異世界戦記・転魔撃滅ガッデムファイア ~ 地球から来た転生者どもはすべて倒す! 絶対神の魂を宿した最強の復讐者が、魔炎をまとって敵を討つ超必殺・撃滅譚!
第104話 夜から舞い降りた救援者――ダークガールズ VS ロータスナイト
第104話 夜から舞い降りた救援者――ダークガールズ VS ロータスナイト
明るい月と星が浮かぶ夜空の下、3つの人影が静かにまっすぐ歩いていた――。
それは、ソフィア・ミンス王立女学院の制服に身を包んだネインとジャスミンとクレアだった。長い赤毛と、長い黒髪と、長い金髪の3人は横に並び、熱を失った土の道をひたすら黙々と進んでいく。
ネインたち3人が石造りの巨大な王都を離れてから、すでに小一時間が過ぎていた。日が沈んだあとの郊外に人の気配はまったくなく、行き交う馬車も見当たらない。オスのフクロウの鳴き声だけが、遠くの森からかすかに響く。
その静寂な夜の道を北東へと向かっていた3人は、広い空き地についたとたん足を止めた。奥に見える
「……ジャスミン。シャーロットをさらったのはあいつらか?」
「そうだ」
ネインが淡々と訊くと、ジャスミンはわずかにあごを引いた。
「髪の長い方が大地魔法の使い手だ。背の低い方は風を操って空を飛ぶ」
「そうか。わかった」
ジャスミンの説明を聞いたネインは1つうなずき、それからゆっくりと歩き出す。そして2人の少女のかなり手前で足を止めて口を開いた。
「オレがネイン・スラートだ。シャーロットはどこだ」
「……えっ? あんた男なの?」
ネインの声を聞いたとたん、黒髪の少女はパチクリとまばたいた。ネインの見た目は完全に女子なのに、その声は紛れもなく男性だったからだ。もう1人の金髪少女もキョトンとして、不思議そうな目つきでネインを眺めている。
「「――ステータス・オン」」
軽く呆気に取られていた2人の少女は、ネインを見つめながら同時に特殊スキルを発動した。そしてネインの頭の横に現れたステータス画面を見たとたん、2人そろって首をひねった。
「……フウナ。どう思う?」
「う~ん、名前はたしかにネイン・スラートって書いてあるけどぉ……ヨッシーはどう思う? この子のステータス、なんかめっちゃ低いんだけど」
「そうなのよねぇ……」
ネインに聞こえないように小声で答えたフウナの言葉に、ヨッシーは困惑顔でうなずいた。
「すべてのステータスが50から70って、どう見てもただの子どもでしょ。しかも使える魔法は第1階梯の
「ううん。ぜぇんぜん思わない」
フウナは首を横に振り、ヨッシーの耳元に口を近づけてささやいた。
「ねぇ、ヨッシー。もしかしてあのメナって子、あたしたちに嘘ついたんじゃない? そいでジャコンさんも、あたしたちのことからかったんだよ」
「そうねぇ……。ジャコンさんの拷問を受けて嘘をつけるとは思えないけど、この子のステータスを見る限り、そうとしか考えられないわね……」
「じゃあ、どうしよっか?」
「どうするって――」
「――おいっ! おまえたちっ!」
ヨッシーとフウナが小声で相談していると、それまで黙っていたクレアがネインの前に1歩出て、いきなり声を張り上げた。
「何をコソコソと話しているっ! おしゃべりはシャーロット様を返してからにしろっ! シャーロット様はどこにいるっ! 素直に答えねば2人まとめて斬り捨てるぞっ!」
「はあ? あんたなに? 部外者は引っ込んでいてくんない?」
「私は部外者などではないっ! シャーロット様の騎士だっ!」
ヨッシーが呆れ顔で言い返したとたん、クレアは両目を吊り上げながら腰の剣を引き抜いた。
「おまえたちがシャーロット様をさらったのはわかっているっ! さあっ! 命が惜しければ早く答えろっ! シャーロット様をどこに隠したっ!」
「いや、べつに隠したつもりはないんだけど、ムダに声のでかいオンナには、なんだか素直に答える気がしないわね――」
ヨッシーは渋い顔でクレアの頭の横をチラリと見た。そしてクレアのステータスを見たとたん、思わず鼻で笑い飛ばした。
「はっ。なんなの、あんた。弱っちいザコのくせに、あんまりでかい口たたいてんじゃないわよ。それともなに? 大声で質問すればなんでも答えてもらえると思ってんの? 剣を抜いて怒鳴りつけたらこっちがビビるとでも思ってんの? あんた人生なめてんの? 甘くみてんの? バカにしてんの? どんだけイージーモードで生きてきたのよ、この世間知らずのお嬢様は。そっちこそ、ムダに死にたくなかったらすっこんでいなさい」
「な・ん・だ・とぉぅ、この小娘がぁ」
ヨッシーに
「待ってくださいクレアさん。あいつらに下手な
「だまれぇーっ! そんな
クレアはネインの手を払いのけて、さらに怒鳴った。
「いまはシャーロット様のお命がかかっているのだっ! さっさとあの小娘どもをとっ捕まえてっ! シャーロット様の居場所を白状させねばならんだろうがぁっ!」
「焦る気持ちはわかります。ですが、オレたちの戦いには口を出さないと約束したはずです」
「ああっ! 口は出さんっ! だが剣は出すっ!」
クレアは青い剣を夜空に突きつけ、ヨッシーとフウナをにらみつけた。
「いくぞぉーっ! この身の程知らずの小娘どもがぁっ! 貴様らごときっ! 私1人で打ち倒してくれるっ! うおおおおおおおーっっ!」
「……やれやれ。ほんと、弱いザコってのはよく吠えるわね」
雄叫びを上げながらいきなり突進してきたクレアを見て、ヨッシーは呆れ果てた顔で息を漏らした。それから腰の妖刀をゆっくり引き抜き、緑色に光る鋭い切っ先を黒い大地に突き刺した。
「
その瞬間、地面から岩の柱が斜めに飛び出した。その高速で撃ち出された細い柱は、クレアに向かって一直線に伸びていく――。
「――なっ!?」
ヨッシーに向かって全速力で突っ走っていたクレアは、いきなり襲いかかってきた岩の柱を反射的に剣で防いだ。しかし――猛烈な勢いで突っ込んできた柱の威力を受け止めることはできなかった。柱の直撃を斜め下から受けたクレアは宙高く吹き飛ばされ、はるか後ろの大地に転がった。
「クレアさんっ!」
「――待て」
クレアが地面に倒れたとたん、ネインは反射的に駆け寄ろうとした。しかし、ジャスミンがネインの前に立ちはだかり、クレアに向かってあごをしゃくった。するとクレアは、ふらつきながらもすぐに立ち上がって剣を構えた。
「な……なんの……これしき……」
「あらら。やっぱり
クレアが再びヨッシーに向かって走り出したので、ヨッシーは渋い顔で肩をすくめた。そしてもう1度妖刀を大地に突き刺す。すると今度は、疾走するクレアの目の前に大きな岩の壁がせり上がった。しかし岩の壁が進路を
「っはぁーっ! こぉの愚か者がぁーっ! ただの壁ごときでぇーっ! この私を足止めできるとでも思ったかぁーっっ!」
「……ほんと、バカね」
ヨッシーは自分に向かって突っ走ってくるクレアを見て鼻で笑った。そして、クレアの背後に作った岩の壁を指さしながらフウナに言う。
「フウナ。あの壁、使っていいわよ。ただの壁でも強力な武器になるってことを、あのバカ女に教えてやって」
「あいあーい、りょーかーい」
ヨッシーの指示を受けたフウナはニコリと微笑み、腰の妖刀を引き抜いた。そして青く光る刀身を頭上に掲げ、クレアに向かって振り下ろした。
「
その瞬間、夜の空気が渦を巻いた。フウナの刀の先端に一瞬で集まった渦は、激しい突風に姿を変えてクレアに襲いかかっていく――。
「んなっ!? なぁにぃーっ!?」
風の激流にいきなり飲み込まれたクレアは、再び後ろに吹き飛ばされた。そして猛烈な勢いで
「がっはぁ……」
ほとんど大の字で壁に叩きつけられたクレアは、肺の中の空気をすべて吐き出しながら白目を剥いた。そして冷たい大地に転がり、完全に動きを止めた。
「――クレアさんっ!」
ネインはジャスミンの横をすり抜け、すぐさまクレアに駆け寄った。しかし、何度名前を呼んでもクレアの意識は戻らない。すると、ゆっくりと近づいてきたジャスミンが、クレアの首筋と鼻の下に指を当てた。そして首を小さく横に振った。
「――死んではいないが、これは駄目だな。しばらくは目を覚まさない。おそらく、影の中から出てきた黒い大蛇と戦った時に、すでにけっこうなダメージを受けていたのだろう」
「……ジャスミン。さっきはなぜ、オレを止めた」
ネインはジャスミンの言葉を聞き流し、低い声で問いただした。クレアが最初に倒れた時、ネインはクレアとヨッシーの戦いを止めようとした。しかしそれをジャスミンが邪魔したからだ。するとジャスミンはおもむろに立ち上がり、声に力を込めて言い返した。
「図に乗るな、ネイン・スラート。この女騎士は、あの害虫どもに自分の意志で戦いを挑んだ。それを止める権利は誰にもない」
「しかし――」
「黙れ」
ジャスミンはネインをにらみ、言葉を封じた。
「この女騎士にとって、シャーロットは何よりも大切な存在だ。だからこそ、抑えきれない怒りとともに剣を抜いたのだ。ならば、たとえ命を落とすことになろうと、黙って見届けるのが戦士としての礼儀だろう。この女騎士の強い想い、おまえなら理解できるはずだ」
「それは……」
ネインは一瞬、言葉に詰まった。しかし、ジャスミンの言葉の奥底に流れる熱い想いを感じたネインは、クレアに目を落としてうなずいた。
「……そうだな。たしかにおまえの言うとおりだ。クレアさんは剣に命をかける騎士――。その戦いを止めようとしたオレの方が間違っていた」
「そのとおりだ、ネイン・スラート。おまえは我らの世界を守るために戦っている。しかし、他人の命を勝手に背負うな。その
「ああ。おまえの忠告、肝に銘じておこう」
ネインは地面に膝をつけて、クレアの体を仰向けにした。それからジャスミンと一緒に歩き出し、刀を鞘に戻した2人の少女の前で足を止める。するとヨッシーが
「それじゃあ、邪魔な女がいなくなったところで話の続きに戻るけど、うちの仲間を殺したのはあんたなの?」
「そうだ」
「嘘つかないで」
即座にうなずいたネインを、ヨッシーは鋭い視線でにらみつけた。
「あんたみたいな弱っちいザコに、うちの男子たちが負けるわけないでしょ。ほんとは誰が殺したのよ」
「……オレはおまえたちの要求どおりにここに来た。これ以上の話はシャーロットを返してもらってからだ。それともまさか、メナさんと同じようにシャーロットも殺したのか?」
「安心しなさい。あの子ならまだ生きてるわよ」
ネインが目に力を込めて訊き返すと、ヨッシーは親指で背後を指した。
「こっちの連れの男が、この奥の教会に連れていったから」
「そうか。つまりそいつが、メナさんを殺したんだな」
「あら。なんでそう思うの?」
「そんなことは見ればわかる――」
ネインは、ヨッシーとフウナの腰にある妖刀に目を向けた。
「おまえたちの武器は刀だ。そしてその武器には、大地と風を操る特殊能力がある。それはメナさんの体の傷とは一致しない。つまり犯人は別のヤツということだ」
「へぇ。あんた、けっこう頭いいんだ」
「おまえたちは、自分の目に映るモノを疑おうとしない――」
ネインはヨッシーを見つめながら、自分の頭の横を指さした。
「おまえの仲間たちもそうだった。あの5人の男たちはオレのステータスだけを見て、オレの実力を判断した。だからヤツらは、不毛な黒い大地に
「……あんたまさか、うちの男子たちの死体を見たの?」
「ああ。あいつらの骨を岩の陰に投げ捨てたのはオレだ。ヤツらには、大地に埋める価値すらなかったからな」
「ふーん。どうやらあんたは、マジで私たちの敵みたいね」
ヨッシーは瞳の中に怒りの炎を燃やしながらネインをにらみつけた。するとフウナもすぐさま青い妖刀を抜き放ち、殺気のこもった目でネインを見据えながら声を張り上げた。
「それじゃあ宮本くんはっ!? 宮本くんもあんたが殺したのっ!?」
「ミヤモト……?」
「桃色の刀を持った男の子よっ!」
「ああ、あいつか――」
ネインはイラスナ火山での戦いを思い出しながら呟いた。そして、人差し指で自分の首を切る仕草をしながらさらに言う。
「そうだ。あの男の首を斬り落としたのはオレだ」
「テンメェーッ! このクソヤロウがぁ-っ! マジぶっ殺すっっ!」
フウナは両目を限界まで見開いて青い妖刀を天に向けた。しかしその瞬間、ヨッシーが低い声でフウナを止めた。
「待って、フウナ」
「はあっ!? 今さらなにを待てって言うのよっ!」
「安っぽい挑発に乗るなって言ってんの」
そう言って、ヨッシーはネインの頭の横を指さした。
「そいつのステータスはさっき見たでしょ。あの能力値で男子たちを倒せるはずがない。ということは、真犯人は他にいる。ぶっ殺すのは、その真犯人を聞き出してからよ」
「なにが真犯人よっ! そんなことっ! あたしの知ったことじゃないんだからぁーっっ!」
ヨッシーは
好きだった男の子を殺したヤツが目の前にいる――。その思いで頭の中がいっぱいになったフウナは、怒りが一気に沸騰した。だからフウナは妖刀に精神を集中して周囲の風をかき集めた。そして渦を巻き始めた風の中心で、金色の髪を逆立てながら必殺の魔法を唱えるために口を開いた。
しかしその瞬間――ヨッシーとネインの中間地点の空中に黒い影が現れた。それは夜の闇よりもさらに暗い、漆黒の魔法陣だ。
「えっ!? なにこれっ!?」
フウナは斜め上に出現した魔法陣を見上げて驚きの声を張り上げた。同時にヨッシーとネインとジャスミンも戦闘態勢を取りながら魔法陣に視線を注ぐ。すると不意に、魔法陣の中から何かがゆっくりと降りてきた。
「――なっ!? これはまさかっ!?」
その瞬間、ネインは驚愕のあまり目を見開いた。夜に浮かんだ魔法陣から舞い降りたのは、真紅のドレスに身を包んだ、長い赤毛の女性だったからだ。
その美しい女は優雅な仕草で地上に降り立つと、軽くあごを上げて、その場にいた4人を順に見渡す。それからネインに目を向けて、
「――さて。何やら面倒ごとに巻き込まれているようですね。我が契約者よ」
「あなたは……」
女と目が合ったネインは、動揺を隠せない顔で唾をのみ込んだ。すると隣に立つジャスミンが淡々とネインに訊いた。
「おい。こいつは誰だ」
「……カルナだ」
赤いドレス姿の美しい女性に、ネインは警戒の目を向けたまま口を開いた。
「この人は、オルトリンの森の
そのネインの言葉を耳にした魔女は、もう1度優雅に微笑んだ。
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