第190話、野営
その日は、遺跡の入り口付近で野営をすることにした。
ブリュンヒルデとジークルーネに見張りを任せ、居住車の中で簡易的な夕飯を食べる。理由は、火を熾すとさっきの少年の部族に感づかれるかもしれないからだ。
とりあえず、この周囲の情報を集めないと。迂闊な接触は危険だ。
夕飯が終わり、ソファでまったりする。
すると、三日月が挙手して言った。
「あの、みんなに聞いてほしいことがあるの」
「ん、どうした三日月」
「あのね、国境の町でネコたちに情報を集めてもらったの。ひょう太、ボスネコだったから、町中に手下のネコがいて、いろんな情報を知ってたの」
「ふむ、興味があるな……」
ルーシアが、バースペースで軽い酒を飲みながら言う。
隣にはキキョウが座り、弱めのワインをちびちび飲んでいた。
三日月は、はだおを太ももに乗せ、優しくなでながら言う。
「あのね。フォーヴ王国が、奴隷制度を見直したって。違法な人間の奴隷は全て解放、認められるのは犯罪奴隷だけだって」
「ま、マジか? ……アルアサド王、考えを改めたのか」
「うん。解放された人間には補償金が支払われたらしいよ。もちろん不満もあるみたいだけど……」
「へっ、そりゃアルアサド王の考えるこった。フォーヴの人間奴隷制度を放置してたツケくれぇ、テメェで払えってんだ」
ゼドさんは、自家製の火酒をがぶ飲みしながら言った。
獣人を味方につければ頼もしいとは言ってるが、人間奴隷制度だけは胸糞悪いって、いつも言ってたからな。
「でも、よかったな三日月」
「ん……」
頭をなでようか迷ったが、三日月はネコミミパーカーを被って俺に頭を突き出してきた。なのでよしよしとなでなでする。
「んん……にゃあ」
うーん、ネコみたいだな。
まぁ、今日くらいはいいか。
「あと、フォーヴ王国とディザード王国が友好条約を結んだって」
「なんだと!? 本当か!!」
「うん。あの町にいたドワーフが言ってた。アルアサド王とファヌーア王が対談して、殴り合いになって友好条約を結んだとか」
「なんだそれ……」
「へっ……ファヌーアのやつ、やるじゃねぇか」
ゼドさん、嬉しそうに笑ってる。
というか、対談して殴り合いってどういうことだ? ネコ情報を疑うわけじゃないけど、ちょっと謎すぎるぞ。
「へへ、同じ酒だがこうも美味く感じるとは……おいセージ、今日は付き合え!!」
「は、はい。おいルーシア、お前も来いよ」
「いいだろう。キキョウ殿、貴殿もよければ」
「付き合いましょう。酒は嫌いじゃありません」
「ネコ情報、まだまだあるよ」
「じゃああたしとアルシェさんで聞きますー。ここはお酒の香りがしますんで、二階に行きましょう!!」
「じゃあ、ごま吉たちのところに行こっか!!」
キキョウを含めての宴会は、とても盛り上がった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌日。
いよいよ、ラミュロス領土を探索する。
ここは今までと違い、地図などない未開の大地。他の領土と交流のない、亜人たちの住まう土地だ。何が出てくるかわからない。
「アルシェ、エンタープライズ号の屋根から周囲を見張ってくれ。モンスターとか人とかいたら教えてくれ」
「りょーかい。見える範囲内でヤバいモンスターだったら、ここから狙い撃っちゃうから」
「うん。ジークルーネは御者を頼む。アルシェと同じく、ホルアクティで上空をサーチ、町や集落を見つけたら、そこに住む人種や人口を教えてくれ。接触して問題なければ行ってみよう」
「はい、センセイ」
「ブリュンヒルデはヴィングスコルニルのバイクモードで並走、スタリオンとスプマドールの護衛と、エンタープライズ号の護衛を頼む」
『了解』
「残りメンバーは……って、なんだよみんな」
なぜか、指示を出す俺を見てポカンとしていた。
そしてクトネ。
「いやはやセージさん、なんだか成長しましたねぇー」
「せんせ、すごい」
「がっはっは。うちのリーダーは頼りになるじゃねぇか」
「ああ。戦いだけでない、周りをよく見て判断している……さすがだな、セージ」
「…………ふふっ」
なんだよこれ……。
というか、めっちゃ恥ずかしいんですけど。
「あーもう!! みんなは車内で待機!! なんかあったら呼ぶから、休んでろ!!」
くそ、みんなニコニコしてる……まぁ、認められたってことで。
とにかく、出発だ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「セージ、あっちにでっかい鳥が飛んでるよ」
「……やばいのか?」
「うーん、なんかでっかいクマを丸呑みしてる」
「ヤバすぎるだろ!? きょ、距離は? こっちに来るのか?」
「えーと……あ、こっち来てる」
「えぇぇぇっ!? ぶ、ブリュンヒルデ、いけるか!?」
『問題ありません』
「あ、ブリュンヒルデ、アタシがやるよ」
『ではお願いします』
なんか緊張感ねぇな……。
アルシェが口笛を吹くと『ピナカの矢』が勢いよく飛び、ほんの10秒足らずで戻り、アルシェは矢をパシッとキャッチする。
「終わったよー」
「……」
やっぱり緊張感ないな……。
それから居住車で進むと、眉間に穴が開いた巨大怪鳥が横たわっていた。どう見ても死んでます、はい。
『センセイ、食料確保のため、この鳥類を解体することをお勧めします』
「おすすめって言われても……まぁ鳥肉欲しいな。低カロリーで高たんぱく、焼き鳥なんていいな」
「焼き鳥!! アタシ食べたい!!」
「俺も。酒のつまみに最適なんだよな……というかこいつ、食えるのか?」
「えーと……うん、体内から毒性反応はないね。火を通せば食べられるかも!」
「よし、ゼドさんを呼んで解体するか」
出発して30分、早くも足止めだった。
このサイズのモンスター、ゼドさんなら数時間で解体するだろう。それに、酒のつまみと聞けばやる気満々になるはず。
ゼドさんを呼ぶ。
「焼き鳥!! いいじゃねぇか!! さすがアルシェだな!!」
「えっへへ~、もっと褒めていいのよ?」
というわけで、居住車を止めて解体に入った。
俺とゼドさん、ルーシアとブリュンヒルデ、そしてキキョウも手伝ってくれての解体だ。なんと20分で終わってしまった。
せっかくなので、このままお昼の準備をする。
メニューはもちろん鳥肉……そうだな、焼き鳥でも作るか。
ゼドさんに竈と火をお願いし、俺が肉を切り、女性陣は調理用の串に肉を刺してもらう。
あとは網焼きにして、味付けはシンプルな塩コショウ。パンを用意して完成だ。
「よし、アルシェに感謝して、いただきます」
「ちょ、ハズいからやめてよ!」
軽い笑いと共に、焼き鳥パーティーが始まった。
味付けはシンプルな塩コショウだが、どうだろうか……。
「ん、美味いな!!」
「おいしい!!」
肉質は柔らかく脂身が少ない。普通の焼き鳥と変わらない。
味付けも塩コショウで正解だ。いくらでも食べれそうだ。
「っかぁぁっ!! エールが進むぜ!!」
「ああ、酒がうまいな」
「…………確かに」
ゼドさん、ルーシア、キキョウも大喜びだ。
焼き鳥は、あっという間になくなった。
そして、お茶を飲んで一息入れる……。
「はぁ……うまかった」
「ほんとですねー……」
クトネも大満足なのか、ほんわりしてる。
すると、編み笠を被ったキキョウが言った。
「セージさん、ルーシアさん。少し休んだらさっそく始めます。いいですか?」
「……ああ、いいぞ」
「もちろんだ」
そう、特訓。
キキョウが仲間になった最大の理由だ。俺たちを鍛えてくれる。
進むことも大事だが、鍛えることはもっと大事。
よし、キキョウに褒められるくらい、強くなってやる。
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