Act.112 運命は、幼き少女を導いて
切実に語られるそれを静聴する
皆一様に、その双眸へ複雑な心境を浮かべる。
まだ一行と知り合って間も無き
それどころか、古株である
それは言うに及ばず、その様な過去があったからこその今であり……一行がみな共にありたいと願った賢者少女を形成する人生そのものであったから。
そんな一行は油断し背後に迫る気配に気付けない。
ギラリと輝く双眸が、たまたま並んで座していた白黒令嬢とツインテ騎士を背後からむんずと抱き寄せ——
「ひゃっ!?」
「すわっ!?」
「何を私に黙って、人の過去を聞き出そうなんてしているんだい?皆々様よ。」
現れたのは当の本人……桃色髪の賢者である。
そこへにこやかに一礼した
「はぁ……。どうやら発起人はフェザリナ卿の様だね。卿は確か術師会と通じている……とするなら致し方ない——」
「そもそも私が妙に考え込んでたからこその、今なのだろう?ならば私自身としても、それを語るは
と、そこまで口にした桃色髪の賢者。
白黒令嬢とツインテ騎士のコメカミをグリグリしつつ、
その視線の先には女性陣が話し込む間に集められた男性陣。
さらには夜分ならば騒がれる事もないだろうと、物見遊山から帰ったばかりの精霊達が
「フェザリナ卿はどこまでお話ししたんだい?」
「はい。ちょうどミシャリア様が、支局宮殿通りの家で住まう導師より……術の指導を受けるか否かという所ですね。」
「……思い出したよ。分かった——そこより先は私が
テラス端から不足分のイスを持ち出す男性陣と、好きずきに腰を預ける精霊種組が言葉を
その一行を一瞥した桃色髪の賢者は語る。
彼女の運命の転機と、それから彼女の身に降りかかった……耐え難き屈辱の日々を——
∫∫∫∫∫∫
お宿の部屋で考え込んでいた私は、先んじられたならばと……全て話す事にしました。
そもそもは、その旨を皆に話すか否かを迷っていた訳でもあり——
けれど、自身にとっての痛む古傷を
ところが皆はそんな私を置き去りにする様に、この身を案じてくれていたのです。
ならば私がウジウジ悩む理由などありませんでした。
取り敢えずフェザリナ卿が話した所からの続きと言う事で——
「ヒュレイカ達は私がメソメソしてた部分は聞き及んだだろうから、そこは
「けれど結果云々は聞いての通り。自身も最近知ってしまった事実で穴があったら入りたい所だけど、叩いた門は何とあの支局。私の最初の人生を狂わせたチート精霊使いがいる部署だったんだ。」
確かに思い出すだけでも胸が痛む過去。
けれど悩んでいたのが嘘の様に口から漏れだすのは、きっと私にとっての自信の源である者達が眼前に居並ぶから。
「そこで門前払いを受けた私だったけど……その時出会った凄腕の導師様から、魔術体系の基礎を徹底的に叩き込まれた。けど——」
「どう言う訳か私は、魔導の術式を上手く展開できなかった。そこで痛感したんだよ……自分は真の落ちこぼれだとね。」
落ちこぼれで……チート精霊使いの支局長にはド素人扱い。
ならばとその導師様指導の元、基礎中の基礎を徹底的に磨き抜いた私——
「けれどある日……私へ手取り足取り教えてくれていた導師様が、キッカケとなる言葉を贈ってくれたんだ。」
「「お嬢の周りを包む大気は澄み渡っているな。それはお嬢が生まれ付き大自然に愛されているからなのだろう。」と……。その時既存の魔導を極めんと躍起になっていた私に、天啓が降りたんだよ。」
ついには……導かれた様な運命の転機に遭遇したのです。
「もう一度術師会への入門を頼み込み——そこで基礎から全てを学んだ後……私が生み出した、私だけの魔導を極めて見せると。」
それは術師会へ入門し、チートを地で行く支局長 モンテスタ・ブラウロス導師を見返すとかそう言う事ではない——己が生み出した魔導を
放った言葉が眼前——
仲間達の心を……魂を撃ち抜いたのが手に取る様に分かりました。
皆の双眸に「それこそがミーシャ。」と言わんばかりに羨望を宿し——
その皆がいるからこそ、今の自分があるとの実感に浸ります。
けれどそこより少し沈黙を挟んだ私は続けたのです。
運命の転機は訪れども、それを生かすための人生を封殺するかの様なチート勢の蛮行の一部始終を——
「導師様の人脈もあり、何とか私はその術師会支局〈モンテスタ会〉へと特別入門する事になったのだけど——そこからがいびり地獄の始まりとも言えたね。」
「なあ、ミーシャ。その導師とやらは、モンテスタ会が支局とか本局があるとかは教えてはくれなかったのか?」
そこへふと疑問を挟むテンパロット。
彼が私の過去に介入する事は珍しいのだけれど、何らかの意図を感じたため茶化す事なく返答します。
「私はその導師様の正体を詳しくは知らないんだよ。古く術師会を引退したレーダとだけ名乗った彼は、有り体に言って私の直接の師匠にあたるんだろう——」
「けれどそれ以外を詳しくは語らなかった。ただ……一度なぜ自分を指導してくれるのか問い質した際、「先行きを見てみたい」とだけ答えてくれたけど——真意は定かではないよ。」
記憶にある我が師の知り得る僅かを語れば、視線を落として考え込むテンパロット。
少しの間を置き「悪ぃ、続けてくれ。」と促して来ます。
ツンツン頭さんも思う所があるのだろうと流し、引き続き過去話の続きへと移って行きます。
しかしそれ以降こそが私にとっての憂鬱極まりない惨状。
チート精霊使いと称された支局導師とその取り巻き達により、顎で使われるかの日々を語って行きます。
「そんな感じで私は、晴れて憧れだったはずのアグネス宮廷術師会への入門を果たす事になる訳だけど——」
「待っていたのは……チートを名乗る取り巻き達からの、研鑽の日々を妨害する様な仕打ちの数々だったんだよ。」
僅かに話を切り一同を見渡せば、徐々に憤怒に塗れる女性陣と……眉根を顰めて同性の蛮行に憂う男性陣を目にします。
自身も語りながら、心が下向くのを吐く息で落ち着けて——
肝心となる事件の話へと進めます。
「それでも己の能力に可能性を見出さんとしていた私だけどね……ある日の術師会試験での出来事——」
「私が試験を迎えるその前日。チートの取り巻きは私が試験に間に合わない様に——支局長の指示とし、当日では解決出来ない無理難題を吹っかけて来たんだ。」
場の空気が——言いようの無い憤怒に包まれたのを確認しつつ続ける私。
そこで気付いたのは、自分自身が以前では想像もつかないぐらいに穏やかにそれを語った事でした。
「当然……試験当日にはその無理難題を終える事など出来ず、遅刻が要因で試験に落ちる事になったんだ。そこであの支局長 モンテスタ導師が言い放ったのは——」
「「遅刻如きで試験を棒に振るなど……我が術師会の恥もいい所。いかな特別入門が叶おうと、所詮は落ちこぼれと言う所かい?」と言う、冷酷無比なる暴言だったんだよ。」
そこで双眸を閉じた私は、すぅ……と心を落ち着けて——感じる皆の労りを心に刻みます。
聞き及んだ真実へ
そして改めて私に着いて行くとの——覚悟の心。
感じた想いを噛み締めた私は、少しだけ……自分の頬が冷たく濡れたのを悟ります。
けれど——
そのまま瞳を見開き、信に足る
眼前で私を何より
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