出しているだけなのかも知れない――そんな疑惑が胸に根差した。
それでも〈グランドエイジア〉は飛翔する。〈ペリュトン〉を撃ち落とさぬ限り、犠牲は増え続けるだけだった。
ナガレは決めた。ここで終わらせると。
「〈フェニックス〉! 俺だ! あいつを寄越せ!」
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