第209話、水龍ウォタラ

 ウォタラと名乗った龍人は、川の上流に住んでるらしい。

 エンタープライズ号で進める場所なので、川岸を進んで行く。すると木造の一軒家がポツンと建っていた。なんというか……フツーの家だ。


「普通はここまで人を近付けないのだけれど、今日は特別よ♪」


 ちなみに、ウォタラさんは素っ裸のまま歩こうとしたので、余っていたシーツを着せた。

 家の前にエンタープライズ号を停車させる。

 さすがに全員で押しかけるのは失礼なので、代表で俺とゼドさんとクトネで話を聞くことにした。残りは待機。


「ささ、入って入って」

「お邪魔します」

「邪魔するぜ」

「おじゃましまーす」


 中は至って普通。

 一般的な椅子テーブル、簡易な竈、食器棚に二階の階段がある。龍人族ってこんなもんなのか?

 俺の視線を感じたのか、ウォタラさんがクスクス笑う。


「ふふふ、あたしたち龍人族も人間と似たような生活をしてるわ」

「あ、いや、その……申し訳ない」


 椅子を勧められたので座ると、ウォタラさんはお茶を煎れてくれた。

 驚いたことに、お茶は緑茶だった。まさかここで緑茶が出てくるとは。

 クトネやゼドさんは、見慣れないお茶に首を傾げてる。


「龍人族が栽培してるお茶よ。少し渋いけど慣れれば病みつきになるわ。それと、お茶菓子も」


 出てきたお茶菓子は……なんと、おはぎだった。

 米とあんこで作るおはぎ……作ろうと思えば俺でも作れるが、今までの旅路で作ったことはない。

 まさか、龍人族がおはぎを……。


「これは米とあんこで作ったおはぎっていうお菓子よ。緑茶によく合うの」

「オハギ、ですか。変わったお菓子ですねー」

「ワシも初めて見たぞ」

「…………」

「セージさん?」

「あ、いや。と、とりあえず、いただきます!」


 おはぎを齧り、お茶を飲む。

 うん、まぎれもないおはぎに緑茶だ。懐かしい……。


「わぁ、おいしいですね。このオハギ」

「茶もなかなかいける。うまい」

「ふふ、よかったわ」


 ゼドさんとクトネも満足したようだ。

 俺たちは、しばしお茶を堪能した。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「で、何をしにここに来たの?」


 至極まっとうな質問をウォタラさんはしてきた。

 もちろん、俺は答える。


「俺たちは、オーガ族とラミア族、そして龍人族の争いを止めるために来たんです」

「ああ、そういうこと……でも、あなた人間よねぇ?」

「はい。でも、争いを止めたい気持ちはあります。現に、オーガ族とラミア族の協力は取り付けました。あとは龍人族の代表……『黄龍王おうりゅうおうヴァルトアンデルス』の協力を取り付けて種族間で話し合いの場を設けるつもりです」

「ふーん、王を決める争いねぇ……」


 ウォタラさんは、お茶で唇を濡らして言う。


「龍人族は、王を決める戦いなんて興味ないわ。平穏に暮らせればそれでいいのよ」

「……へ?」

「外ではラミアとオーガがドンパチやってるでしょ? それに巻き込まれた龍人族が仕方なく応戦して、いつの間にか三つ巴の戦いなんて言われてるだけよ。本来の龍人族は穏やかでのんびり屋なの。前の王を決める戦い? にも参加しないでここに引きこもってたからね」

「…………」


 なんというか、予想外のことばかり起きる。

 確かに、以前の戦いに龍人族は来なかったとダイモンは言ってた。

 ラミア族に関しても、エキドゥナは昼寝好きのグータラだったし……もしかしてこの戦い、いくつものボタンの掛け違いでこんなことになってるんじゃ……?


「あのー、なんで龍人族はこの渓谷に? しかも魔術で霧を発生させてまでガードをしてますけど」


 と、クトネの質問だ。


「大した理由じゃないわ。狩りをするのに楽だからよ」

「か、狩り?」

「ええ。霧に乗じて狩りをするのが龍人族のやり方。あたしはこの渓谷に霧を発生させる水龍の末裔なのよ」

「そ、そうですか……」


 意外なことばかりだな……。

 もしかして、ヴァルトアンデルスに会えたりする?


「あの、龍人族のトップに会いたいんですけど……」

「そうねぇ……面白そうだし、町で聞いてきてあげる。いきなり連れて行くのはダメだけど、許可をとればいいと思うわ」

「え」

「そうね、1日ちょうだい。あたしが戻るまでここで待っていて、ここは安全だから」

「は、はい……」

「でも、今はお茶を楽しみましょう。今度はあなたたちのお話を聞かせてちょうだいな」


 なんというか、いろいろと拍子抜けだった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 ゼドさんのドワーフ昔話で盛り上がり、気が付けば暗くなっていた。

 

「あらあら、もうこんな時間。よかったらお仲間を呼んできて、ここで夕食にしない?」

「え、いいんですか?」

「ええ。食材もあるし、今度はあなたのお仲間の話も聞きたいわ。それに……龍人族のお酒もあるわよ」

「ほぉ! 龍人族の酒とはな! おいセージ、姉ちゃんの誘いを断るつもりはねぇよな!?」

「も、もちろんですよ」


 ゼドさん、龍人族の酒に釣られちゃったよ。

 ルーシアたちを呼び、ウォタラさんを紹介して夕飯の支度を始めた。

 ウォタラさんは豪快に肉を焼き、サラダを盛り、スープを作る。俺も手伝い、エンタープライズ号の食材や酒を準備し、ゼドさんは外の木を切り倒し全員分の椅子と大きなテーブルを作った。


 テーブルに大量の料理を並べると、ウォタラさんは奥からデカい水瓶を運んできた。どうやらお酒らしい。

 ゼドさんがニヤリと笑ったのを俺はしっかり見て、子供以外のグラスに酒を注ぐ。

 この香り、やっぱり……。


「セージ、おめーが音頭を取れ」

「あ、はい」

「ふふ、よろしくね」


 グラスを掲げ、俺は挨拶した。


「えー、今日の出会いに……乾杯!!」

「「「「「「乾杯!!」」」」」


 グラスを合わせ、一気に酒をあおる。

 やっぱこれ、日本酒だわ。しかも極上の……めっちゃ美味い!!


「ッッッカァァァッ!! うんめぇ酒だなオイ!!」

「ああ、酒精が強いが飲みやすい」

「美味しい……私、このお酒好きです」

「アタシもアタシも!! 長く生きてるけどこんなの初めて飲んだわ!!」


 ゼドさんが興奮し、ルーシアが頷き、キキョウが口に手を当て、アルシェがおかわりを希望する。

 絶賛されて嬉しいのか、ウォタラさんはみんなにお酌した。


「さぁ、飲んで飲んで。今日は無礼講よ」

「カカカッ、美人の姉ちゃんの酌付きとは、今日は最高の一日だぜ!」

「あはは……ゼドさん、飲み過ぎないでくださいよ」

「んぐんぐ、お肉おいしい」

「あ、シオンさん、あたしもお肉っ!!」


 三日月とクトネは食べる方に集中していた。

 俺も酒を飲み、料理に手を伸ばす。

 ブリュンヒルデとジークルーネも食事してるし、今日はとっても楽しいな。


 日本酒、けっこうキツい……すぐに潰れそうだ。



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○勇者の野郎と元婚約者、あいつら全員ぶっ潰す

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