第11話よし、いろいろ聞くか
腹も膨れたし、体調もけっこう落ち着いた。
俺はブリュンヒルデを改めて眺める。
人形みたいな表情でピクリとも動かず、俺をジッと見たままの少女。アンドロイドっていうけど、確かにこの美しさは人間じゃありえない。完璧な造形だ。
俺は、いくつかの質問をすることにした。
「何から聞こうかな······とりあえず、過去のことを教えてくれ。どうしてアンドロイドが……今の技術じゃオーバーテクノロジーな技術があったんだ?」
『私や他の姉妹機は、戦争の道具として造られました。人類とアンドロイドによる戦争、そして私たち『戦乙女型』はアンドロイド殲滅を目論む人間の手で開発、前線に投入されました』
「戦争……しかも、人類とアンドロイドって」
まるでターミネーターだな。コンピュータが自我を持って暴走でもしたのかな。
それに、アンドロイドを滅ぼすためのアンドロイドって。
『人間はアンドロイドを滅ぼすために、強力な兵器をいくつも開発しました。私に搭載されている『乙女神剣エクスカリヴァーン・アクセプト』もその一つです。他にも武装はありますが、修復ナノポッドに入る前に全てアンインストールされました。再取得の場合、各地に存在する設備······現在の遺跡と呼ばれる施設の調査が必要です』
「武器って、あのデカい機械の剣か? 遺跡って……お前が眠っていた?」
『はい。ですが、私が機能停止してから一〇〇九五八年経過しています。現在私にインストールされている大陸図は役に立たないでしょう。早急に地理の把握が必要です』
「そっか……じゃあ、なおさら人がいるところを目指さないと。もしかしたら遺跡もあったりしてな」
『はい。マスターの『|修理(リペア)』で遺跡を修理すれば、私が使用可能な新たな武装か、姉妹機である『戦乙女型』が目覚めるかもしれません』
「修理……う~ん」
俺は自分の手を見る。
あのとき、どうやってチートを発動させたのか覚えてない。それに、壊れた物を修理って大ざっぱすぎるし、もっと検証してみたい。でも古代の物しか修理できないんじゃ検証しようがない。
とにかく、やることは大体決まった。
地理の把握、人のいる場所を目指す、生徒たちの元へ帰る。
「よし、とにかく、これからよろしく頼む、ブリュンヒルデ」
『はい、マスター。『ブリュンヒルデ』はマスターの能力の一つ、ご自由にお使い下さい』
「……あ~その、うん」
やれやれ、とにかく今日は休むか。
ブリュンヒルデに火の番を任せ、俺は葉っぱを敷いた地面に横になった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌日。雑木林の中を進んで行くと、川を見つけた。
川の流れに沿っていけば、人の住んでる町や村があるかもしれない。その考えは当たっていた。
『マスター、周辺に人為的痕跡確認。跡を辿れば人間の住む集落があるかもしれません』
「お、来たか!! よーし行こう、情報と、あとはメシでももらえれば」
幸い、お金なら多少はある。城下町の飲み屋で少しだけ使った。
この世界のお金は全て貨幣で、一番安いのが銅貨で次が銀貨、そして金貨、最上級が白金貨となってる。小銭入れには金貨数枚と銀貨がそこそこある。これならなんとかなるな。
そして歩くこと1時間。川沿いに進む。
雑木林を抜けて見えたのは、川の流れに沿って立ち並ぶ集落だ。木造の家が建ち並び、ゲームで言う『最初の村』っぽく見える。
俺は安堵から、顔が綻んだ。
「はぁ~……なんか安心した」
『マスター、索敵の結果、村は賊に襲われています』
「…………は?」
ブリュンヒルデの無感情な呟きが、信じられなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
相沢先生とブリュンヒルデが訪れた村は、農耕を生業とするどこにでもある小さな村だった。
川から水を引いて田畑を造り、家畜を育て、狩りをして毛皮を剥ぎ、それらを町に卸して収入を得る。
村の悩みは後継者がいないこと。若い男は夢を見て町に旅立ち、若い女は町の華やかさに惹かれ家を出る。そんなありふれた村の一つだ。
そんな村の中心に、村人は集まって……いや、集められていた。
「ぎゃっはっはっ!! 酒だ酒!!」「おい姉ちゃん酌しろ酌!!」
「おい、食いもん持って来い!!」「ぎゃっはっは!!」
この周辺に潜む山賊が、村を占拠したのだ。
山賊の人数は二十人ほどで、それぞれが山で鍛えられた肉体に、斧や剣と言った武器で武装していた。村人では抵抗すらできず、あっさりと村は占拠された。
山賊はまず、村で備蓄している食料や酒を全て要求した。
もちろん、村長は穏便に事を運ぼうとし………あっさりと首を刎ねられた。
村長が殺され、山賊の本気を見た村人は従わざるを得なかった。もし抵抗すれば、山賊は村人全員を殺して全て奪うだけだ。
食料の一部を使い、村の女たちは料理を作らされ、男は余興と称して山賊たちに殴られていた。そして………わずかに残っていた若い女は、山賊たちの慰み物にされていた。
「いやぁっ!! 助けてお父さん!! お父さん!!」
「お願いします、娘は、娘だけは!!」
「うるせぇっ!!」
「っぐはぁ!?」
「お父さん!! お父さん!!」
連れ去られる娘を助けようと、山賊に食ってかかる父。だが、父はあっさりと殴られ、見せしめとばかりにリンチされる。
「オラオラ、もっと本気で来いよ、ホラぁ!!」
「うごっ!! がはっ!?」
「やめろ……やめてくれ、頼む、親父が、親父が……」
齢60を越える老人が、ボコボコに殴られていた。
地面には、涙を流しながらその光景を見せつけられている息子がいる。当然、息子も殴られてボコボコだった。
そして、殴られて倒れた父親の元へ這って進む……そんな光景を、山賊たちはニヤニヤしながら眺めていた。
村人たちは、蹂躙されていた。
何も悪い事はしていない。ただ、運が悪かったのだ。
山賊たちが、この集落に目を付けたのも、運が悪かっただけ。
「へへへ……親子仲良く死ねや」
「う、うぅ……」「おや、じ……」
地に伏す父と息子に向かい、油が撒かれた。
どうやら、彼らを種火にして家畜の丸焼きを作るようだ。すでに牛一頭が殺されて血抜きをされている。山賊たちは興奮し、歓声を上げていた。
そう、村人たちは運が悪かっただけ。
「じゃあ行くぜ!! バーベキューの始まりっぶべぁッ!?」
運が悪かったのは、村人たちだけじゃない。
村人たち以上に運が悪かったのは、盗賊たちだ。
「な、なんだ!?」「おい、なんだあれ!!」「鉄の塊?」
「ふぉ、フォッツが!!」「おい、フォッツが死んだぞ!!」「誰だ!!」
誰も理解出来ない巨大な金属の塊が、盗賊に直撃した。
直撃した盗賊は肉片となり即死。四肢と内臓が散乱した。
そして、空から銀色の戦乙女が舞い降りる。
『マスターからの最優先命令を実行。敵を殲滅します』
戦乙女型アンドロイドcode04・ブリュンヒルデが舞い降りた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺は物陰から、ブリュンヒルデの活躍ぶりを覗いていた。
意外にも、村人たちの救出を提案したのがブリュンヒルデだ。まぁ理由が「情報源である村人を助けるべき」だったけどね。人の命とかじゃなく、俺たちが情報を得るために必要と考えてるようだ。
まぁ、俺としてもこんな状況を見て見ぬふりなんて出来ない。もちろん情報も大事だが、人道として放っておけない。
すると案の定、ブリュンヒルデは囲まれた。
「このガキ!!」「おい、上物だぞ殺すな!!」「囲め!!」
ブリュンヒルデの表情は全く変わらない。
唖然とする村人たちや、激高する盗賊たちも同じなんだろう。そこには、感情のない冷徹な、プログラムを遂行するだけの兵器がいた。
『特殊兵装【乙女神剣エクスカリヴァーン・アクセプト】着装形態へ移行。【乙女剣エクスカリバー】・【女神剣カリヴァーン】展開。補助武装展開』
俺・村人たち・盗賊たちは唖然としてその光景を見ていた。
なんと、機械剣が分解しブリュンヒルデの鎧と合体、ブリュンヒルデの鎧はさらにゴテゴテし、左右の手に片刃のレーザーブレードが握られていた。
そして、機械剣のパーツが背中と肩、両足に装着され、噴射装置のように光の噴射が起き、ブリュンヒルデの身体が浮き上がる……これ、オーバーテクノロジーとかそんなレベルじゃない。山賊の持つ斧や剣が棒きれに見えるレベル。
そして、変わらぬ無感情なブリュンヒルデは言った。
『殲滅します』
こうして、真の蹂躙が始まった。
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