Act.117 正統魔導王国首都〈ハイゲンベルグ〉
通常の戦列艦であれば、防御を重視した鋼鉄の装甲が弊害となり速度では大幅なロスとなる所——
魔導式機関と霊銀を用いる事で、艦の実質の質量を軽減させる事が叶う。
さらには最新の魔導機械船舶技術を駆使し、荒波を物ともせぬ性能を有する船舶となっていた。
その有り余る速度で
甲板に上がる一行の視界に王国首都の全貌が映る。
「これがアグネス王国首都 ハイゲンベルグだよ……お初の方々。」
視線に捉えた首都の街並みを見やり、
「うわぁ~~! アグネス首都って、港街が一体の街並みなのね! これは……なるほど——警備隊が普通に戦列艦を有してる理由が分かったわ! 」
「こ……これはペネもお初な感じね! 帝国の辺境での暮らしが普通だったペネには、とても新鮮な感じよっ! 」
「ああ……。アタイは運河管理が常の関係で、帝国の首都すら知らない——」
「つまりはお登りさんだね? 」
「ケンカ売ってんのかい!? 」
「だから誰がお登りさんじゃいっ!? 」
「オリアナには言ってないけどね? 」
「んなっ……!? 」
しかしいつもの弄りが水霊に飛び——
すでに自覚がある白黒令嬢がまさかの自爆で赤面する事となる。
ともあれ……一行が港に着く頃には日が落ちるも、未だ連星太陽が山々に陰る時間帯な事もあり——
港に停泊する客船に漁獲船が、精霊光と夕日の共演に照らし出される絶景が視界を占拠していた。
が——
すでに皆が気付く視界の端に、戦列艦を始めとしたガレオン船にキャラック船が停泊。
何れも魔導武装に身を包む、物々しい警備隊と思しき者達が慌ただしく
「これは……想像以上に事が荒れている様ですね。」
「そうだね、フェザリナ卿。私もこれほど物々しい状況は今までの冒険でも初めてかも知れないね。」
甲板のオモテ側に立ち、状況を一瞥する
いつの間にかおちゃらけた雰囲気を廃した双眸で。
さらに言葉を追加する美貌の卿。
それがまさに、これより踏み込む事態へ混迷を呼ぶ事になった。
「ミシャリア様。今私達が目にしているのは守備隊に属する法術隊です。が——あの法術服は彼ら……モンテスタ術師会に属する別部隊となります。」
「……はぁ。なるほど……守備隊は術師会に通じてはいるが——そこには本局と支局が入り混じっている、と言う訳だね?」
「お察しの通りです。」
美貌の卿が語る事実は賢者少女へ……そして甲板で状況を確認せんと上がる一行にも突き刺さる。
つまりは依頼や支援を送ってくれる同胞の中に、敵対する可能性がある者が混じる事態であった。
そこまで耳に入れた桃色髪の賢者は双眸を閉じ思考する。
現状意気揚々と
そこでと思考をまとめた上で双眸を開き、集まる仲間達を一瞥し告げた。
術師会支局対策となる行動指針を——
「いいかい、皆。私達は現状、あのモンテスタ会に拘わる者らに素性を悟られる訳には行かない。当然精霊組の助力もすぐには受けられない状況だ。という訳で——」
「まずは私を始めとしたチームで、支局の動きの
視界に
「ま、待つのじゃ! ミシャリアよ、ティティを奴らにぶつけては問題があるじゃろうが!? そもそもティティに呪いをかけたのは——」
との声に、ニヤリと口角を上げた賢者少女は「まあ聞いてくれるかい? 」と
「さらには彼らに臭う不穏な動きの調査を、リド卿をメインとし……ヒュレイカ、ペネ、フレード君へと任せたい。フランにボージェはそちらへ連絡用の足として付ける。迂闊にしーちゃん達を動かせないからね?」
あらかたの作戦概要が告げられる。
チートと呼ばれた存在が起こす騒動の裏を取るため、流れる様に事を進めて行く賢者少女。
そこにはかつて落ちこぼれと言われた姿など、欠片も存在していなかった。
∫∫∫∫∫∫
私達は画してアグネスが誇る首都 ハイゲンベルグへと到着した訳なのですが——
先に皆へ告げた様に、堂々と都への上陸が出来ない現状がありました。
そこで私は皆の戦闘外の能力と、それぞれの機転を活かす方向のメンバー配置とし……私を含めた監視組と裏取り調査組が別々の経路から上陸する事としたのです。
「いいかい?テンパロットにオリアナ……それにティティ卿も。私達は基本落ちこぼれ賢者見習いと、それに同行するお笑い護衛団と言う設定だからね?」
「「うぉいっ!? 」」
「なんだい? テンパロットにオリアナは不満だとでも? 」
なのにこんなに場を考慮したメンツを配した私に意見する二人には、少々苛立ちさんがガタッ!と鎌首を持ち上げたね。
「いや、ミーシャ! お前の考えは分からなくもねぇ……が、お笑いを自称するのはどうなんだっ!?」
「あら、私も狂犬と気が合ったわね! そのお笑いの点を詳しく説明して欲しいものだわっ!? 」
「ふぅ……何だそこかい。先に言ったと思うけど——私は落ちこぼれの賢者見習いだよ? そんな大した権力もない者が、その後ろにアーレス帝国が誇る忍びに名家レーベンハイト家のご令嬢——」
「引いてはかのアカツキロウが誇る皇族に連なる剣豪をはべらせていては、いくらチート導師がマヌケだったとしても流石に警戒するだろう?」
「……お、おう。」
「いやまあ、そう……なんだけどね。」
「お二人とも、信頼されとりますな~~。流石は、ウチとサイはんを救った
苛立った所で敢えての褒め上げる方向に説明すれば……ツッコミ待った無しだった二人が視線を泳がせて照れまくっているね。
さらに褒める方向に乗って来たティティ卿――弄りの新手が降臨した感じだ。
まあ事実ではあるのだけど。
これは万一何らかの戦闘に巻き込まれた場合に、精霊の助力無しで速攻戦力となる布陣でもあるのです。
精霊の加護無しでも大元の鍛錬の桁がズバ抜けているテンパロットに、そもそもが強大な戦力を誇る
加えて、その二人を遠距離から支援できる双銃を操るオリアナは、万が一のチート精霊使いらとの交戦にも耐える事が出来ると判断したのです。
そう——
あくまで耐える事が目的です。
事の裏取りが取れていない今、こちらを敵対者と判断された場合の撤退を視野に入れた布陣とも言えるのです。
少なくとも、あのチートで虚勢を張りたい連中は逃げる者をも利用する。
逃走を図った者が自分達の強さを広め、そうして自分達に楯突くものがいなくなる事を計算に入れた……ダメな方向に狡猾な奴らなのですから——
「取り敢えず港に接岸した時点からが作戦開始だよ? テンパロットもこのメンツなら、認識疎外が発動出来るだろうから忘れずに。ああ——」
「忘れていたけど……これより私達監視組は落ちこぼれを演じるからね? そこは各々忘れない様に。いいね? 」
「「「え……演じる?? 」」」
作戦決行前に追加した言葉に頭を
後で盛大に文句を頂くそれは、まさにお笑い護衛団を地で行くと言う演技に他ならなかったのです。
そうして程なくアグネス首都へと上陸した監視組たる私達。
が……まさか自分が戦闘を考慮し配した布陣が、想像以上に早く威力を発揮する事になろうとは——
私自身も想定の遥か斜め上だったのです。
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