後日談② —その過去は高貴なる者達を縛り続ける—

 桃色髪の大賢者ミシャリアへ新たなる未来が開ける少し前。

 連星太陽も山々の向こうに隠れていた頃……久方ぶりに揃った三人が顔を突き合わせていた。


「君は相変わらず飛び回ってるな、リーサ。フェザリナ卿も頭を抱えていたぞ。」


「……むぅ~~。なんでサイザーにまで、お説教とかされないといけない訳ぇ? 」


「ジェシカの方が良かったか? 」


「それは結構です。」


「本当に変わらないわね、リーサ(汗)。……っと——姫殿下。」


 赤き騎士ジェシカが幼馴染と零した様に、騎士とお転婆姫リーサの間柄には絵も云われぬ親しさがうかがえるが……いかんせんと言う立場上赤き騎士がかしこまる形になってしまう。

 そんな二人とも馴染む策謀の皇子サイザーの姿からしても、三人共が幼き頃からの付き合いであるのは傍目でも想像出来た。


 騎士と姫の変わらずの姿に苦笑を零す皇子。

 そこからおもむろに、後に宣言される事案の触りを語って行く。

 見やりながら。


「お転婆は兎も角、今その魔法力マジェクトロンの制御は何とかなってるのか? あの 消滅してこちら……彼の残した魔導制御機構も限界と察してるのだが。」


「……デリカシー。唐突に、しかも何でサイザーの口からラグナさんの事が……まあいいけど。ご察しの通り、すでにコレは限界寸前……いつ仮制御機構が崩壊して制御不能になるか想像も出来ないわ。ネクロス・マイスターとの戦いでも見たでしょ? 」


「だろうな……。——」


「わーーわーー!? それは言うなっ、言わないでって!! 」


「世界の魔を滅する、弱きを包む……プリンセス リーサただいま見参——だったかしら? 」


「お、おおお……怒るよジェシカ!? なんでわざわざ抜粋してるの!? 私も私でそれはもう、激オコプンプン丸だよっ!? 」


 連星太陽が昇るか否かの王国の空へ、珍妙な名乗りが響き渡り……連星太陽までも恥ずかしさのあまり登るのを一瞬躊躇う——

 訳もない彼らの会話で、一帯へ微妙な静寂が訪れていた。


 だが——その静寂と沈黙を破る騎士が吐露する。

 彼女が大切にしていた幼馴染の過去……姿思い出しながら。


 そして労わりの想いを込めて、優しくお転婆姫を抱きしめたのだ。


「変わらない……違うわね。あなたはとても変わった。」


「んにゃ!? ジェ、ジェシカさん!? 突然何がどうした——」


「あなたは今アグネスの姫殿下。故に他国の部外者による諌言などは以ての外だけれど……労わる事は許されるでしょう? だから、変われたあなたを今は労らせて? 」


「自身の暴走した強大な魔法力マジェクトロンが、民の多くへ望まぬ犠牲を出し……それが原因で全てを投げ捨てる様に塞ぎ込んでしまったあなた。そこから大きな変貌を遂げた、素敵な友人あなたを。」


「……つか、あんたもデリカシー。けど……うん。ありがと、ジェシカ。あなたとサイザーがいなければ、私はきっと世界さえも滅ぼしてたと思うから。」


 法規隊ディフェンサー仮創設以前……さらには、桃色髪の大賢者がまだ術師会に入るか否かの選択に迷う頃。

 世界に響いた由々しき事態が、正統魔導アグネス王国さえも揺るがした。

 まだ幼き王国第一王女が有り余る魔法力マジェクトロンを制御不能のまま暴走させ、救わんとした民の多くを死に至らしめたと言うものだ。


 それは王国からの出先での出来事であり、それ以降第一王女への糾弾きゅうだんが至る所で噴出したのは国家の悲しき歴史にさえ刻まれた。

 そんな彼女がある時出会った一人の男。

 いにしえの時代戦火の火種となった、贖罪を受け煉獄に繋がれるとうぞぶく魔族出生魔王のラグナが彼女の桁違いの魔法力マジェクトロンに興味を示した。


 その時より王女は世間から避ける様に引き篭もる人生から、彼の施した魔導制御の法を以って世界を巡る旅に出たとされる。


 だが当時は人目に触れる事を恐れた王女。

 そんな彼女を今の雰囲気へ導いたのが……魔王の用立てた魔導制御機構〈魔法少女マガ・スペリオル・メイデンシステム〉の副作用である人格変化であった。


 少女の過去をあらかた聞き及ぶ皇子は、ささやかなひと時の中思慮を巡らせる。

 それは眼前の少女を襲うであろう危機を、覆す事叶う存在が降臨したから。

 再び悲劇に塗り潰されるかもしれない大切な友人の、輝ける未来招来の可能性を持つミシャリア・クロードリアと言う希望と出会ったから。


 巡る思考より決を見出した皇子は語り出す。

 彼が抱く壮大な国家構想と同様に切実な、大切な友人の未来招来へと繋がる決を。


「リーサ。ウチの法規隊ディフェンサーと共に行かないか? 今ようやく部隊らしくなって来た所で先の件……どの道ミシャリアに、事の協力依頼をしなければならないのは確実だろう? 」


「……あの子達と? 私が? 何それめっちゃおもしろそう! ああ……確かにあのネクロス・マイスターとの戦いでは、まさか私の魔法力マジェクトロンの片鱗さえ御したのには——実はちょっと驚いてたんだけど。」


「という事は、リーサ様? 、認めるって事ですね? 」


「だ……だっておかー様に、様子を見て来いって言われたのに!? なんで私が全面的に悪い感じになってるのよぅ! 」


 図星を指されたお転婆姫は駄々をこねる様に、涙目で癇癪かんしゃくを撒き散らす。

 二人の配慮はありがたくとも、幼さが時に剥き出しになるのが彼女……過去の悲劇を越えて今を生きるリーサ・ハイドランダーと言う少女なのだ。


 が、実際は癇癪それへ混じるデレを悟られまいとしていたお転婆姫。

 ツンと顔を明後日へ向けた彼女は、すぐに始まる術師会代表移譲の儀のために……慣れぬおめかしへときびすを返してしまった。


「ミシャリアの代表移譲の儀が終われば、オレ達も帝国への帰路を急がねばならないな。」


 苦笑を向けた策謀の皇子は王国領地へ待機させる空挺艦エアロ・シップへ、じき帰路に着くとの連絡のため魔導通信機械端末を取り出し——

 そんな皇子へ盛大な疑問を抱いた赤き騎士が、質問も止む無しと言葉を投げた。


「あの、殿下? リーサ様を法規隊ディフェンサーに同行させるのはいいとして、その……如何さなるのですか? 」


「……あ……(汗)。」


 止まる時と襲う微妙な静寂。

 賢者少女のための儀からの祝勝会……その僅か前のやり取りでも奔走する皇子。


 しかし彼は、羨望抱いて止まない希望のためと力の限りを尽くしていた。

 これより後……世界が大きく動いたその時に、時代を塗り替えた新世代輝皇帝ジェネス・エル・カイゼルの名を轟かせる事となる策謀の皇子は——



 一歩一歩を確実に、つまずき、倒れそうになりながらも邁進し続けていたのだ。

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