第74話フォーヴ王国
夜笠ことキキョウと別れ、俺たちはフォーヴ王国へ向かっていた。というか、もう目と鼻の先だ。
整備された街道なのでモンスターの心配もほぼない。
ブリュンヒルデに御者を任せ、残りは荷車の中でくつろいでいた。
俺はというと、キキョウから貰った剣をみんなに見せ、ジークルーネに調べてもらう。
「ジークルーネ、この剣のことわかるか?」
俺は腰から剣を外し、鞘から剣を抜く。
プレパラートみたいな薄さの刀身、まるで機械的な刀みたいな装飾、柄にあるゲージ。かっこいいな。
ジークルーネは、すぐに答えてくれた。
「これ、【
「まきゅうけん?」
「はい。人類軍がアンドロイド軍の扱う魔術に対抗するために作られた対魔術剣です。性能は単純、アンドロイドのボディを両断できる刀身と、アンドロイドの放つ魔術を吸収することです」
「へぇ······」
ちょっとソワソワしてるルーシアに剣を渡そうとすると、ジークルーネが慌てて止めた。
「ちょっと待って! 登録者のセンセイ以外の人が触れると防衛システムが動いちゃいます!」
「うおっ、そうなのか?」
「むぅ·········残念だ」
あぶねーあぶねー。俺以外の人が触ると電流でも流れるのかね。大した技術だよ。
「こんな見た目ですが、オリハルコンの9875倍の硬度を持つメタルオリハルコン製です。たぶん、今の世界の技術じゃ傷一つ付けられないです。刃の厚さは単分子より薄いですし、わたしやお姉ちゃんのボディも表皮を切られちゃいますね」
「た、単分子って······」
「ふふ、そのおかげで制作コストが非常に高く、量産が不可能となり、試作品の1本だけ作られたんですけど······まさかこんなところで見るなんて」
「ははは。あとこのゲージはなんだ? 魔術を吸収したら増えたんだけど」
現在のゲージは『2/100』だ。ジェネラルサイクロプスの火球を2発吸い込んだ。
「それは吸い込める魔力の総量を示しています。ちなみに、溜め込んだ魔力を放出することも可能ですよ」
「へぇ〜、どうやって?」
「ええと、鍔と柄の付け根にトリガーがありますよね? それを引くとエネルギー放出モードに切り替わり、溜め込んだ魔力を放出できますよ」
なるほど。つまり飛ぶ斬撃ってことか。
くくく、なんとも面白い。『空波斬!!』とかやってやろうかね。
「それも面白そうだけど、単分子か······」
「む、どうしたセージ?」
「いや、見てろよ······」
俺は刀身を横にしてルーシアに見せる。すると······。
「おお、刀身が消えた······素晴らしいな」
「ああ。これはヤバい、打ち合いなんてできないぞ、相手の剣もスパッと切れそうだ」
「それに、所見ではその剣を見て侮るヤツもいるだろう。ふふ、いい武器を手に入れたな」
「ああ······」
ほんと、キキョウには感謝感謝だ。
剣を鞘に戻してジュースを飲むと、シリカと遊んでいたクトネが隣に座った。なーんかニヤニヤしてるし、嫌な予感。
「ところでセージさん······『
「別に? おいおいクトネ、何を期待してるんだか知らんけど、やましいことは何もないぞ」
「へぇ〜〜〜〜〜っ。何もないのになんでセージさんに剣をくれたんですかねぇ?」
「············さぁ?」
「あ!! なんか間があった!! ねぇねぇルーシアさん、やっぱり何かあったんですよ!!」
「や、やめろクトネ。セージは言いたくないと言ってる。察してやれ」
「な、なんですかルーシアさんまで······ま、まさかセージさん、夜笠と不埒な関係に······」
「あほ」
「いったあ!?」
クトネにデコピンをして黙らせる。
ったく、キキョウとは何もしてないぞ。おっぱい見てキスして抱きしめただけ············あれ、やばくね?
『センセイ、間もなく到着します』
ブリュンヒルデの声で、いい感じに話が終わった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
フォーヴ王国。
獣人たちの楽園とも呼ばれ、屈強な力を持つ獣人が集まる大国である。
魔術がほとんど浸透しておらず、その代わりに鍛冶の技術が進んでいる。理由はもちろん、獣人たちが使う武器を鍛えるためだ。
この国の一番の見どころは、なんと言ってもコロシアム。
勇敢な獣人戦士たちが、己の肉体と武器を手に、日夜戦いに明け暮れる戦場でもある。
そして、この国には奴隷制度がある。
奴隷とは人間であり、人間とは家畜。
家畜には残飯を与え、衣服は着せず、死ねば処理場へ持っていきミンチにして肥料にする。
新しい家畜はいくらでもいる。処理場は毎日大忙し、人間肥料で育てた野菜は大きく育つ。
つまり、人間にとって最悪な国だった。
「·········虫唾が走る王国だ」
「ですね。みんながみんな、そういう獣人たちではないでしょうけど······」
「落ち着けよ。ここまで来てあれだが、この国の店や宿は利用しないほうがいいかもな」
キレそうなルーシアとクトネを押さえる。
だって、フォーヴ王国内に入国したはいいが、さっそく獣人たちに目をつけられた。ルーシア曰く尾行されてるとか。
「それにしても······」
なんというか、雑多な街だな。
道路も土のままだし、獣人ばかりなのは当たり前だが、動物もたくさんいる。クロコちゃんがノッシノッシ歩いてても誰も騒ぎもしない。
そして······動物たちに混ざって、裸の人間が混ざってる。
「チ·······一体、どれほどの人間が攫われたんだ」
「奴隷って、本来は犯罪者ですよね······それか、生活苦で身売りする人だけだと思ってましたけど」
「··········」
俺は死んだような目で歩く人間奴隷たちを見る。
もちろん、三日月なんていない。情報だと三日月はフォーヴ国王に献上されたとか。
やはり、行って会うしかないのか。
『
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その前に、まずは依頼を終わらせないと。
俺たちはアリゲイツさんの店である『クロコダイル商会』へやってきた。
城下町のほぼ中心で、なかなかに大きく広い建物だ。
「ぐぁっぐぁっぐぁっ!! 到着しましたな!!」
『ぐぁっぐぁっぐぁっ!!』
アリゲイツさんとクロコちゃんの叫び。
ワニの獣人と巨大ワニの叫び。字面が違うだけでこうも恐ろしいが、悪い人とワニじゃない。
馬車から降りて依頼完了の証書を受け取る。
「冒険者さん、ありがとうございました」
「こちらこそ、道中はご迷惑をおかけしました」
「ふ、たしかにな」
一緒に証書を受け取ったヴォルフさんの皮肉だ。顔が笑ってたので俺も苦笑で返す。
「ではでは、ありがとうございました!! お買い物はぜひ、クロコダイル商会をよろしくおねがいしますぞ!! ぐぁっぐぁっぐぁっ!!」
『ぐぁっぐぁっぐぁっ!!』
アリゲイツさんは、クロコちゃんを引いて一緒に店の裏手へ消えていった。
さて、依頼は終わった。
「セージ殿、世話になった······と言いたいが、提案がある」
「はい?」
「なんの目的があってこの国に来たのかは知らんが、人間だけで動き回るのは危険だ。仲間とも話は済んでる······良ければ、オレたちの『クランホーム』に来ないか?」
「········く、クランホーム?」
「········はぁ」
なぜかヴォルフさんはため息を吐いた。
「とにかく、ここは目立つ······付いて来い」
「え、あの」
「ふん、宿屋にでも行くつもりか? 止めておけ、夜に睡眠煙を炊かれ女は攫われ、お前は始末されるのがオチだ。気付いてると思うが、お前たちはマークされてるぞ。御者にあんな目立つ女を置いてるんだ、当然だろう?」
「··········」
「リカルドの腕の礼もある。冒険者のよしみでメシくらいは奢らせてくれ。確かに、奴隷売買の獣人共はクソと同列にするのもおこがましいが、そうじゃない獣人もいるということは知ってほしい」
「······わかってます。いやその、クランホームってなんでしょう?」
「それも説明してやる。付いて来い」
「はい、おねがいします」
というわけで、ヴォルフさんについて行く事になった。
クトネとルーシアは願ってもないみたいで、ブリュンヒルデとジークルーネは反対するはずもない。
クランホームか······名前からして家だよな?
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