Act.56 火蜥蜴幼女と白黒少女
伝説に
明けの明星も見えぬ朝方――距離のある
この日彼らが目指すは
そんなささやかな緊張を湛えたはずの一行を強襲するは――朝食前であるが故、盛大に鳴り響いた
「うひゃ!?――ちょ、今のは無し無し!」
「……全くこの子は――まさかここまで腹ペコさんを地で行くとは(汗)。テンパロットは愚か、ヒュレイカでさえここまででは無かったよ?ハラ黒さん。」
「は……ラ?――またあだ名が変わってんじゃないのよ!?つかハラ黒ってなんじゃい!?」
「あきまへんで~~ハラ黒はん。そないウチの見せ場を掻っ
「残念は黙ってなさい!」
「精霊すら付いてへん!?」
朝――薄暗い森林へ木霊するのは、お決まりのバカ騒ぎ。
「確かに実力の程は見せてもろうたがの……まさかここで笑いの点でも想定を上回るとは――中々に侮れんのう、お主ら?」
「いえ……そんな珍妙な芸人集団の様な扱いをなさらないで下さい、リド卿(汗)。これでも我らはれっきとした――」
「のう、見習い賢者ミーシャよ。ワシはこれより旅先案内とは言え、仮にもそなたのパーティーへ同行するのじゃ――せめてその間ぐらいは、堅い呼称を抜きにはせぬか?」
「——そうですか?しかしその場合、我が隊の流儀に則った扱いとなりますが……そこはご了承願えますか?」
「流儀……とな(汗)?」
「くっ……良かろう!ワシ自ら発したのじゃ——そこへ二言など持ち合わせてはおらん!如何様にでもワシを扱うが——」
「「「では、ショタジジイで……。」」」
「貴様らーーーっっ!?」
そして……己が墓穴により、満場一致でショタジジイ呼称が決定してしまった英雄黒妖精は——
自らの不名誉な名前にブツブツと自問自答を繰り返しつつも、
そんな主の、騒がしくも久しく見られなかった満更でもない表情へ——憂いが霧散した様な
∫∫∫∫∫∫∫
ショタジジィ――もとい、リド卿を一行に加え、私達が早々に向かった
殿下からの依頼は期日などに制限が無いものの……
そのためにもそれを穿つ為の決定打にもなり得るオリアナ……あの
それを完全に制御する上でも、
古き時代の火山活動により生まれた岩石に埋もれ伸びる道を、ショタジジイ呼称が決定事項と化したリド卿の案内により進み訪れた洞穴。
そこまではトントン拍子に事が運んだ事で、そのまま
ものの見事に、世間の儘ならぬ現実を突き付けられる事となったのです。
「てめぇ、リド……気でも触れたのか!この俺の前にクソッタレな
「そういう事なら俺も容赦なんてしねぇぜ、クレイジー……まとめて丸焼きにしてやるぜファッキンっっ!!」
「くっ……待たぬか、サラディン!話を聞けと言うておろうに!」
「やかましいっ!〈獄炎、我が声と精を怒れる本流とせよ——
その姿からいろんな意味でヤバさを醸し出す
リド卿が呼称したサラディン氏は、二足歩行ながらも其処彼処に蜥蜴的な鱗を思わす表皮を持ち——鋭く尖る牙を覗かせる、
つい先ほどリド卿が話をと呼び出した直後でこの惨状。
正に聞く耳持たぬとはこの事だね。
そして
「ちょっとリド卿!あの精霊、全然全くこれっぽっちも聞く耳持っていないじゃ無いか!?これはすでに話し合いどころじゃ——」
「うむ!ちと逸ったかも知れんな!ショック療法のつもりじゃったが、逆効果の様じゃ!」
「おいっ!?無責任過ぎんだろリドさんよ!?」
「みんな、下がるの!火炎が——来るの!」
そんなこんなで逃げ果せる形の私達は、
微妙な違和感を感じ一行を一望しました。
そして……ポロリとその違和感の正体を口にしたのです。
「ちょっと……あのハラ黒さん—— 一緒に逃げてきたんじゃ無いのかい?」
「「「……あっ(汗)」」」
なんという事でしょう——
あの新参なおバカさん……まさかの逃走中に
……本当に何やってんだよ、あのバカヤロウさん……。
∫∫∫∫∫∫∫
皆がヤバイ
あの火炎の襲撃をかわした直後……ちょうど避けた先にある下へと伸びた洞穴へ、滑る様に飛び込んだ私は――
気付いた時には時すでに遅しな状況を目撃したのです。
「どうしよう、これ(汗)参ったわね……。」
荒れ狂う炎の蜥蜴も、こちらが縦穴に逃げ込んだのは気付いていないのだろうけど――それ以上に困った事態が周囲を囲んでいたのに、それはもうゲンナリしたものです。
それは私の視界――洞穴全体を埋め尽くす物が、困った要因を生んでいたんです。
「ここ……とんでもない量の反霊力霊銀が埋まってんじゃないのよ。普通に反霊銀鉱山でも開けそうじゃない。」
反霊力霊銀――それは霊銀の中でも
魔導科学的見地からする所ではレアメタルと称される稀少物質です。
その際たる特徴は――
「――ふぅ……こりゃ全然だめね。術式は発動と当時に相殺され、充填済み
私の着るメイド服は、その下地となる部分に魔法繊維を織り込み――そこへ
まあ実際の所……あのフレード君が持つゴツゴツしいメイスの様な飛行が出きる訳ではなく――
最初に我がバスターズと戦った折に、少々の重力を無視して自由落下速度を軽減するか……ちょっとした場所へ軽く浮遊して上ることが出きる程度の代物。
問題は簡易術式を展開しようにも、そのなけなしの魔法術式が相殺される実情にあったのです。
「はぁ……これミーシャに滅茶苦茶心配かけちゃうパターンじゃないの。全く――どうしてこうなったのよ私。」
かく言う自分はあの狂犬とツインテ――二人の護衛と、フレード君と共闘しておぼろげながらに見えてきた儘ならぬ現実を自覚しています。
それは彼等の中での実戦経験――それが自分だけ圧倒的に不足している事実でした。
言わばその未熟が、受けた強襲を回避する一つの行動で露呈する事実に――私は流石に落ち込んでいたのです。
そんな現状に嘆息のまま、何とか出口をと歩を進めた私の眼前――飛び込んできたのは小さな影。
所々に炎の揺らめきの様なものが見えた事で、先に同じような存在に襲撃された現実が蘇り――
「あんた……もしかして、あの
「……サリ。誰サリ?」
過ぎった思考のままに問いかけ……同時に確認した小さな影の正体は――酷く弱々しい、炎揺らめく幼き少女の姿でした。
あの頑固親父と称された精霊からすれば、もはやマスコット感全開な愛おしさすら浮かぶはずの姿が……見る影も無い様に横たわっていたのです。
刹那――自分の装備が見舞われた異変が思考に明滅し、すぐさま周囲を睨め付けます。
同時に、眼前の精霊と思しき少女も同様の事態に見舞われていると察し――
「もしかしてあんた……この反霊力霊銀に
そう思考した私は迷わず魔法繊維――その一部の
咄嗟に取った行動は少女の力消失を守るもの。
精霊と呼ばれる存在の物質界での実態化は、言わば
反霊力霊銀がその剥き出しである精霊の力を相殺してしまうのを、魔法繊維の衣により幾分弱められると察したからこその反射的行動でした。
「……なん、で……ニンゲンさんが――あーし達精霊を助けてるサリ?パパが……ニンゲンさんはとても悪い……奴らばかりって――」
「ああもう、そういうのはいいから!今あなたは、
そこまで口にした私。
何かを察した様に周囲を見回します。
小さくも僅かな音と振動――次第に大きくなる大地の胎動が、脳裏へ警告を鳴らします。
「やばい……これ。まさか火山性微振動――」
そう思考した直後――
この閉鎖された洞穴へと訪れたのは……
火山の活動が引き起こす、地震と呼ばれる恐るべき大地の怒りが――私と幼き精霊を襲ったのでした。
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