Act.142 策謀の皇子、動く

 法規隊ディフェンサー一行へ死霊の支配者リュードの再接触と言う事態が襲ったその日。

 正しく火急と正統魔導アグネス王国より警備隊発の報が飛ぶ。


 魔導機械アーレス帝国との、国家間に於ける協力体制を密にするための魔導機械式通信マガ・スペリウム・ネット——使うべきではないそれを通して一部始終が届けられた。


『——と……以上の件は、ミシャリア様にもこちらからお伝えすると提示しております。そこに問題などはありませんか?サイザー皇子殿下。』


「問題ありません。よくぞその旨を伝えてくれました。こちらも判断に迷う事はないでしょう。感謝致します、フェザリナ卿。」


 すでに帝国首都が要する広大な敷地にて、離陸を待ちわびるは策謀の皇子サイザーが口にした空艇艦エアロ・シップ

 それが魔導回路エンジンを暖め待機する中――艦内で皇子は事のあらかたを整理していた。


 現在その存在はここ魔導機械アーレス帝国と〈アカツキロウ〉にのみ確認される、いにしえの技術と最新の魔導技術の結晶と言われる。

 双方に存在するだけでも数機を数えるばかりの、まさに軍事機密の集合体であるそれ。


 基本設計を同じくするそれらには、帝国とかの暁の大国アカツキロウとの秘密裏に繋がる親密さが垣間見られた。


「殿下、離陸準備は完了しました。精霊術式による承認をお願いします。」


「ああ……それでは——」


 全長は100メトに満たぬそれ。

 しかし先端が鋭利となった流線型のフォルムは、策謀の皇子が提唱する魔導航空力学に基づいた形状であり——赤き大地ザガディアスの航空を飛行する際生まれる大気の圧力を超える力を持つ。


 何よりその際たる物が、その魔導機械の産物には搭載されていた。


 コックピットとなるそこで、帝国の士官クラスとも言える部下が座して承認を待つ。

 策謀の皇子もそこへ顔を出すや求められた儀のため術式展開に入る。


 あの桃色髪の賢者ミシャリアが扱う様な……精霊の力を源とする術式展開を——


超振動ビブラス精霊同調スピリア精霊界励起エレメタリオス——世界の真理たる精霊の元首。我らは技術のくぎきを解き放つ。故に汝らの思惑に沿うか否かを審判願う。』


 皇子の術式展開後浮かぶ小型の魔法陣サーキュレイダが、機内の幾難学模様を形取る魔導設備へ光を呼び……程なく淡い小人の様な姿が小さき手を翳すと——

 空艇艦エアロ・シップの最終安全装着とも言える物が解除され、機械一色であった姿が魔法力マジェクトロンの光を帯びた。


「ジェシカ、そちらの指揮は任せる。この空挺艦エアロ・シップから付かず離れずで飛ぶんだ。」


『了解です、殿下! 聞いたな――各員、空挺艦エアロ・シップの離陸後は艦を中心に鶴翼かくよく陣を形成して飛べ! 』


 すでに離陸寸前である艦から飛ぶ通信に、魔導式通信で応答するは赤き騎士ジェシカ

 しかし親衛隊たる彼女は艦の外で策謀の皇子へと返答した。


 その彼女がいた場所――それは法規隊ディフェンサー古代竜種エンドラとの戦いの折、英雄妖精リドが用立てたかの大翼の怪鳥ガラッサル・バードに準える個体上――

 乗騎に合わせ備えられた鞍と、巨鳥用甲冑を纏う勇ましき出で立ちにまたがり指示を飛ばす。


 さらにそれを囲む様に鼻息を荒くするは七匹の小型翼竜ワイバーン

 中でも軍用に育てられた雄々しき翼上に配下である騎士達の姿があった。


 魔導機械の結晶たる空挺艦エアロ・シップと、大翼の怪鳥ガラッサル・バード――そして軍用小型翼竜ワイバーンからなる混成制空師団。

 魔導機械アーレス帝国が誇る軍事力の一端が全容を顕とする。

 二種類の生命種は、何れも帝国の属国が飼い慣らす制空乗騎。

 それを駆る事の叶う志願者……策謀の皇子をしたって集まる者達で構成された、天空を支配する精鋭である。


 程なく、忠義ある配下を従えた皇子は咆哮を上げる。

 これより後、


「よし……では、空挺艦エアロ・シップ〈ライズセイバー〉発進せよっ!」


 今正統魔導アグネス王国領海先では暗黒大陸よりの刺客がうごめいている。

 すでに事を悟った法規隊ディフェンサーは、さほどの日を置くことなくそこへ挑む宿命を課せられた。

 だからこそ策謀の皇子は、帝国でも極秘中の極秘となる部隊出撃を決断したのだ。



 法規隊ディフェンサーは、極秘部隊の得意とする……安寧が訪れた時にこそ必要な、弱者を救い守るための希望なのだから――



∫∫∫∫∫∫



 そこは術師会が擁するアグネスでも一級のお宿。

 すでに裏取り組みが数夜を過ごした場所。

 経緯としては、昼の一連の大事にかかわわる情報整理も兼ねた食事会をとお師様からの言葉を受け――

 早朝の食事会に合わせ、私達法規隊ディフェンサーは早めの休養と相成った訳です。


 そこでお師様の計らいで、法規隊ディフェンサーに属する精霊の実体化も歓迎される事となり……皆疲労もそこそこに――それぞれ暴れ馬ーズに乗る者と歩く者に分かれてお宿前へと到達します。


「はぁ……ようやくまともなお宿で休めるわね。ティティ卿もその方が良いですよね? 」


「……もうティーにゃんはおしまいおすか?……はぁ。ウチは〈アカツキロウ〉でも、質素と倹約を重んじる民の暮らしを知るため——ようお家の者を引き連れて古民家へ遠征しとったさかい……先の廃屋生活も特に不自由は感じまへんおしたえ? 」


「ティーにゃんがそんなに気に入ってたのか(汗)。まあティティ卿……ご覧の通りこの子は、。贅沢が身に染み付いているのさ。」


「どぅわれがお上りさんじゃいっ!? て言うか、そのネタいつまで引っ張るのよっ!? 」


「しーちゃんの脱げネタぐらい? 」


「その例えはおかしいからな!? ミーシャはん! ウチは脱がへんちゅーねん! 」


「おお……ダブルツッコミが炸裂したじゃん。単発から連続技に強化された? 」


「ふふ……そんな。」


 ティティ卿のとうとさが過ぎるお答えに、誰かさんを弄る方向で答えればオリアナの……そして定番ネタへ繋げればしーちゃんのツッコミが連続可変で応酬したね。

 確かに皆疲れは相当量であるも、どこか満足げで余裕すら漂うのは——当の私がまさかまさかの が関係しています。


 まあオリアナやしーちゃんを先んじて弄るのは、その事を弄られる前に打った先手であるのは内緒の方向で。


「ラブレス帝国の部隊から挑戦状を受けた身だってのに、呑気だなお前ら(汗)。」


「全くじゃ。よもやテンパロットとその点を共有できようとは思わなんだが。」


「おいジィさん……そりゃおれが、メスゴリラと同列とか言ってんじゃねえだろな。」


「切り裂きストーカー! どさくさで、メスゴリラ扱いしてんじゃないわよ!? 」


「この痴れ者が! 忘れた頃にそのジジィ扱いを口にするとは……そこになおれぃ! 」


 テンパロットもは絶好調。

 ヒュレイカまで同時に弄っていく妙義は正しく私の護衛たる証だね。


「あの……この人達いつもこんな風アルか? 」


「すまぬの、大地の精よ。残念ながら、その通りである。」


「なの……。ノームさんもご愁傷様。」


「って、おい(汗)。精霊種までそのくくりで纏めんなよ、ファッキン。」


「あんまり変わんねぇじゃないのさ。」


「変わらないサリー! 」


「キキ、キキ~~(汗)。」


 ペネに始まりフレード君にジーンさんと、グラサンに輩姐さん……そしてサーリャにシェンも含めて居並ぶ大所帯。

 そんな私達を大地の精霊たるノーム氏へ、簡単な自己紹介をすぐにでも送らねばと思考していました。


 そんな私へ思い出した様にしーちゃんが言葉を投げてきます。

 新たな仲間の来訪。

 いえ……それは再会と言う因果が――

 最愛の友人たるしーちゃんから届けられたのです。


「ああ、すんまへんな。ミーシャはん! どさくさで危うく流してしまうとこやったけど……ミーシャはんに紹介したい精霊がおんねん。」


「精霊? それははたまた、この様なご時世に私への面会と……興味深いね。」


「それなんやけどな……彼女はどうやら、ウチとミーシャはんが会うた時よりさらにさかのぼった頃から一緒にいた——言わば再会いう事や。」


「……は? いや、私はしーちゃん以前に精霊と面とかって会話した記憶なんて——」


 しーちゃんの言葉で疑問符がフラダンスを踊り出した私の視界、それは顕現します。

 浮遊するランタンにも似た淡い光を放つ衣に、柔らかくその身を包まれたしーちゃんより少し小さなはかなき気配。


 それを見た刹那。

 私の記憶に蘇ったのは……術師会への入会をと意気込んでいたあの頃。

 ——、なんとなしに思い出されたのです。


「リィィィン……。」


 響く音は精霊からのもの。

 しかし言葉と等しき意識が思考へと流れ込み——


『私……名はウィル・オ・ウィスプ。光の精霊。あなた……賢者ミシャリアは、私の最初のお友達。』


『あなたは気付かなかったけど、私は幸せだった。あの導師の……強制契約に個の意識を奪われるまでは——』



 そう——

 彼女はあのモンテスタが精霊へ向けて行った、卑劣極まりないチート術式の餌食となっていた精霊だったのです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る