12 血の煮えたぎるとき
ナカタニーズも手をこまねいているだけではない。アイアン・カッターは縦列にフォーメーションを組んだ。ノダチ・ブレイドを持ったザフロ騎が前に、槍遣いのウジマが後ろに。
一息で詰められる間合。
右からの脇構えから来るグランドエイジアの横薙ぎをノダチが受ける。
ウジマ騎はザフロ騎の右、即ちグランドエイジアの左側に回り込まんとする。
ナガレは左手の鞘で槍を流し。後方へ跳躍を見せる。
ウジマがそれを追う。鋭い連続刺突がグランドエイジアへ弾幕のように展開される。
鞘とカタナで防ぎ続けるナガレの頭上へ、ザフロ騎がウジマ騎の背や肩を蹴って跳躍した。大上段からの拝み撃ち。ウジマはすっと身を引いている。
ナガレはノダチを体を開いて躱す。しかしノダチは弧を描いてナガレを追う。脚部装甲に被撃、浅い。ザフロは更に畳み掛けるように下段、中段、中段、上段と斬りまくる。
ナガレはそれらの攻撃を防ぎながら、二人を視界に収めていた。
『
大振りの一撃が来た。鞘とカタナをクロスさせて防ぐ。酷使に耐えかねた鞘が砕け散る。グランドエイジアがノックバックするほどの勢いだ。
『
そこへウジマがスラスター炎も眩く突きかかる。ノックバック距離は四〇メートル、ウジマ騎はザフロ騎を追い越し、その半ばを超えて迫りつつあった。
しかしそれは誘いだ。グランドエイジアの頭部がウジマ騎を向く。
――POWHEEEE!! ビームクワガタ形成スリットからビームが放たれた! 相対速度によりイクサ・フレームと言えども回避しきれず、頭部に被弾――電脳機能低下、カメラは一時麻痺!
「――
そこへナガレが畳み掛ける。スラスターを吹かしての唐竹割りの大斬撃。しかし敵もさる者、ノイズ混じりのカメラからグランドエイジアの攻撃を読み、槍のポールで受け止めた!
僅かな間でよかった。間もなくザフロが攻撃を仕掛けるだろう。それまで持ちこたえるだけでいい。何いつものことだ――ウジマとザフロはこれ以上ないほどにパートナーを信頼していた。愛していたと言っていい。
――ウジマの誤算が二つある。
一つは、槍のポールが戦闘中の傷で大きくダメージを受けていたこと。もう一つは、たった今防いだ斬撃が片手斬りであり、グランドエイジアが左手の鞘の残骸を捨てて拳を握ったこと――
「
グランドエイジアの左手が拳の形に握られ、カタナの
『――貴様アァーーッ!!』
怒りと憎悪に燃えた声が迫る。パートナーを殺害されたショックがザフロの冷静さを失わせた。
カタナを抜く僅かな時間さえ惜しみ、ナガレはウジマ騎を前蹴りで突き放した。アイアン・カッターとアイアンカッターがもつれ合うように衝突する。距離は至近。
「――イィィ
グランドエイジアがカタナを揮う。
カタナは中段の脇構え、アイアン・カッター二騎が宙にいる間に一文字に振り抜く。〈ハヤテ・スラッシュ〉――
諸共に上下の半身を分かたれた二騎が爆発四散した。その爆炎を背にグランドエイジアが
カタナを鞘に収めようとしたが、鞘は既に失われていることを思い出す。その上カタナが半ばで折れ砕けていた。
「ナガレ=サン、八時方向」
少女が注視を促した。グランドエイジアの視線がそちらへ向く。
遠視カメラが映すのは第三
マクラギが視線に気付いたように、グランドエイジアの方を見た。彼は地獄の
「――――貴様ァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!」
瞬時にしてナガレの意識が煮えたぎった。意識せずにスラスター点火を行なっていた。
「――バカ! こんなところでグランドエイジアを飛ばすな!」
少女の叱咤が来る。まだ戦闘が終熄した訳ではないのだ。ナガレは怒りの余り反論すら出来ない。
「とにかく落ち着けナガレ=サン! 明らかな罠だ!」
そんなことは理解している。それでも今すぐにマクラギ・ダイキューのところに行くという選択肢しか頭に浮かばなかった。怒りが理性的な思考を曇らせていた……今すぐに奴を切り刻んで野良犬の餌にしたい!!
それでも辛うじて一割程度の理性は残っていた。グランドエイジアを第三天守閣へ疾走させかけた、その時、西側城壁が一挙に崩壊した。
姿を現したのは四脚歩行する艦艇とも呼ぶべきものだった。悠然にして傲然たる様子で、それは歩行していた。歩行するだけで脅威だった。その丈は高く、身は重く、森林も建造物もイクサ・フレームの残骸も、一緒くたになってその巨大な
〈ワイヴァーン〉が艦艇(と呼ぶべきなのだろうか?)に最短距離で飛んでゆく。マクラギもあのコクピットに乗っているのだろう。ナガレは追おうとした。が、即座に〈レヴェラー〉の火砲が一斉に砲弾を放った。あちこちで火柱が上がる。そこには容赦というものがなかった。
「トヨミ軍七大超兵器〈セブン・スピアーズ〉が一つ、〈レヴェラー〉だ。あれはクラッキングも受け付けん。手を出すな」
冷然と少女が告げた。何故そんなことを知っているのか気にもならなかった。怒りと、それ以上の悔しみが思考を麻痺させた。
ひとしきり火砲を撃ち放し続けて、〈レヴェラー〉は悠然と来た道を戻っていった。来た時と同様に。悠然と、傲然たる様子で。
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