Act.53 英雄皇帝に仕えし精霊使い(中編)
フレード君への昔語りもそこそこに足を急がせた私達。
テンパロットとオリアナに振った暴竜の情報収集に対し、正直こちらの火の精霊情報は骨折り損を覚悟はしていました。
それも聞き込み調査開始直後に出くわした、旅商が沿岸で開く出店で得た結果……「私どももここ最近、あの精霊親子の情報はてんで聞き及びませんね。」との流れを聞いて以来——
聞く先々で、その精霊の情報がすでに形骸化しているのを感じた所なのです。
得られたと言えば、
「有力な情報がないままここまで来てしまったね……。はぁ——ちょっと私は自分に無力感を感じ始めた所だよ。それほどまでにあのテンパロットって言う、一見何もしてない様な情報収集のプロの貢献は
「……そうね――それは同意せざるを得ないわ、ミーシャ。あいつもただ街中をブラついてる訳じゃ無かったんだ。」
「二人とも……ちょっと——テトお兄ちゃんに失礼なの。」
「「あっ……ごめん。」」
ウチにとっての情報収集担当さんの、多大なる貢献を今さらながらに思い知る私達。
そしていつもの調子で出た仲間内の弄りへ、まさかのフレード君からの
そこには兄貴分を尊敬する弟分の憤慨がこめられ……ている筈なのですが、どうにもその憤慨したお顔がプリプリとオコな愛らしい美少女を彷彿させ——油断していた私達は、揃って赤い物をまたしてもお鼻から垂らしてしまうのでした。
そして慌ててお鼻を拭う私達の視界に映ったのは、すでに昨日の時点で……コッチはフラフラ出て行った方ですが——残念精霊さんの姿を発見し、そのフラフラなノリをちょいと諌めようとした私。
ふとその横に目をやると、見慣れぬ小動物の様な物体が浮遊していたのを視認しました。
「やあしーちゃん、珍しく見ないと思ったら。て言うか、一体君はどこでフラフラ道草を——おや?その後ろに飛んでるのは知り合いか何かかい?」
一先ず疑問をそのままぶつけると——
「いやースンマヘンなぁ!ウチとしても、ミーシャはんに少しでも協力したい思うて情報収集をな?まあミーシャはんも、ちっとは勘付いとったやろうけど——」
「こちら、ミーシャはん率いる一行を監視しとった精霊はん——ああ、監視言うてもウチら風の精霊と趣旨は同じやゆー事やから……そこは目くじら立てんといてくれるとこちらさんも嬉しいって。」
「キキキッ☆」
しーちゃんから意外な返答が返され、同時にこちらへ何か友好的な雰囲気を向ける精霊。
蝙蝠を思わせる羽をパタパタさせる、サイズはしーちゃんよりふた回りは大きな感じのほぼ単眼によって構成される身体。
申し訳程度に伸びる脚は同じく蝙蝠に酷似しています。
ですが何故でしょう——傍目からすれば中々に異様な姿なのですが……その仕草の愛らしさが、ちょっとしたキモカワペットの様相を見せ付けてくる彼(彼女?)。
思わず口から……それもペットを愛でる感じで、思いを吐露してしまいました。
「なんだいこの子……新手のキモカワペットか何かかい?その仕草は流石に、ペット愛好家を悩殺しに来てるじゃないか。」
するとその言葉に反応した残念な精霊さん……ズゥゥンと言う音がガチで響く勢いで、落ち込みながら——
「……なんやねん、このデジャブは……。恐れとった事が現実になるやなんて——って、何ウチの肩に羽乗せとんねん自分。「現実は残酷——」……やかましわっ!!」
まさかの初対面精霊さんとの、〈アカツキロウ〉の一大文化……マーンザーイ——またはマンザイを始めます。
これは確かノリツッコミマンザイと言う伝統だったか——恐らくこの蝙蝠精霊さんは、何か特殊な方法でないと意思疎通出来ないと直感し……しーちゃんはそれが可能であるとの解に辿り着いた私。
と言う訳でしーちゃんに通訳を任せる方向で、キモカワイイ単眼蝙蝠精霊さんの紹介と経緯を問う事にします。
「しーちゃんにしてはある意味ファインプレー……ではあるけど、その残念マンザイは後にして——」
「残念マンザイってなんやねん!?」
「いいから!そちらの自己紹介と、ここに訪れた経緯をだね——」
そう。
経緯を聴取したいと思ってた所――
突如として蝙蝠精霊さんが異変に包まれたのです。
何かこう
目ん玉落っこちそうな勢いで驚愕したのです。
「……ちょっ……と、しーちゃん?それは一体どう言う事なんだい??何かこうそちらの蝙蝠さんがえらく巨大化しているんだけど???」
そのサイズは優にジーンさんクラス。
おまけに巨大化した事で広がる翼が、なおそれを巨大に見せる始末。
視界に映る姿を言葉にするならば魔王様が降臨した様な——
「ああ、こちらの名前の紹介がまだやったな!この精霊は世間でもあまり見かけん闇の精霊でな?シェイド言う呼称を持つ精霊や!そいでこの——」
「って——どぅええええええええええええっっ!!??なななっ、何突然デコうなっとんねん自分っ!?」
隣り合う初見さんを紹介中に
て言うか「君も知らなかったのかいっ!?」とのツッコミもソコソコに、なんとか現状把握に努めます。
殺気ではない——しかし戦闘意思が並々と
何かちょっと二人とも、ポカンと口を開けて硬直したご様子でした。
「君達!?油断してる場合じゃ——」
『油断は……禁物ですキ~~!それではあなた方の力量——見定めさせて頂きますキ!』
突如響くは少女の声色。
しかしその発声元は——巨大な姿へと変貌した蝙蝠精霊さん。
「……君——メスだったのかい!!?」
「突っ込む所そこかいなっ!?」
『あなた様が面白い人なのは理解しましたキ~~!しかしまずは、手合わせをお願いしたい所ですキ~~!』
しーちゃんの華麗なるツッコミへのツッコミを
けれどこの状況——肝心の戦闘を熟せる二人が惚けた状態。
しかし問答無用の蝙蝠精霊さんが、膨れ上がる
『闇より出でて、引き裂け
「のおっ!?……っと、待つんだ!?私は落ちこぼれで術式詠唱にも時間が——って聞かないかっ!?」
速射砲の様に打ち出される闇の固定術式と思しき
て言うか、こんな街中でどんぱちって何を考えてるのかと思い周囲を見ると——なぜか人っ子一人いない状況にもしやと問いを……転がる様に回避しつつ蝙蝠精霊へ投げかけます。
「君!もしや人払い的なアレを、展開してるんじゃないだろうね!」
『ご名答ですキ!あとついでに言えばそこのお二人は、闇の精霊術行使に於ける付加効力の餌食なのですキ!』
『——私が発する闇の精霊術は、術式を行使する際……
「……それダメじゃないか!?ウチの護衛にピンポイントだからね!?」
聞くんじゃなかったと思う解が放たれ、確実に餌食真っ只中なウチの護衛を睨め付けつつ打開策を模索していると——
蝙蝠精霊さんからの少々耳を疑う言葉が、私の聴覚を貫きました。
『ああ、これでは見定める事も叶わないですキ!あなた——いい加減その内に秘めたる力を……精霊より精霊力を強制搾取し放つ事の叶う、強力無比の術式をお見せ下さいですキ——』
『あなたが精霊魔術を全力展開したならば……そんな事は朝飯前のはずですキッ!』
「いや、朝食は食べてきたけどねっ!」
「ぶっ……クククッ!」
返した言葉に、何か先ほどから傍観している残念さんが吹き出しましたが……その発言でようやく冷静になった私は——
動き回るのを止めてノーガードにて立ち尽します。
『何を思ったですキ!?これはいい的ですキッ!』
ここぞとばかりに襲撃する闇の霊爪。
ですがすでに理解に至る私は回避する事を放棄します——いえ……私の身の安全を後方で感じた気配へと託したのです。
刹那——
「やらせ……ないのっ!」
響いた声は麗しき男の娘の裂帛の気合い。
纏う法衣を盾として、私の前に立ちはだかり……闇の霊爪を弾き返します。
そして——
「これ以上は好き勝手……させないからねっ!」
轟音と共に振り翳されるは
地を這う様な斬撃が蝙蝠精霊さんを狙い……その眼前で停止します。
『自力で混乱術式を解いた?そして……なんのつもりですキ?私を仕留めるのでは——』
「全く、回りくどい事この上無いね。そんな事で私が精霊を蔑ろにする様な行動を取ると思ったのかい?と言う訳で——」
「最初は私達を見定める物か思ったけど——そこに精霊への扱いが絡むならば、私個人の人となりを測る意図。そう言う事だろう?しーちゃん。」
辿り着いた解で、傍観を決め込む仲間へと問い質し——
「どないや?シェイドはん。これがウチら風が守るべき主や。お眼鏡に叶ったかいな?」
想定した展開で……しーちゃんから今度は、蝙蝠精霊さんへと問いが飛びます。
『フフッ……言わずもがなですキ。では改めて——』
『私はあるお方に仕える闇の精霊シェイド——その方よりシェンと呼ばれるものにございますキ。賢者様……いきなりのご無礼、ご容赦願いますキ。』
人が変わった様に戦闘意思が霧散した蝙蝠精霊さんが、自分をシェンと名乗り——仰々し過ぎる謝意を送って来ました。
いわゆるそこへ、王族貴族と相対していた様な凛々しき風格を込めて——
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます