第211話、懐かしの和

 ウォタラさんはゆっくりと山の頂上付近に着陸した。

 俺たちは龍のウォタラさんから降りると、ウォタラさんは人間の姿に……って、裸はヤバいだろ裸は!!

 

「ほら、身体を隠しなさい。不穏な輩がいるからね」

「あら、ありがと」


 おいアルシェ、不穏な輩って誰のことだよ。

 クトネは毛が逆立ったシリカを優しく撫でてるし、ブリュンヒルデは相変わらず無表情だし……あ、もしかして俺ですか?


「と、とりあえず、ここはどこですかね……って寒い!!」


 わかるのは、山のてっぺんだということ、霧が濃く下界が全く見えないこと、なんか気温が低いこと。やばい、なんか頭痛くなってきた。

 

「ここは里から少し離れた場所よ。少し歩くと里の入口があるから、お散歩がてら行きましょうか。ここから眺める景色は絶景、特に朝日と夕日なんて最高なんだから」

「そうなんだー……ねぇセージ、もちろん泊っていくのよね!」

「お前、元気だな……まぁ、そのつもりだけど」

「やたっ」


 ウォタラさんはくすくす笑い、先頭に立って歩き出す。

 俺はクトネの隣に立った。


「クトネ、体調は?」

「へ? いや別に」

「そうか。ここはかなり標高が高い……高山病になるかもしれないから、水分だけはしっかり取れよ」

「こうざんびょう?」

「いいから、わかったな?」

「は、はい」


 アルシェはともかく、俺とクトネは生身だからな。龍人族もこんな高い標高の山に人間が来るなんて考えてないだろうし、高山病には気を付けなくては。


「ねぇねぇ、ブリュンヒルデ、わくわくするわね!」

『はい、アルシェ』


 あの二人は大丈夫だろう……なんか硬そうだし。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 寒いが、景色は間違いなく国宝レベルだった。

 霞掛かった下界は雲のように揺らめき、太陽の光が眩しい。こんな景色見たことない。

 

「すごいですねー……」

「ああ、すごい……」

『……なぁご』


 クトネとシリカも景色に見入っていた。

 

「ねぇねぇウォタラ、龍人族の里には美味しい物ある? アタシお腹減ってきた~」

「ふふふ、もちろんあるわよ。今夜は宴会にしちゃう!」

「やたっ! ねぇねぇブリュンヒルデ、今夜は宴会だって!」

『ありがとうございます』


 あっちは花より団子か……別にいいけど。

 龍人族の里があるせいか、地面は均され道がある。そして、歩くこと30分……。


「見えたわ。あそこが龍人族の里よ」

「え……」

「なーにあれ? 変な門ねぇ」

「でも、すごいですー……伝統工芸って感じ」

『センセイ、どうかされましたか』

「あ、いや……」


 俺は驚いた。

 龍人族の里には大きな『門』……いや、『鳥居』があった。

 間違いなく鳥居だ。こう見えて社会科教師だからな、見間違えることはない。

 そういえば、おはぎも緑茶もあった……ここってもしかして。


「さ、人間様御一考ごあんな~い」


 鳥居を潜ると……。


「わぁ~……すっごい!」

『…………』

「これが龍人族の里ですかー……」

「…………」


 そこは、江戸末期の城下町を見てるような、時代劇のセットを見てるような気持になった。

 立派な瓦張りの屋根、編み笠を被った住人が歩き、着ている服はどう見ても着物、しかも履物は草履。

 茶屋でもあるのか、紙張りの傘の下でお茶を飲んでる若い女性もいた。それに、どこからともなくいい香りが漂ってくる……これ、出汁の匂いだ。


 ここは、いや……龍人族の里は、日本文化が充実していた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 メインストリートを歩くと、いろんな人……いや、龍人に見られた。

 だが、ウォタラさんと一緒のせいか特に声もかけられず、町を観察しながら歩けた。


「あ、なんか美味しそうな匂いですー!」

「これ、うどん屋か?」

「あら、よく知ってるわね」


 大きな東屋の下に椅子テーブルを並べただけのうどん屋だ。うどんの器は陶器だし、湯飲みも陶器、箸は木製で漆塗りの高級品……。


「あ、あっちでなんかお菓子食べてる!」

「あっちは……茶屋だな」

「よく知ってるわねぇ……」


 京都にありそうな茶屋だ。

 赤い紙傘の下で横長の竹椅子座り、団子とお茶を楽しんでる。

 

『センセイ、私のデータにない商店がたくさんあります』

「そりゃそうだ。これを機にいっぱいデータ入力しておいたらどうだ?」

『はい、センセイ』


 ブリュンヒルデが見ていたのは駄菓子屋だ。

 麩菓子に金平糖、団子にあられが売っている。龍人の子供が集団で買い物をしていた。

 おいおい、まじでタイムスリップしたような感覚に陥るぞ。


「ん……」

『なぁご』


 俺の足元には、一匹のネコがいた。

 こんな標高の高い山にネコがいるのか……三日月がいれば喜んだろうな。

 すると、クトネの手からシリカが逃れ、俺の足下にいるネコに身体を擦り付け始めた。


「し、シリカ? どうしたんですー?」

『なぁ~』

『なごなご』

『うなぁ~お』

『にゃあお?』


 なんかシリカと野良猫がネコ語で会話してる。すると、会話が終わったネコが俺の周りをグルグル回り始めた。


「な、なんだなんだ? おいシリカ、こいつに何を言った?」

『…………』


 まぁ、答えてくれるわけないか。三日月がいればよかったんだが。

 すると野良猫は俺の背中に飛び乗り、両前足を器用に肩に掛けてくっついた。


『にゃあう』

「は? おいちょっと」

「……もしかして、セージさんに付いていくって言ってるんじゃ」

「はぁ? 出会って一分も満たないネコがかよ!?」

「もしかして、シリカが何か言ったのかも……」

『……』


 当のシリカはダンマリだし、野良猫は離れるつもりがない。

 

「ったく、下に降りたら三日月に渡せばいいか……」

「ほらほら、遊んでないで行くわよ~」


 前の方で、ウォタラさんとアルシェが手を振っている。

 こうして、意味も分からず野良猫が仲間になった。ちなみにシリカがなんて言ってたのかは後でちゃーんとわかった。

 

「セージ、その猫どうしたの?」

「……なつかれた」

「ふふ、可愛いわねぇ」

「ウォタラさん、こいつ飼い猫じゃないですよね?」

「うーん、ダイジョブでしょ。それより、お館に行きましょ、ヴァルトアンデルスが待ってるわ」


 お館……ここからでも見える、あのデカい建物か。

 よし、気合入れて行きますかね。




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○勇者の野郎と元婚約者、あいつら全員ぶっ潰す

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ドラゴンノベルス新世代ファンタジー大賞週間ランク2位作品です!

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