『その願望の答え合わせを』
天井花イナリいわく、《グラシャ・ラボラス》の《未来と過去を知る力》、その対象となるのは、現在時間より二時間ほど前か後でなくてはならないという。
つまり十時頃に起こった過去の出来事をその《能力》で知覚しようとするなら、必ず十二時を過ぎなくてはならない。それまでは見ることも聞くことも出来ないのだ。
そして未来を知覚するのも同じ。過去と同様に、《魔力》の続く限りはるか先の未来まで知覚する事は出来るが、現在時刻より二時間後に近づいた未来は対象外になってしまう。
現在から二時間前、二時間後、その間だけが彼女、《グラシャ・ラボラス》の《未来と過去を知る力》の対象外なのだ。
だから、今のひづり達の会話を《グラシャ・ラボラス》が知覚するには二時間以上は待たなくてはならない。ひづりたちの意思を知った彼女がどう出るのか、四人はただ待つしかなかった。
あるいは待てど何の反応も無い可能性もあったが、けれど話し合いから二時間と数分が過ぎた頃、ひづりの携帯電話に一通のメールが届いた。
ラウラ・グラーシャからだった。
『ひづり。明日、二人でお出かけをしませんか?』
官舎ひづりは天井花イナリと共にラウラ・グラーシャを信じると決めた。そしてその話し合いをラウラは《未来と過去を知る力》によって、つい先ほど見て聞いたのであろう。その上で彼女が提案して来た事であれば、ひづりはそれを受け入れる。彼女が望む《順序》に従う。
スマートフォンの画面を操作し、それからゆっくりと深呼吸をしてから、ひづりはその打ち込んだ短い文面を彼女に返した。
『いいよ、ラウラ』
「――ラウラ! おいラウラ!! どうしてお前、官舎に、あんな……感づかれそうな事を言ったんだ!? どういうつもりなんだ!? お前がその《願望》を官舎に打ち明けるのは良いだろう。けど、どうして俺の《願望》までバレるようなことをしたんだ!?」
「そんなもの決まっています。もう終わりが近づいているからですよ、百合川」
「……終わり?」
「物事には順序があります。起承転結があります。生まれたら死にます。それと同じ事です。私の《願望》はこれから数日以内に完遂されます。そしてそれは同時にあなたの《願望》の完遂も意味します。それと、言わせてもらいますよ百合川。あなたと私の《契約内容》に、『百合川臨の《願望》を官舎ひづりにバラすな』なんて項目は無かったはずですよ。《悪魔》の相手の仕方を知らない、《召喚魔術》も知らない身でも、あまりに後先を考えませんでしたね、百合川。……ですが、はっきりと言わせてもらいます」
「な、何だよ……」
「あなたの《願望》、あなたの真実。それらを知ったとしても、きっとひづりは――」
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