異世界戦記・転魔撃滅ガッデムファイア ~ 地球から来た転生者どもはすべて倒す! 絶対神の魂を宿した最強の復讐者が、魔炎をまとって敵を討つ超必殺・撃滅譚!
第102話 闇に立ち向かう3つの光――ライト・ホワイト・ロータスナイト
第25章 4月30日 [4] 集う力――コンセントレーション・オブ・パワー
第102話 闇に立ち向かう3つの光――ライト・ホワイト・ロータスナイト
赤い夕焼け空の下、長い赤毛をなびかせて疾走する人物がいた――。
それは王立女学院の制服を着たネインだった。赤毛のウィッグをつけたネインは石畳の道を素早く走り、女学院の正門を駆け抜ける。そして大きな教会の横を通り過ぎ、きれいに手入れされた花壇の間を突っ切って、見慣れた石造りの建物へとまっすぐ向かう。しかし3階建ての建物の前についたとたん、ネインは愕然と目を剥いた。
「遅かったか……」
足を止めたネインは低い声で呟き、悔しそうに奥歯を噛みしめた。ネインが全力で駆けつけたのはソフィア寮だったのだが、東棟の前に3人の女性が血を流して倒れていたからだ。
「シスタールイズ、寮長、副寮長……」
首のないシスターと、抱き合うように倒れて死んでいるカリーナとアンナを見て、ネインは血がにじむほどこぶしを固く握りしめた。しかしすぐに胸の前で両手を叩き合わせ、青い電流を全身に走らせた。そして素早く壁を駆け
「――シャーロットっ!」
声を張り上げながら室内に駆け込んだネインは、ハッと鋭く息をのんだ。砕けた石の
「この石の破片は戦闘の痕跡か……? しかし、いったい誰が……」
ネインは疑問に顔を曇らせながらドアの前で足を止め、大きな穴の開いた石の壁に手を触れた。
「これは、メナさんの家の前にあった壁と同じ……。やはり大地魔法の使い手が、ここに来たということか……」
「――そういうことだ」
ネインが思考を巡らせながら言葉を漏らしたとたん、不意に長い黒髪の少女が室内に入ってきた。
「ジャスミン! 無事だったか!」
その少女は王立女学院の制服に身を包み、腰に白い剣を
「シャーロットは? ここでいったい何があった」
「……シャーロットは2人組の女にさらわれた。私はそれを阻止できなかった。それだけだ。それと――もう正体は隠さなくていいぞ、
ジャスミンはガラスの扉の手前で足を止め、ネインを振り返ってそう言った。その瞬間、ネインの瞳の中に緊張が走った。
「……おまえ、何者だ」
「とりあえず、今のところは敵ではない」
ネインはジャスミンに鋭い視線を向けながら、男の声に戻して訊いた。ジャスミンもネインをまっすぐ見返しながら、腰の剣を鞘からわずかに引き抜いた。すると、剣の根元に小さなマークが刻まれていた。それは、小さな円からはみ出した十字架の紋様だった。
「それは円十字……」
その瞬間、ネインはジャスミンの正体に気がついた。
「そうか。おまえが
「そういうことだ――」
ジャスミンは剣を鞘に収め、小さな音を響かせた。
「我らの同胞が命をかけて集めた貴重な情報を、無能な者に渡すわけにはいかない。それで私が派遣されてきた」
「つまりおまえは、オレの能力を見極めるために観察していたってことか」
「そうだ。だから、おまえとシャーロットの事情もそれなりに知っている――」
ジャスミンはおもむろに振り返り、ガラスの扉の外に目を向けた。
「シャーロットをさらったのは異世界からやってきた害虫どもだ。1人は風を操って空を飛び、もう1人は岩を生み出す大地魔法の使い手だった。あの女どもは、王都の郊外にある教会までおまえを連れてこいと言っていた」
「そうか。だったらすぐに行こう」
「待て――」
ジャスミンの話を聞いたとたん、ネインは廊下に向かって歩き出した。しかしその背中をジャスミンが低い声で呼び止めた。
「シャーロットを助けに行く前に確認しておく。ネイン・スラート。おまえはあの害虫どもをどうするつもりだ」
「――殺す」
ネインはゆっくりと振り返り、ジャスミンをまっすぐ見据えてそう言った。するとジャスミンも瞳の中に冷たい殺気を込めてネインを見た。
「その覚悟に迷いはないのか?」
「誤解するな。今の言葉は覚悟などというものではない」
「覚悟ではない? では何だと言うのだ」
「定められた未来だ――」
ネインは声に力を込めて淡々と言い切った。
「ヤツらはメナさんを拷問して殺した。そして今はシャーロットを捕らえている。オレの大事な仲間に手を出した
「なるほど。そういう意味か――」
全身から燃え盛る炎のような怒りを放つネインを見て、ジャスミンは力強くうなずいた。
「しかし、そのとおりだネイン・スラート。我らの世界に土足で踏み込んできた害虫どもは、1匹残らず狩り尽くす――。それこそが、この世界に生きる我らの使命だ」
そう言ってジャスミンは歩き出し、ネインの横を通り過ぎた。
「行くぞ、ネイン。敵は2人だ。緑の刀を持つ女は私が斬る」
その言葉にネインは無言で1つうなずき、ジャスミンに続いて廊下に向かった。しかし次の瞬間、慌ただしい足音がいきなり部屋の中に飛び込んできた。
「――シャーロットさまぁーっ!」
それは腰に青い剣を
「これはいったいどういうことだぁーっ! おまえたちっ! 表の死体はいったいなんだっ! シャーロット様はどこにいるっ!」
「知りません」
「わかりません」
金髪の女性は唾を飛ばす勢いでネインとジャスミンに問いただした。しかし2人は何事もなかったかのように淡々と答え、金髪女性の横を通り過ぎて廊下に出た。すると金髪女性も慌てて廊下に飛び出して、ネインたちの前に立ちはだかった。
「待てっ! おまえたちはシャーロット様の部屋にいたんだっ! 何も知らないはずがあるまいっ! 知っていることを素直に話せっ! ここでいったい何が起きたのだっ!」
「知りません」
「わかりません」
「ふざけるなぁーっ!」
ジャスミンとネインは再び同じセリフを口にして、女性の横を通り抜けようとした。すると女性は腰の剣を抜き放ち、2人に向かって突きつけた。
「我が名はクレア・コバルタスっ! シャーロット様をお守りする騎士だっ! 何があったか話さぬうちは、ここは1歩も通さないっ!」
金髪女性は目を吊り上げて2人をにらんだ。しかしネインとジャスミンはその鋭い視線から目を逸らし、無言のまま315号室に入っていく。そしてベランダから飛び降りて地面に着地し、遠くに見える教会の方へと歩き出した。
「バ……バカな……。この高さから飛び降りてなんともないだと……?」
2人をベランダまで追いかけたクレアは、何事もなかったかのように立ち去っていくネインたちの背中を呆然と見下ろした。しかし即座に気を取り直し、廊下に飛び出して階段を一気に駆け下りた。さらに全速力で突っ走り、再び2人の前で両腕を横に広げた。
「まっ……待て……待ってくれ……」
クレアは荒い息を肩で整えながら、ネインとジャスミンを交互に見た。
「頼む……。私は何があってもシャーロット様を守ると誓ったのだ……。我が命と剣にかけて、シャーロット様を守ると心に決めたのだ……。だから頼む、教えてくれ……。シャーロット様はどこにいるのだ……」
「知りません」
クレアは頭を下げて頼み込んだ。それでもジャスミンは、やはり淡々とした顔でクレアの横を通り過ぎた。しかしネインはその場で足を止めたまま、クレアの顔をまっすぐ見つめて口を開いた。
「……シャーロットはさらわれました」
「なっ!? なにぃっ!?」
その言葉を聞いたとたん、クレアは必死の
「だれだっ! いったいどこのどいつがシャーロット様をさらったのだっ!」
「オレは相手の姿を見ていませんが、2人組の女です。1人は空を飛ぶ魔法の使い手で、もう1人は岩の壁を生み出す大地魔法の使い手です」
「空を飛ぶヤツと、大地魔法の使い手だと……?」
その瞬間、クレアの体がふらりとよろけた。その2人が使う魔法は、王位継承権者を暗殺した犯人の特徴に
(そ……そんなバカな……。シャーロット様の素性を知っているのは、信用できるごくわずかな人間だけだ……。情報が漏れるなんてありえない……。それなのに、暗殺者どもはいったいどうやって
クレアは奥歯を噛みしめて、動揺する心を必死に抑えながらネインを見た。
「……それで、その犯人たちはどこにシャーロット様を連れていったのだ」
「それを聞いてどうするんですか?」
「無論、騎士団を総動員してお救いするのだ」
「では、教えることはできません」
「なぜだっ!?」
ネインの返事に、クレアは愕然として声を張り上げた。しかしネインは淡々と言葉を続ける。
「ヤツらの狙いはオレだからです。だからオレがヤツらのところに行けば、シャーロットは無事に解放される可能性が高い。しかし騎士団が駆けつけたら、ヤツらはシャーロットを殺して逃げるでしょう。だから教えることはできません」
「なに……?」
その瞬間、クレアはハッとしてネインを見つめた。
「シャーロット様をさらった犯人どもの狙いはおまえなのか?」
「はい。オレは先日、ヤツらの仲間を殺しました。そのかたきを討つために、ヤツらはシャーロットを人質にしてオレを呼び出しました」
「つまりシャーロット様は、おまえのいざこざに巻き込まれただけということか?」
「そうです。だからシャーロットは、オレが必ず助け出します」
ネインは声に力を込めてそう告げた。そして再び歩き出し、足を止めて待っていたジャスミンの方に向かっていく。するとクレアもすかさず振り返り、ネインの背中に声を飛ばした。
「待てっ! ならば私も一緒に行こうっ!」
クレアは再び2人の前に駆けつけて、胸に
「シャーロット様が解放されたら、私が責任をもって安全な場所にお連れする。騎士団が駄目でも、私1人ぐらいならかまわないはずだ」
その言葉を聞いたネインは、わずかに眉をひそめてジャスミンに目を向けた。しかしジャスミンは、首を縦にも横にも動かさない。
どうでもいい。おまえの好きにしろ――。ジャスミンの冷たい瞳はそう語っていた。だからネインはクレアに顔を向けてうなずいた。
「わかりました。一緒に来てください。ただし、ヤツらと戦うのはオレたちです。あなたは手を出さずに、シャーロットだけを守ってください」
「もちろんだ! 私はシャーロット様だけを守る! おまえたちの戦いに口は出さないと約束しよう!」
ネインの承諾を得たクレアは
「……おまえは、あのクレアという騎士が何者なのか知っているのか?」
「いや、知らない」
ネインは首を横に振り、ジャスミンと一緒に歩き出した。
「しかし、シャーロットの実家はそれなりに名のある貴族だと聞いている。護衛の騎士がいるとは知らなかったが、いてもおかしくはないだろ」
「そうか。だが、あの騎士は
「ああ、わかる。……だが、大事なのは剣の強さではないはずだ」
ネインはクレアの背中をまっすぐ見つめ、声に力を込めて言い切った。
「あの人は、命をかけてシャーロットを守ると口にした。そしてその強い想いがオレの心を動かした。だからわかる。あの人は頼りになる騎士だ。たとえ今は弱くても、いつか必ず強くなる」
「本当にそう思うのか」
「ああ。間違いない。――待て、ジャスミン。教会の影を見ろ」
「……ああ、見えている」
再び淡々と訊いてきたジャスミンに、ネインは力強くうなずいた。しかし次の瞬間、ネインはとっさにナイフを手に取り、ジャスミンも白い剣を抜き放った。すぐ目の前まで近づいていた教会の影から、何か得体の知れない黒いものがゆっくりと浮かび上がってきたからだ。
「――なっ!? なんだこれはっ!?」
クレアも愕然としながら足を止めて、腰の剣を引き抜いた。
3人の目の前に前触れもなく現れたのは、巨大な黒い蛇だった。その漆黒の体は森の大木よりも大きく、まるで影そのものが形を成したかのような不気味な大蛇だ。
「あれはまさか、
「あの巨体からすると、おそらくそうだろう」
ネインが警戒しながら呟くと、ジャスミンも小さくあごを引いた。すると、赤から紫色に変わりつつある西の空から何かの破壊音が唐突に響き渡り、闇色の大蛇も西の方に動き始めた。そのとたん、クレアは剣を構えながら大蛇に向かって突進した。
「おのれっ! 神聖なる王都に魔物が発生しおったかっ! だがしかぁーしっ! 私の前に現れたのが運の尽きぃーっ! 我が剣でもってぇーっ! 一撃の
クレアは渾身の気合いを込めて暗黒の蛇に剣を振り下ろした。しかしその瞬間、大きくうねった大蛇の長い腹がクレアの体を弾き飛ばした。
「ごふっ……」
闇の蛇に吹っ飛ばされたクレアは大地の上に転がった。しかしすぐさま立ち上がり、再び大蛇に斬りかかっていく。その一方、ネインは足を止めたまま、西に向かっていく大蛇の様子を見つめながら首をかしげた。
「今の体当たりは攻撃ではない……。偶然ぶつかっただけだ。ということは、あの精霊獣はまさか……」
「ああ。あいつはどうやら、こちらに興味がないらしい――」
ジャスミンも淡々と呟いて、白い剣を鞘に収めた。
「あの騎士が何度斬りつけても、あの魔獣は気にすることなく西の方に向かっている。ということは、ほぼ間違いなく、誰かが何かの目的のために召喚したということだ」
「なるほど……。そういうことか……」
ネインは西の空から響いてくる破壊音に目を向けながらうなずいた。それから、大蛇に再び弾き飛ばされたクレアに近づいて声をかけた。
「待ってください、コバルタスさん。あの大蛇はおそらく敵ではありません」
「なにぃっ!? それはいったいどういうことだっ!?」
連続攻撃で息が上がっていたクレアは、地面に片膝をつけながらネインを見上げた。するとネインは、西に向かって遠ざかっていく大蛇の尾を指さした。
「あいつは目の前にいるオレたちを攻撃しませんでした。ということは、誰かに制御されていると思われます」
「制御だと? つまりあの蛇は誰かに召喚されたということか? しかし、いったい誰があんな巨大な化け物を召喚したというのだ」
「それはわかりませんが、去っていくのなら放っておいた方がいいと思います」
「バカな。あんな化け物を放っておいたら、
「そうですか。では、ご自由にどうぞ。シャーロットはオレたちだけで助けに行きます」
「む、待て――」
ネインが淡々と言ったとたん、クレアはすぐに立ち上がり、青い剣を鞘に収めた。
「私はシャーロット様をお守りすると誓った騎士だ。ならばおまえの言うとおり、今はあの巨大な蛇よりもシャーロット様をお助けする方が先決だ。――だから行くぞ、おまえたち! 早くシャーロット様のところに案内するのだ!」
クレアは額に浮かんだ汗を拭い、再び正門に向かって歩き出した。するとジャスミンがネインに近づいて口を開いた。
「……いいのか? あの騎士の剣さばきを見ただろう。あんな未熟な女を連れていったら、間違いなくこちらの足を引っ張るぞ」
「大丈夫だ。いざとなったらこれを使う」
ネインはポケットから真紅の棒を取り出して、不安そうに眉を寄せているジャスミンに見せた。それは指の長さほどの短いスティックだった。
「何だそれは」
「奥の手だ。これさえあれば、どんな敵でも倒すことができる」
「どんな敵でもか。それはまた、大きく出たな――」
ジャスミンは真紅のスティックから興味なさそうに目を逸らし、クレアの背中を追って歩き出す。そして隣を歩くネインにさらに言った。
「しかし、これはいい機会だ。絶対神に選ばれたという神の子の実力、この目で見極めさせてもらおう」
「ああ、望むところだ――」
ネインは低い声で答えながら、瞳の中に怒りの炎を燃やしてうなずいた。そして右手を前に差し出して、青い電流を一瞬だけ走らせた。
「……出し惜しみはしない。今夜ばかりはすべての
***
その後、地平線に日が沈み、
夜空を風のように突っ切って飛んできた4人の人物が、王都の郊外にある広い空き地に降り立った。それはヨッシー皆本とフウナ
「ふう……。ここまで来れば大丈夫だろ……」
ジャコンは疲れた顔で黒く染まった空を見上げ、安堵の息を1つ漏らした。それから少し離れたところにある
「ま、こうなったら仕方ないな……。この国を出る前に、
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