第51刀 追手
「ヤトガミ、僕はお前らを知っている」
『「であれば分かるであろう、我らに弱点は無い」』
そういう知っているじゃない。DDSはフツノミタマにもうひとつの殺し文句を叩きつけた。
「虚水晶」
「ッ……! 強制命令権行使。攻撃停止!」
「ははは! 今のお前は僕に強く出れないよな!」
DDSは武力そのもの。故に、力を求める者の前に現れる。攻撃態勢そのままのポーズで固まるヤトガミ。DDSはさらに釘を刺す。
「僕は力、未来そして過去。僕は繁栄、そして……絶滅だ。僕がこの世界にいる意味をよーく考える事だ。君のせいで全てが終わらないように……」
フツノミタマは手が白くなるほど拳をにぎっているが、人が変わったように落ち着いて動き出したヤトガミを連れ、その場から姿を消した。
彼はため息をつき、地面に座りこむ。
「はあ〜〜! もう疲れたよォ! ……ミナちゃん、ちゃんと帰れてるかな。僕はまだ遊びたいからなぁ……頼むよ?」
「では、わたくしと遊びましょう」
DDSはくるりと振り向く。次の瞬間、視界が地面に吸い付いた。いや、吸い付いたのではない。――首が落ちた。
頭を失った体も同時に崩れ落ちる。声の主はかろうじて女性だとわかるが、まさか反応すらできないとは。意志がつぶれていく、これはいけない――
地面が揺れた。
「お前、何首落とされてるんだ、って聞こえてないか。オリジナイザーが停止してんな」
立ち上がる巨躯。左腕に刻まれた古代文字が螺旋状に光り、奇妙な構えをとる男。ネイヴァーテイン、卓越する者が『着陸』した。
――――
「ああ、ようやく追いついた。はじめまして。かな? 気が抜けてたんじゃないか? オオクニヌシ」
「……俺を呼び捨てにするとは不躾な奴よ。西洋の連中ってのは初顔合わせで礼を欠くのが流儀かな?」
「そうかもしれない。私の主はそうだった。いやいやしかし、そんな所をちまちま気にするとは。日本の神とは存外、俗物であると理解したよ」
オオクニヌシは笑い出す。歓談に見えつつ物々しい雰囲気が占めるこの話し相手は、歴史上で最も有名であろう武具とその化身だ。
「がははは! その言葉ほざく相手が俺で良かったなあ! スサノオとかに聞かれていたらおまえ、もう砕かれてたぞ。命拾いしたな」
「ああ、私もそう思うよ。煽る相手は選ぶクチとはいえ、神を煽るのはやはり胆力が要る」
オオクニヌシは自身の権能により、自発的な攻撃を縛られている。となるといつもの形で行くのだが――――
「イクタチ、起きるのだ」
「承ろう。我が主殿」
「おや、先制攻撃は出来ないはずだが。故に私がこのようにしていれば貴公はいつまでも……」
「なぜそれを知っているのか? ……間者がいるようだ」
オオクニヌシに応えて勝手に腰の物が抜けると壮年の男性が現れる。イクタチは刀を振ると、数メートル先で突っ立っている光り輝くヒトガタを吹き飛ばす。が、次の瞬間再生成された身体がアスファルトに深く突き刺さった両刃を抜き、切っ先がイクタチのスネ付近を通り抜けようとするが、軽く足を上げるだけでかわし背を向ける。その背中からは剣山のごとく骨が飛び出し、エクスカリバーを攻撃する。ほとんど出を見ずに数本ぶった切りながら体勢を崩した所に素早く振り下ろされた刀。エクスカリバーの刀身とぶつかり合い周囲にクレーターができる。
「これはこれは……厄介な攻撃をしてくる」
「俺たちが君らと同じように騎士道精神とやらを持っている、そうお思いかな?」
エクスカリバーは鍔迫り合いの傍らで片手をフリーにしながら笑う。
「いや、思わないね。だから”厄介”といったのさ」
「何!」
目もくらむ閃光が放たれる。イクタチは思わず目を閉じたが、次の瞬間横凪ぎの熱線がオオクニヌシを捉えようとするが、彼は腕を組んだまま微動だにしない。直撃した、少なくともエクスカリバーはそう思った。
「さあ、先制攻撃されたから俺も動けるぞ。貴様らの目的は割れている。猛仙の上半分だろ? 絶対に渡さん。神が約束したのだ、命を懸けて履行するのが――師匠としての筋ってものだ」
一切のダメージを追った様子のない彼が変わらずに立っていた。
「師匠、か。彼も同じような事言っていたな。親心というのは万国共通ということか」
オオクニヌシは人とともに在る。そして、人を助けることもある。彼はそんな無力な人間の一人であったのだが。どうしても目をかけたくなった。あの小さい体の小さい心が真っ黒い憎悪で塗りつぶされていくのを見たくなかったのだ。ここで見捨てるのは簡単だが、それは後々後悔することになるだろうと直感が教えてくれた。
「師弟というのは良いものだ。俺自身も手本を示さなきゃならないから、身がしまる。人に知恵を授ける側でありながら、人から多くを学ぶ。これも得難いものだ。特に我々のような存在は居るのかいないのか、それすら曖昧なのだから確固たる信仰が必要なのだ」
「要するに、貴公は五代目俵絶を自身の存在確立のため利用したということか。そこまで生にしがみつくのか? すでにこの世界は神の手から離れているというのに」
「その通り。もう神の手の上では動かん。だから俺のような”共存”を願うもののみが残り、それ以外は消えた。そして貴様のような破綻者もここで消える」
エクスカリバーは無言で剣を抜く。
「私が破綻しているかどうか、その身で確かめてみればよろしい」
「確かめるまでもない」
オオクニヌシのその言葉を肯定するようにイクタチが浮き上がると、再度身体を構築する。そして腕から骨が枝のように伸び始めると一対の翼のようになった。イクタチの体から光り輝く刀の先端がちらりと見える。そして彼は中指を折り曲げた印を作り、唱えた。
「限定進化」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます