「旦那……ひでぇもんです」


 岡っ引きの孫八が死体を指差す。

 町廻同心の片岡源三郎が腰を折り、変死体を検分する。

 甚八らが亡くなった座敷には、計五人の遺体が並べられていた。

 権蔵の手下だった二人は、茶屋の外で同じ様な姿で見つかり運び込まれている。


「外傷は?」


「それが、全く見当たりやせん。毒でも飲まされたんでしょうかねえ……」


 孫八の声を背に、片岡は、この死に方に何処か見覚えのあるような気がしていた。


「こいつぁ、医者の診立てを待ってからの方が良さそうだな」


 それだけを伝え、片岡はその場を後にする。


「……へい」と返事をした孫八は、その飄々ひょうひょうとした後ろ姿を見送り、「剣の腕は滅法立つんだが、ほんと、掴み所のねえお人だ」と言って小首を傾げたのであった。

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