第161話、ダンジョン無双・前半

 コモリのダンジョン。

 最下層は100階層と言われているが、踏破者がいないので正確なことはわからない。

 最高記録が92階層で、A級クラン『女神の剣ヴィーナス・ソード』が打ち立てた記録だそうだ。

 ガトリングガンを投げ捨てながら、オルトリンデが言った。


「今、何階層だ?」

「28階層ですわね。さすがにお疲れでは? お姉さま」

「アホ、アンドロイドのアタシが疲れるかよ。んなことより、さっさと次の階段を探せ」

「はーい♪」

「···········」


 エレオノールは、この驚異的な探索速度に舌を巻いていた。

 本来なら、『地図役マッパー』を連れ、階層を探索、地図を作成しながら進む。一階層を回るだけでも時間が掛かるのに、たった数時間で29階層まで来てしまった。


 モンスターは、オルトリンデの敵ではない。

 現れると同時に蜂の巣になり、ロックゴーレムといった硬いモンスターは小型ミサイルランチャーで木っ端微塵に砕け散った。

 

 迷宮のようなダンジョンでも、一切迷わず最短ルートで下の階層へ向かうことが出来た。

 なぜなら、ヴァルトラウテが階層をスキャンし、最短ルートの通路を進んでいるからである。戦闘能力があまり高くないヴァルトラウテは、探知能力ならオルトリンデやブリュンヒルデよりも高かった。ダンジョンの一階層程度なら楽に進める。


『きゅぴ! きゅぴ!』

「ピーちゃん? ああ、お腹空いたのね」

『きゅっぴー』


 エレオノールに抱かれてるピーちゃんが鳴いたタイミングで、30階層への階段を見つけた。

 ダンジョンは、10階層ごとに入口へ戻るための転移魔法陣が敷かれている。転移魔法陣がある部屋は休憩室にもなっているので、休むには丁度よかった。


「じゃあ、ピー助の昼飯にすっか」

『きゅっぴー!』


 階段を降りると、魔法陣が敷かれた部屋だった。

 オルトリンデたちは部屋の隅に座る。

 エレオノールは、カバンから干し肉を取り出し、ピーちゃんが食べやすいサイズにカットした。

 

「はいピーちゃん、あーん」

『きゅっぴーっ!』


 干し肉を美味しそうにかじるピーちゃん。

 オルトリンデはその様子を眺めながら、ヴァルトラウテに言った。


「ダンジョン潜って5時間、外はそこそこ暗くなってきた頃か。とりあえず、今日は50階層まで行くぞ」

「わかりましたわ。エレオノールちゃんもそれでいいかしら?」

「は、はい。というか、ダンジョンに入って一日でここまで進むなんて······とんでもない大記録です」


 普通の冒険者パーティーなら、一日で進めてもせいぜい3階層程度だろう。

 一切迷うことなく、一切苦戦することなく、ここまで進んできた。

 モンスターのドロップアイテムなどもあったが、全て粒子分解して異空間にしまってある。


「今日50、明日50で100だな。エレオノール、このダンジョンは100階層までか?」

「え、ええと······お、恐らく」

「ま、明日になればわかるだろ」


 2時間後、オルトリンデたちは49階層まで到達した。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 50階層は、BOSS部屋だ。

 このダンジョンは10階層ごとにボスが設置されている。ここまでは難なくクリアして来れた。というか、ボスが出現すると同時にオルトリンデがハチの巣にしたり、ライオットが殴り殺した。

 50階層のボスは、巨大な牛みたいなモンスターだった。


「姐さん、こいつは自分が」

「ん、じゃあ任せる」


 ここまで、ライオットとオルトリンデは交代で戦っていた。

 エレオノールとヴァルトラウテは特に何もしていない。だが、エレオノールはこのモンスターに見覚えがあった。


「あ、このモンスター……確かベヒーモスですね」

「ベヒーモスですか?」

「はい。身体の中に発電器官があって、電気を自由に操るとか」

「なるほど……」


 もちろん、戦乙女型とライオットには耐電処理がされている。ライオットに至っては雷を自在に操る電極が何本も組み込まれている。

 ベヒーモスは立ち上がり、全身をバチバチ帯電させた。


『ゴァァァァァァァァッ!!』


 バチバチバチッ!! と、ベヒーモスは威嚇するように全身を発光させるが、ライオットの表情は全く変わらなかった。

 それどころか、さっさと終わらせようと無造作に近付く。


「電気を操るみたいっすけど、自分に勝負を挑むなんてアホっすね」


 ライオットは、両腕の電極を展開し、右腕を突き出した。

 同時に、ベヒーモスが全身で発電した電気を、ブレスのように吐き出す。これがベヒーモスの必殺技である「ライジングブレス」とは知らない。


「吸収するっす!!」


 ライオットは、ベヒーモスの電気ブレスを、右腕の電極を避雷針代わりにして吸収。そのまま体内を通過させ、自らのエネルギーに変換。そのまま左腕の電極から放出した。


『グァッ……!?』


 驚くベヒーモスが最後に見たのは、自らが放ったライジングブレスの数十倍のエネルギーを持ったプラズマ収束ビーム砲だった。

 ビーム砲はベヒーモスの上半身を消し飛ばし、残された下半身がズズンと倒れ、そのまま床に吸収された。


「終わったっす」

「おう、おつかれ。じゃあさっさと帰ってメンテするか」

「うっす!!……あ、お嬢ちゃん、宝箱があるっす」

「あ、本当だ」


 ベヒーモスを倒したら、床から宝箱がニュッと生えてきた。

 金色に輝く、いかにも宝箱という感じだ。

 これもチート能力による物なのだろうか。ここにいるメンバーでは判断できない。


「どれ、開けてみるか」


 オルトリンデが、無造作に宝箱を開ける。

 すると、宝箱から煙がモクモク出て来た。


「なんだこれ?」

「……どうやら、神経ガスのようですわね。対策をせずに吸い込むと、全身麻痺を引き起こし死に至りますわ」

「ふーん……このダンジョン作ったヤツ、けっこう歪んでやがる。こんなエグい仕掛けを仕込むとはな」


 当然、ここにいるメンバーに毒は効かない。

 アンドロイドに、あらゆる事象を眠らせるエレオノールだ。

 煙が収まると、宝箱が消え、1本の槍が現れた。


「わぁ、キレイな槍ですね」

「だな。けっこうな値打ち物っぽいぞ?……って、なんだこれ?」

「あら、空中投影ディスプレイですわね」


 オルトリンデが槍を掴むと、空中投影ディスプレイが現れた。

 

**************

○魔槍ゲイボルグ レア度9

 氷を操る伝説の魔槍。

**************


「なんだこりゃ?…………このダンジョンを作ったヤツの趣味か?」

「お宝っす!! すごいっす!!」

「これならいい情報代になりそうですわね」

「はい。今日はここまでにして、外に出ましょうか」

「そーだな」


 ライオットに槍を持たせ、転移魔法陣で外へ出た。

 外は夕焼けが眩しく、ダンジョン周辺の喧噪も落ち着いていた。

 

「じゃ、居住車に帰るか……」

「待て、そこの前たち」

「あん?」


 ふと、オルトリンデたちは声を掛けられた。

 4人が振り返ると、そこには2人の女騎士がいた。

 2人の視線は、槍を持つライオットに向けられている。


「その槍、ダンジョンで見つけた物か? 何階層まで進んだ?」

「なんだオメーら、馴れ馴れしい」

「まぁまぁお姉さま。この槍は50階層で見つけた物ですわ」

「50!?……そうか」


 女騎士2人は、互いに頷きあう。

 そして、右手で胸を軽く叩くようなポーズを取った。


「失礼。我々は『女神の剣ヴィーナス・ソード』五番隊。このダンジョンの専属隊だ。少し話がしたい」


 夕日が沈み、夜が始まった。

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