Act.119 お笑い護衛団とメイド喫茶

「あの、私は以前首都で暮らしておりました見習い賢者のミシャリアと言う者です! こちら魔導書店での日雇いなどは募集してはいないでしょうか!? 」


 それは私達がアウタークな彼に連れられ首都の外れへと訪れた時の事。

 事前に打ち合わせた通り——

 私が帰郷した見習い賢者……それも昔の自分を演じ、そこに護衛としてツンツン頭さんにデレ黒さんと剣豪妖精さんが従う体を装います。

 見てくれが完全にメイドと化した二人を連れ歩くのは、ある意味木を森に隠す様な物。

 アグネス王国全土にはかの〈アカツキロウ〉からこのメイド文化が伝来し、首都までサブカルチャーに染まっている故の判断だね。


 加えて——現在の作戦行動上あの術師会がかかわる事から、テンパロットの認識疎外が破られる事も想定し各々に指定したキャラを演じる様に伝えた上での今でした。


「——とまあ、こう言う経緯の御仁方だ。帰郷したてで日銭がない所、術士会と縁深き我らアグネス警備隊が案内する事になった。ああ——」


「一先ずそちらの盗賊のなりをした者は、この御仁の護衛。メイド見習いだ。」


「へ、へい! あっしは歯牙無い盗賊家業……と言っても義賊を名乗らせて貰っている、テトと申しやす! お見知り置きを! 」


「(ぷっ……くくく——)」


「(だ……ダメですってば、ティティ卿! あまり笑ってたら……くくくっ! )」


「(オリアナのやろう……後で締める! )」


 と、普段と違うキャラを演じろと言ったら……まさかのテンパロットがまさかまさかの下っ端盗賊並みの演技をご披露し——

 ツボにハマったティティ卿とオリアナが、爆笑をこらえるのに必死になっているね。


 私は彼が盗賊などではない――アーレス帝国が誇る影の暗殺者キルトレイサーであり……源流となる〈アカツキロウ〉の忍びが持つ変幻自在の変装や性格変異術を駆使するのは範疇の内。

 まあ、キルトレイサーを深く知り得ないオリアナの爆笑は分からないでもないのだけど……ティティ卿?あなたは〈アカツキロウ〉出身だよ?と突っ込み待った無しだね。


「なるほど。アグネスの術師会の……まあそちらは兎も角、お二人のメイド嬢は中々見込みがあるね~~。これほどの美しさならば、アグネスでも映えると言うものだよ。」


 カッチーン。

 今主役たる私がオマケ扱いの様に述べたね、この書店店長とやら。

 するとそんな憤慨が顔にでてたのか「どうかしたんですかい!? 姉御! 」とか、謎のフォローを入れてくるツンツン頭さん。

 けれど視線には「いいからこらえろ。」と宿していたので、何とかその場はやり過ごす事に。


 そんなこんなで——

 思考するだけでも情けない一団となった私達は…… 一時的な日銭稼ぎも踏まえた上で、首都のありふれた日常へ紛れ込む事に成功します。

 まあここで稼いだ程度で背負った借金が返せる訳でもないのですが……。


 アウタークなディクター氏の計らいもあり、程なく魔導書店への日雇いが決まり……残るオリアナとティティ卿は別の当てがあるとの助言で、後ろ髪が引かれる書店店長を尻目に足を街はずれへ向けます。

 テンパロットに関しては就労時の直近護衛として私に付く旨を伝えたのですが……何分をチラつかせてしまった辺りで、かなり書店店長とやらに警戒されたものです。


 向かう先はタザックなどとは比べるまでもなく広大な繁華街。

 の……裏手。

 しかし何やら懐かしい雰囲気が漂うそこで私の思考は、最高潮に達します。

 そんな私を見るオリアナの視線が、想像していたのでしょう……それはもう嫌な感じにさげすんで来ているね。


「オ……オリアナ! 見るんだ!あのタザックなど置き去りにするサブカルチャーの町並みを! なんだ、アグネス首都にもこんな素晴らしい文化交流街があるんじゃないか! 」


「ええ……もういいわ。確か私はレーベンハイト家の養子だったはずよね? それがなんですでにオリリンに逆戻りさせる勢いのまま、それらしき場所にまで誘導されるのか……このアウターク騎士には説明を——」


 さげすむデレ黒さんに対し——

 やはり故郷を思い出したのか……ともすれば同じ穴のムジナだったかもしれないティティ卿が目を煌めかせています。

 テンパロットは……さげすみのどん底ズンドコに堕ちた様だね——目が死んだよ。


 メンバーが変われどやり取りが変わらぬ私達。

 そんなお笑い護衛団へ、遠方より響いた声。

 少しだけ懐かしい……永遠のお方の声が、予想だにしない所で襲撃したのです。


「オリリン? ……オリリンじゃない!? なんで首都に!? 旅に出たんじゃ——」


「ふぇ? ……って、ララァさん!? ララァさんじゃないですか! 」



 そう——響き渡った声は、オリアナにとっての第二の故郷を守る家族となった方。

 あのメイド喫茶、〈タイニー娘〉店長兼メイド長のララァさんだったのです。



∫∫∫∫∫∫



「いや、うんさっきはああ言ったけど……やっぱララァさんの手前——オリリンも悪くはないかなって。」


 正統魔導アグネス王国首都での邂逅は、まさかの港町タザックで白黒少女オリアナを支える家族となった女性。

 メイド喫茶〈タイニー娘〉店長兼メイド長 ラメーラ・トリマ——通称 ララァであった。


 そしてアウターク騎士が準備した働き口こそが、永遠の17歳ララァの擁する場所。

 メイド喫茶〈タイニー娘 首都店〉であったのだ。


 騎士に連れられ、永遠の17才に迎えられるまま足を運んだ場所は裏通りでも大規模な店舗——すでに賑わいを見せる〈タイニー娘 首都店〉。


 その従業員用小屋に、お笑い護衛団が招かれ……あつらえられたら席に対面で座していた。


「ふぅ……オリアナもさっきは物凄い剣幕でオリリン扱いを否定していたはずが——まあそこはいいとしてだよ。つまりはララァさん——」


「メイド店店長レベルのあなた故に、首都店となるこちら——別店への応援に来ていたと言う所かい? 」


「ええ、大筋はその通りですね。ただこちら首都店では、私どもも大っぴらには商いを行えない事情があるのですが。それの対処に追われる次第です。」


「ほう?事情、とな。」


 が、久しき再会もそこそこの永遠の17才——視線を僅かに落として事の真相を語る。

 彼女が憂いに沈むその経緯を。


「ここ首都に於いてはやはり、王国権力が直接街を纏める関係上——私どものメイド喫茶をチェーン展開する際避けて通れぬ物があります。」


「それは店舗をこの街に出店する上での許可状や、土地の借用に関する費用など——それら定期申請を各権力者機関に提出の後……許可の後初めて運用が可能なのです。」


「なるほど。それは真っ当な商いに於ける必須項目だね。けど——権力者機関への申請……か。」


 そこまで語る永遠の17才を見やった桃色髪の賢者ミシャリア

 何かにぶち当たった様に言葉を切り——そして険しき表情にて、案内を申し出たアウターク騎士ディクターに視線を移した。


 それを待っていたと言わんばかりに、アウターク騎士が語る。

 法規隊ディフェンサーたる彼女達の怒りの導火線に、燃え油と呼ばれる可燃性燃料を注ぐ様に。


「さすがは法規隊ディフェンサー。僅かな情報でそこに辿り着くとは……感服致す所である。左様……現在この首都の大半にて、そう言った街の権力を牛耳る機関はただ一つ——」


「警備隊にもその一派が紛れ込むかの術師会。本局が黙っているのを良い事に、近年社会の裏の至る所で権力暴走の波を立てる……術師会支局 モンテスタ会が申請受諾条件へ過度な要求を突き付けて来ているのだ。」


 アウターク騎士の言葉で絶句したのは桃色髪の賢者だけではない。

 永遠の17才に家族と言われもてなされた、白黒令嬢までもが同時に憤った。


「オリアナ……。私は君に申し訳ない気持ちで一杯だよ。仮にも君の家族となったララァさんの商売に水を差す輩が、まさかの我が古巣の不貞な愚か者どもとは……!」


「なんでミーシャが謝るのよ。ミーシャは私をこのララァさん達家族と引き合わせてくれた恩人よ? それに感謝こそすれ、謝られるいわれなんてこれっぽっちもないじゃない。」


 視線を落として歯噛みする賢者少女。

 その肩へ優しく手を添え謝罪を制する白黒少女。


 そこへ事を静観した狂犬テンパロット剣の卿ティティが首肯しあい提言する。

 必死に怒りを堪えんとする賢者少女が、少しでも冷静に事を進められる様に。


「なら俺達でまずは就労をこなしつつ監視だな。リドのジィさんが裏取りしてくるまでの間だが……こらえろよミーシャ。それにオリアナも。」


「そうおすな~~。それがミーシャはんのあれこれに関わる言うたかて、今は迂闊に動けまへんよって。」


 そんな会話に耳を傾けていた永遠の17才が口にする。

 自分の家族となった白黒令嬢を救出してくれた、その素敵なる仲間達にならば協力を惜しまぬとの面持ちで。


「あの! もし私どもで良ければお手伝いします! オリアナとの素晴らしき出会いを齎してくれたあなた方には、いくら感謝してもしきれない恩が——」


 まさにメイド長たる彼女が言い終わる刹那——

 アウタークな騎士に付く諜報任務をこなすと思しき者が、小屋へと急く様に訪れ騎士へ耳打ちした。


「今は取り込み中——何と!? うむ、こちらでも対応する! ミシャリア卿——」



 そこに舞い込んだのは——

 後の術師会と法規隊ディフェンサーとの激突を予言する様な事態。

 それが桃色髪の賢者の聴覚を突き抜けたのだ。

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