第33刀 彼女を探せ
「千誉……」
ミナは帰ってからというもの、ずっと連絡が取れなくなっている友人のことを気にかけ、それしか言葉を発さない。さすがにいたたまれなくなったらしく、姉のところから帰ってきた猛仙は皆の顔をちらりと見るなり何も言えずに机に腰掛けうつむき、ヘキサボルグは床に座ってこめかみを押さえている。
と、ケータイに着信が来た。ミナは素早くケータイを取るが、迷惑メールのレポートであった。いつもなら適当に消してしまうところだが、ケータイを布団めがけて乱暴に投げ捨ててしまった。人を巻き込んでしまった事、そもそもこんな異常事態にかかわってしまった事、自分の弱さ、ふがいなさに涙が出てくる。なんで自分ばかりこんな思いしなくちゃいけないんだ。
「ミナ」
小さく猛仙が呟いた。その言葉すら、心に刺さってしまう。
「なによ」
猛仙が顔を上げた。驚いたような、恐怖を感じたような顔をしている。彼のそんな顔は初めて見た。慰めの言葉でも送ろうとしていたのだろうが、また黙り込んでしまう。ヘキサボルグは相変わらずこめかみを押さえているが、その手が耳に移動した。少し座り方を変えながら電話のような挙動で目を閉じている。
――DDS、応答しろ
「ハイハイこちら、DDS。それで、ヘキサボルグ。人探しはネイヴァーのほうが適任だろ?」
――もう当たってる。……お前は電脳世界に行けるだろ
「おお、よく知ってるね。……つまり犯人はそもそも人ではなく、ネット内に潜んでいるかって確証があるんだね? 推測じゃ僕は動けないよ」
――
「ふーん、それは理解した。で? それが電脳世界とどう関係してるんだい?」
――メールを開いたら、その端末が異界への扉になると推測できる。でなければ密室から忽然と消えたからくりが説明できないからな
「そうか、踏み込んだ人間がケータイを見なければ”文字化けした消せないメール”が共通していると答えを出すことはできないからか」
――そういうこと。俺たちは証明するために今からメールを開いてわざと引き込まれる予定だ。引き込まれた後、ジャミングか何かを受けない保証はないだろう。撤退できなくなったらそれこそ自殺するだけだ。お前の空間を破壊する力が必要だ
「そういうことね。だからあらかじめここで相談している、ってことか。いいよ、君たちがもう少し遊ぶ気になったならそれはそれで僕も楽しくなる。後々の行程を楽にするんだろ? それは僕も助かるから協力するよ」
――――――
「ミナ」
ヘキサボルグが声をかける。猛仙も顔を上げる。ミナはうつろな目で「なによ」とさっきの言葉を繰り返す。
「お前の友達、最後に連絡が取れたのはいつだ?」
「……2日前かな」
「なら、まだ間に合いそうだな。俺の推理だが、彼女は電脳世界、つまりネットの世界に引き込まれたと考える。引き込んだ奴が何を企んでるのかは知らないが、そいつの領域に入ってみて行方不明者を救助できそうなら善処する。ケータイを貸してくれ」
ミナは首を振る。もう何も考えたくない。私はもう、疲れた。
「……で」
「ん? どうした?」
「なんで、なんでなんでなんで!! こんなにつらい思いをしないといけないの!!」
「ミナ……」
「確かにそうだね、よく耐えたよ。吐き出しちまえ、全部出してしまえ。言いたいことを俺たちは全部聞く」
「猛仙、救助が……」
困惑するヘキサボルグとは反対に、猛仙はミナをなだめつつヘキサボルグをたしなめる。
「ミナはずっと背負ってばかりだ。一度ため過ぎたものを出さないと大変なことになるよ。人間は俺たちみたいに機械的じゃない」
それを聞いたヘキサボルグは、無言で頷くとケータイだけ確保して待った。ミナはそんな言葉が欲しかったわけではないが、それでも何も言わずふてるよりはマシだ。彼に向かってあふれる感情をぶちまけた。
なんで つらい いたい くるしい かなしい
――こわい
ケータイが光りだす。持っていたヘキサボルグは二度見し、猛仙はもしや、と一つの可能性に至る。ミナは体が軽くなるのを感じた。0と1に分解され、ケータイに流れ込んでいく自分の手を呆然と見つめていたが、猛仙が刀を出した。それが一閃されると、彼の体も一緒に分解されていく。ヘキサボルグは二人を掴み、引っ張るがやはり、彼も0と1に変換されてしまった。
三人分を吸い込んだケータイは、”削除しました”のウィンドウを残し、液晶は誰に見せるわけでもないのに水色の光を放っていた。それも、何秒か経つと消え、ミナの部屋には静寂だけが残った。
――――同時刻、山城峠。峠を爆走するバイクが一台。そのバイクの乗り手はヘルメット越しにでもわかる高揚感でハイになっており、アドレナリンがドバドバしている様子だ。まだ若いというのに、いや、若いからなのか。20の前半だというのに生き急ぐような乗りまわしで、バイクは
その時だった。
そのバイクの乗り手は突然真珠が直線につながったような物体を取り出した。そう、例えるなら尻の穴に入れるタイプの大人のおもちゃ――
「は?」
その言葉が、彼が人生で最後に発した言葉となった。
「これで、完成。今日から君は”首無しライダー”だ」
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