第191話、夜笠vs

 食後、軽い休憩をして、俺とルーシアは外へ出た。

 外では、編み笠を被ったキキョウが、俺とルーシアを鍛えるために待ち構えている。

 ルーシアは装備を万全にし、心なしか鼻息が荒い。


「おいルーシア、興奮してるのか?」

「当たり前だ。かの『夜笠』と剣を交える機会などそうはない。騎士団にいた頃もうわさは聞いていた、夜笠の剣技は万物全てを切り裂くとな」

「怖っ……でも、望むところだ」


 俺も完全装備だ。

 腰の『魔吸剣キルストレガ』に、ガンホルダーには『ビームフェイズガン』、右腕には仕込みナイフと短弓が内蔵された籠手……よし、俺の最強装備だ。

 外に出ると、少し開けた森の中で、キキョウが待ち構えていた。


「まず、あなた方の実力を見ます。殺すつもりで来てください」

「お、おい、マジかよ?」

「はい。そうですね…………私は、これを使います」


 キキョウは、落ちていた木の棒を摑み、軽く振る。

 これには、さすがにムカッとした。


「おいキキョウ、それはさすがに……」

「御託はいいです。かかってきなさ……」


 突如、ルーシアの蛇腹剣がキキョウを襲った。


「へぇ、首を狙った容赦ない一撃……殺すつもりで来てますね」

「当然だ!!」


 キキョウは、ほんの少し首を傾けただけで、まっすぐ向かってきた剣を回避した。

 ルーシアは鞭のようにしなる剣を真上に持ち上げ、そのまま横薙ぎする。


「はぁぁっ!!」

「……」


 同時に、左手でナイフを投擲。

 キキョウの逃げ場を予測し、その方角に向けて投擲した……が。


「なっ……」

「迷いがなく、私を殺す躊躇もない……まるで暗殺者アサシンのような、冷徹な動きですね」


 ルーシアの投げたナイフは、キキョウの持っていた棒に刺さっていた。

 しかも縦一列に、狙って受けたかのような並びだ。


「うん、ルーシアさんは……冒険者等級で言うとA級ですね」

「……まだまだ、私の手札はあるぞ」

「そういうのは黙って行うことです。このお喋りだってわざと隙を作っているんですから」

「…………」


 あ、ルーシアがキレた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「お二人の実力はわかりました。ルーシアさんは急所狙いばかりで動きが単調、実力者との戦闘が長引けば、急所をわざと狙わせたカウンターを仕掛けてくることも難しくないでしょう。つまり長期戦に向かない戦闘スタイル。セージさんは……まぁ、これからですね」


 俺とルーシアは、肩で息をしていた。

 キキョウは汗一つ掻かず、持っていた木の棒を投げ捨てる。

 体の造りが違うとしか考えられなかった。まさかこいつ、アンドロイドじゃないだろうな。


「ルーシアさんはいい武器をお持ちです。戦術の幅を加えればそれだけで強くなれる。セージさんはまず……技術よりも心を磨くべきですね。私の動きに対し、いちいち大げさに反応しすぎです」

「戦術の幅……」

「大げさって……」


 仕方ないじゃん……だって、剣を振るなんてファンタジー、日本じゃありえなかったし。

 すると、キキョウはスッと横を見た。

 そこにいたのは……。


「ブリュンヒルデ? どうした」

『戦闘データを習得していました』

「……ブリュンヒルデさん、でしたね。あなた、相当な強者とお見受けします」

『……』

「よろしければ、私と手合わせ願えますか?」

『センセイの許可があれば問題ありません』

「…………」


 いや、俺を見るなよ……。

 でも、ブリュンヒルデ対キキョウは興味ある。


「わかった。やってみろ」

「ありがとうございます、ではブリュンヒルデさん」

『はい。センセイ、メインウェポンの使用許可を』

「え……いや、そこまでは」

「セージさん、手加減は必要ありません」

「あー……わかった」


 俺とルーシアは下がり、ブリュンヒルデが前に出る。

 

「私も、使わせていただきます」

『……二刀流』

「ええ。これが私の固有武器、『八咫烏ヤタガラス』と『濡羽烏ヌレバガラス』です」

『……メインウェポン展開。着装形態に移行』


 まさかぶブリュンヒルデ……キキョウに対抗したのか?

 エクスカリヴァーンの着装形態。『乙女剣エクスカリバー』に『女神剣カリヴァーン』を両手に装備したぞ。


「……ふふ、久しぶりに昂ってきました」

『…………』


 ザワァッ……っと、空気が振動した。

 木に停まっていた鳥が一斉に羽ばたき、見えない何かが充満する。


「これは……セージ、目を離すなよ」

「え? え?……あ、ああ」


 二刀流対二刀流……バトル漫画みたいだ。

 そして、二人は同時に飛び出した。というか見えなかった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「な、なんて戦いだ……!!」

「…………」


 凡人の俺にはわからん……だって、残像が見えるだけだもんな。

 ギンギンと剣がぶつかる音が聞こえるけど、俺にはさっぱりわからない。

 ルーシアは見えてるらしいけど……本当かな。


 数分後……唐突に戦いは終わった。


「……ありがとうございました。これほどの使い手と戦えるとは」

『ありがとうございました』

「いえ、よろしければまた手合わせ願いたい」

『センセイの許可があれば』

「……」


 おい、そこで俺を見るな。

 まぁいいけど……ブリュンヒルデ、やっぱ強いな。

 でも、この強さに甘えるわけにはいかない。俺が戦わなくちゃいけない日はきっと来るからな。


「よし!! ルーシア、もう一度キキョウに挑むぞ」

「ああ、当然だ」


 この日、ほとんど動かず訓練に明け暮れた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 お昼をすぎ、俺とルーシアは汗だくで倒れていた。

 

「ふぅ……今日はこれくらいにしますか」

「あ、ありがと、ございま、した……」

「ありがとうございました……」


 キキョウは全く汗をかかず、涼しい顔で戻っていった。

 

「つ、つかれた……はぁぁ、汗でべたべただ」

「着替えよう。このままでは風邪をひくぞ」


 すると、ブリュンヒルデが言う。


『センセイ、近くに小川が流れています。先ほどクトネが洗濯をしていましたので、水浴びをして汗を流すことを提案します』

「おお、そりゃいいな。ありがとうブリュンヒルデ」

『お役に立てて幸いです』

「ルーシア、どうする?」

「行こう。汗を流したい」


 というわけで、着替えを持って小川へ。

 大きな岩がいくつもあり、ルーシアと一緒に浴びても問題なさそうだ。

 ブリュンヒルデは、馬の世話をしに戻ったし、ここはルーシアと二人きりだ。

 

「セージ、私はあちらで水を浴びる。わかっていると思うが……」

「わかってるよ。というか、お前もこっち来るなよ?」

「だ、誰が行くか!!」


 ルーシアとこんな軽口が叩けるくらいは長い付き合いだ。

 というか、ルーシアのおっぱいは何度か見たことがある……いかんいかん、血液が下半身に。 

 岩を仕切りにして服を脱ぎ、俺は身体を洗う。


「はぁ……キモチいい」


 膨張した下半身に水を浴びせ、汗に汚れた身体を浄化する。

 頭から水を被り、全身を綺麗に洗った。


「ふぅ~~……気持ちよかった」


 男の水浴びなど5分で終わる。

 体を拭き、パンツをはく。ちょうどいい風が吹き、天然のドライヤーが身体を乾かしてくれる。

 パンツ一丁で日光浴……いいね。




『何者だ貴様っ!! くあっ!?』




 だから、ルーシアの声が聞こえてきて驚いた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

「ルーシアっ!?」


 俺は剣を摑み、声が聞こえた方向へ向かう。

 

「来るなセージ!! こいつら……オーガ族だ!!」

「なっ……」


 ルーシアは、大きな赤い肌の『鬼』と戦っていた……裸で。

 赤鬼は赤い肌に角、手には棍棒のような鈍器を持っている。

 ルーシアは蛇腹剣で鈍器を受け止め、押されていた。


「ルーシア!! パワーが違う、受け流せ!!」

「わかって……いるっ!!」


 棍棒を受け流したルーシアは、バックステップで俺の傍へ。

 俺も剣を構え、正面にいるオーガに向けた。


「なんだこいつ……」

「わからん。いきなり襲ってきた」

「……」


 で、でかい。

 久しぶりに見たけど、このサイズ……先っぽも綺麗な。


「来るぞ!!」

「っ!?」


 やばい、ルーシアのおっぱい見てる場合じゃなかった!!

 棍棒を振り上げながら、俺とルーシアに迫ってくる。


「このっ……ブレード光破!!」


 レーザー光刃がオーガを襲うが、なんと棍棒で弾きやがった。

 そして、巨乳を揺らしながらルーシアが蛇腹剣を振るう。


「急所狙いだけではなく、こういうのも効果的か!!」


 じゃば蛇腹剣は、オーガの足にヒット。アキレス腱辺りを損傷したオーガは体制を崩し、そのまま転んでしまった。

 すかさず俺はブレードを振るい……。


「やめろーーーーーっ!!」


 割り込んできたオーガの子供が、両手を広げてオーガを守った。

 俺は剣を止める。


「やめてくれ!! これ以上、父ちゃんを傷つけないでくれよっ!!」

「きみ……もしかして、昨日の」


 この子、昨日ほんの少しだけ会った、オーガの子供だ。

 剣を下すと、ルーシアも来た。


「セージ、この子は……」

「ああ。昨日の子供だ」


 おっぱい、ごちそうさまです。

 ルーシアも裸ということを忘れてるのか、隠そうともせずに真面目フェイスで言う。

 俺も真面目フェイスを崩さないように、おっぱいを見ちゃいました。


「見ろ、セージ。このオーガ……」

「…………ああ、やせ細ってるな」

「う、うぅ……」

「父ちゃん、父ちゃん……!!」


 ルーシアは、少し声を柔らかくして子供に聞いた。


「きみ、なにがあったんだ? 事情があれば話してほしい」

「うぅ……父ちゃん、ううん、父ちゃんだけじゃない。オーガ族は……オーガ族は、ラミア族の毒に侵されて、みんな死にかけてるんだ……父ちゃん、ラミア族を殺して解毒剤を手に入れようとして、朦朧としたまま出て行って……」

「なるほど、水浴びをする私たちを、ラミア族と勘違いしたというのか」

「……ラミア族ね」

「ああ。ラミア族は女…………」


 あ、やべ……ルーシアが硬直した。

 ババっと両手で胸と股間を隠し、耳まで真っ赤になった。


「せ、セージ」

「…………」


 俺は顔を反らすことしかできなかった……。

 でも、おっぱいゴチです!!


 とにかく、少年から話を聞こう。今はこの領土の情報が欲しいからな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る