3-5 基礎戦闘訓練-修了-

 ちょっぴり俺が恥を各場面もあったが、ようやく細剣術の訓練が始まった。

 まずはカーリー教官が手本を見せてくれるので、それを真似する。

 ここにきて、お稲荷さんが言っていた“思い通りに体が動く事がいかにすごいか”を実感する。


 まずステータスで【賢さ】が上がっているおかげか、一度見ただけで型の意図を理解でき、細かいところまで記憶できる。

 で、それを元に型を真似ると、自分でも驚くほど、思い通りに身体が動くんだよ。

 残念ながらというべきか、もちろんと言うべきか、筋力や柔軟性の関係で、再現できなかった動きがいくつもあった。

 でも、それだってトレーニングすれば、そう遠くない将来に習得できると思う。


《スキル習得》

〈細剣術〉


 初歩の型をひと通り真似たところで、あっさりとスキルを習得できた。

 やっぱり、型って大事だね。

 そこからしばらくは、ひたすら型を覚えるコーナーが続き、最後は模擬対戦。


 まずはカーリー教官相手に闘う。

 他人が闘っているのを見るのも、大事な訓練の一環だ。

 全員手も足も出ずあしらわれたあと、訓練生同士で対戦。

 ダリルには一日の長があり、獣人ふたりには身体能力が及ばず、俺は全敗。


 ま、俺の場合“見合って見合ってよーいどん”的な対戦は向いてないんだよね、と心の中で言い訳しておく。


 そんな感じで初日の訓練は終了した。


 ちなみにこの訓練は1週間、つまり8日の日程で行われる。

 ダリルとアルダベルトは、ここで離脱。

 あのふたりはこのあと、小剣術、長剣術、双剣術、大剣術を習い、残りの4日で、そのなかから選んだ剣技を重点的に鍛える、ということになってる。

 俺とジータさんは、翌日からもずっとカーリー教官に鍛えられた。


 基本的な訓練のスケジュールだが、まず午前中は基礎体力作り。

 はっきり言ってこれ、地獄ね。

 剣を腰に佩いたまま、ひたすら走りまくる。

 限界を迎えてへたり込みそうになったところで、カーリー教官が襲いかかってくる。


「極限状態にあって、剣をひと振りできるかどうか。それが生死を分けることもあるのだ」


 とのことらしい。

 あと、どれくらい走れるかどうかも重要。

 敵わない敵と遭遇したとき、逃げ足の速さ、走れる距離の長さ、そして走り続けられる時間が、生存の確率を左右するのだ。

 冒険者ってのは、実際に戦ってるときよりも、移動している時間のほうがずっと長いからな。


 午前中の疲れがとれないうちに、午後から型の練習が始まる。


「万全の体制で挑める戦闘など、冒険者にはあると思うな!」


 ってなわけで、疲れた身体に鞭打って、ひたすら型の練習だ。

 疲労回復効果のある訓練場で、疲れが取れる実感もない訓練。

 どれほどのものか察して欲しい。


 途中1日、座学の日があった。

 このあたりによく出る魔物との戦い方、みたいなのだったが、これはすごく役に立ったと思う。


 ラスト2日は模擬戦があった。

 教官には相変わらずボコボコにされたけど、ジータさんとはいい勝負ができるようになったよ。

 ちなみにダリルとアルダベルトだが、ダリルは長剣、アルダベルトは双剣を選んだようだ。


 そんなこんなで、基礎戦闘訓練は無事修了。

 〈細剣術〉がLv4になったことから、8日間におよぶ訓練の成果は充分にあったといっていいだろう。

 だが、それ以上に嬉しい結果が俺を待っていた。


――――――――――

職業:魔道剣士

――――――――――


 カーリー教官のおかげで、夢の魔法剣士に一歩近づけたのだ。


「ふたりとも訓練ご苦労だったな。才能のある者を教えられて、私も嬉しいよ」


 おおっと、褒められちゃったぜ。


「まずジータ」

「はい」

「君は細剣にこだわりがあるようだが、君のしなやかで強靭な体には、双剣のような変幻自在の剣術も、合っていると思う。無理にとは言わないが、可能性のひとつとして頭に入れておいてくれ。短剣と細剣での二刀流というのも、悪くないだろう」

「はい。ありがとうございます」


 ジータさんは少し嬉しそうな声色で応え、頭を下げた。


「そしてショウスケ」

「はい」

「君の上達には正直舌を巻いたよ。最初のへっぴり腰がウソのようだ」


 カーリー教官が、そう言って少しばかり呆れつつも、感心したように微笑みかけてくれる。

 改めてみると、やっぱり美人さんだな。


「どもっす」

「とにかく君には、基礎を叩き込んだつもりだ。君なら得意の不意打ちと合わせて、ある程度我流に組み替えても、充分に戦えると思う。正面からならともかく、不意打ちという形を取れば、EランクどころかDランクの魔物にさえ、負けることはあるまい」

「ありがとうございますっ!!」


 俺は心の底からの感謝と共に、深々と頭を下げた。

 惰性で学校に行き、部活や習い事に本気で取り組んだことのない俺が、誰かになにかを教わったことに対して、はじめて感謝の気持ちを持てたような気がする。

 〈細剣術〉のスキルを得たことや、職業が魔道剣士になったことよりも、こうやってひとつのことにしっかりと取り組めたこと、そして俺を導いてくれた人へ、素直に感謝できたことが、なによりの成長かもしれない。

 ガラにもなく、俺はそんなことを思ったんだ。


 カーリー教官、本当にありがとうございました。

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