Act.41 激突!死霊の支配者と超法規隊!

 お宿の宴会場を吹き飛ばした不逞の輩さん。

 その当事者との戦闘と言う事態へ向け、二頭の馬――フランソワーズとボジョレーヌを駆り、山間部に挟まれた街道を駆け抜けます。

 ……眼前に迫る戦闘の前に思考へ過ぎる、暴れ馬なのにその名かよ!?な突っ込みを振り払い――私はツンツン頭の背に横向きでしがみ付く格好で、激しく揺さぶられます。


 「私を襲う気……」などと言っては見た物の、実の所私は馬術には明るくない所もあるため……ヒュレイカが騎士である事を踏まえても、瞬時の選択はまさに絶妙。

 暴れるボジョレーヌを、でねじ伏せるヒュレイカの姿で絶妙さが見せ付けられたね。


「それにしても……オリアナの意見に同意したいほどゴツゴツしいメイスだね、フレード君!大方それは霊銀製で凄く軽いとか言うオチなのだろ!?」


 斜めに腰掛ける様な優雅さで、二頭の傍を滑空するフレード君――神聖魔術式プリースト・マジック・スペルが魔法陣を描き、メイスが飛行する様は世にも珍しい光景です。

 メイスの形状や材質を置いておくとしても、浮遊や飛行術式を扱う術士は概ね魔術師クラス――なのにまさか神官のクラスでそれを実現した者など、初めてお目にかかったね。


「ご名答、なの。さらに加えるなら、これは可変式――そして……術者の霊力に反応する霊銀が、浮遊・飛行を可能にするの。」


「ふぁっ!?ひ……飛行霊銀だとっ!?霊銀の中でも、レア中のレアじゃねぇかよ!やけにゴツゴツしいと思ったら、その形状が魔法陣を自然形成するトンでもないお宝だぜ!?」


「テトお兄ちゃん……流石なの。とても、詳しい。」


 もう最初から兄弟だったかの様な関係を醸し出す二人——そしてお約束の様にそれを視界に捉えるや、またもお鼻からをタラリと滴らせる……ってこの子は一体どれだけネタをブッ込めば気がすむんだろうね。

 おまけに死闘を前にしての体たらくな三人目のおバカさんへ、こちらも苦言待ったなしだよ。


「くっ……そのお兄ちゃんと言う言葉には、違和感しか浮かばないね!そしてオリアナっ――その鼻から噴出している赤い物……そのせいで負け戦なんて、ただじゃおかないからね!?」


「特殊な趣味嗜好は戦闘後まで取っておくといいよ、このおバカ!」


「う、うるはいわへ!わはひの前でみへつへるのが——」


「何言ってるか分からないからね、オリアナ!いいからさっさとそれを拭いて、戦闘に備えないか!」


 鼻を押さえて凄むバラ黒さん。

 なのに一切凄みの伝わらない状況には呆れるしかないけれど——


 すでに山岳部谷間に差し掛かる私達は、不貞の輩に指定された突き出た崖を視認し……早馬の速度を上げようと華麗な名を持つ暴れ馬に鞭を入れ——


 ——ようとした時、テンパロットがヒュレイカとフレード君へ向けて怒号を飛ばします。


「……っ!?奇襲だっ、避けろっっ!!」


 刹那……頭上から襲い来る死霊の攻撃が——私達を暴れ馬ごと飲み込んだのです。



∫∫∫∫∫∫



 法規隊ディフェンサー一行は、死霊の支配者が操る術式完成を見る前に奇襲を敢行したはずであった。

 が——その策略をも上回る死霊の支配者が、を敢行。

 襲い来た死霊の群れが放つ霊撃が、二頭の暴れ馬を爆轟に包んだ。


「くっ——やってくれたね!テンパロット、無事かい!?」


「……くっそ——ああ、気にすんな!かすり傷だ!」


 とっさに桃色髪の賢者ミシャリアを庇った狂犬テンパロットは、爆轟が生む衝撃で少女を守りながら落馬し——生々しい傷のまま主の前へ立ち塞がる。

 そしてその視線を爆轟による粉塵に塗れ、姿を視認し辛くなっていたフワフワ神官フレードへ向けると……何かを察した少年はそのまま粉塵へと姿を消した。


「ヒュレイカ、オリアナ!そっちはどうだい——」


「大丈夫よ~~!どっかの誰かさんの鼻血以外はね~~!」


「それ、奇襲と関係ないでしょ!?」


「うん……ビックリするぐらい大丈夫だね二人とも。それにしてもだよ——」


 確かに馬を走らせていた者は、あってもかすり傷——しかし肝心の暴れ馬達が、それなりのダメージを負って苦しくもがく。

 そこへ歩み寄り、風の精霊術式による簡易の癒しを施した桃色髪の賢者——その彼女からしても珍しいほどの怒気を塗して、襲撃者が現われるであろう崖上を睨め付けた。


「リュードとやら……ちょっと見境いが無さすぎるんじゃないかな?馬を飛ばす私達に襲撃を掛ければ……こうなる事は分かっているだろう?」


 その怒りは、人以外の生命に対して戦の矛を向けた事による物。

 戦そのものを憎む性分の賢者少女にとっては、憤怒を宿してもおかしくない状況であった。

 そんな睨め付ける憤怒の視線を上空から見下ろす様に、浮遊術式にて舞い降りる姿——


 背後に大型の死霊を引き連れて、死霊の支配者リュード・アンドラストが不穏を纏いて推参した。


「人の戦に駆り出された以上は、戦の道具となり果てる。それが今赤き大地ザガディアスを包む戦乱の世の定め——」


「それを憂うならば、最初から巻き込まぬ事だ。そして巻き込んだならば……その死さえも覚悟せよっ!」


「リュード……あんた、本気みたいね!本気で私を――」


 纏うローブが後方へ舞い飛び……顕となる姿は、ベルトとも——包帯とも取れる帯におびただしい術式文字の羅列を刻む。

 そして顔までも覆うそれは、顔面半分を眼帯状に包み……睨め付けるその目は片目でさえも、刺し殺す闘気をばら撒いていた。

 同時に向けられた殺意は当然白黒少女も貫き――もはや覚悟で腹を括る以外に無い少女も、眉根を顰めて複雑な視線を送っていた。


「はっ……!お出ましだな、死霊の支配者ネクロス・マイスターさんよっ!」


 狂犬が怒気を返すが、それよりも速く背後の巨大な死霊が舞い……法規隊ディフェンサーへと襲い来る。

 その体躯は巨躯の精霊よりやや大きなてい——が、相手は死霊。

 精霊が要する肉体顕現法とは、本質的に異なる法則で現実世界への存在を可能とする死霊体それ……濃密な霊質の塊から、術式を介さない霊的属性を有する攻撃を繰り出す。


 上位の熟練した冒険者でさえ遭遇回避を望む様な、名実供に強敵であった。


「……ちょっと……これ、シャレにならないじゃない!死霊デカすぎでしょ!?」


「油断しない事だヒュレイカ!相手が死霊じゃ精霊装填では分が悪すぎる——実体の無い敵にいくら身体強化で挑んだ所で暖簾のれんに腕押し……まずは死霊の攻撃に対する防衛措置として――」


「三人とも……だっっ!」


「「「防御手段、根性論かよっっ!!?」」」


 法規隊ディフェンサーとしても相手が相手――それしかないのは百も承知。

 が……まさかの気合で攻撃を凌げと言う桃色髪の賢者からの号令――嫌な汗を噴出し、


 ――しかしそれは策である。

 すでに狂犬がその一端を発動したのを皮切りに、賢者の少女がさらに後詰を追加した。

 そこへ起因する点が、先の死霊の支配者が仕掛けた罠を受けた時までさかのぼる。


「(死霊の術式通信の際、フレード君がひっくり返した机から出なかったのはこの時のためだね……。都合よく映像から死角になってたのは幸い――そもそも彼の代理同行がなければ、この策自体が機能しなかったよ――)」


「(もはやフェザリナ卿と警備隊には感謝しかないね、全く……。)」


 賢者の少女が思考する様に―― 一同が爆豪に塗れた際に、店員を守ったフワフワ神官――彼だけは死霊の投影映像の死角にいた。

 倒した大型の机に身を顰めた彼は、スクリーンが現われるのを察知し……そのまま続けて身を顰めていたのだ。

 同時に店員も机後で待機させた事で、彼の存在は確実に――事となる。


 そして奇襲時も敵側に神官おのれの存在を気付かせぬまま、彼は巻き上がる粉塵を利用し姿を消している。

 、手熟れである死霊使いを出し抜く様に……――行動しているのだ。


「さて――こちらも貴公らの奇襲に備え、早々に召喚の儀を切り上げ奇襲へと漕ぎ付けた訳だが……どうやら俺の見込み違いか?明らかにそちらのメンツではこの死霊――」


「相手取るには役不足と感じるが……どうだ?」


 一般論としては、死霊の軍団を相手取る事はまず冒険者とてあり得ない――だが……それと遭遇する様な不運に見舞われたならば、対策が無くしては全滅も必至。

 それでも曲がりなりにも帝国の特務部隊を名乗る彼ら……だからと言って大人しく全滅を待つ様な者達ではなかった。


「……メンツは相応しくないかも知れねぇが――は準備してるぜ?ヒュレイカ、オリアナ!お前達は術者を狙え!オレがこの死霊をまとめて相手取る――」


「しーちゃんとジーンのダンナは、ミーシャを守る盾――ウチのお嬢は任せたぜっ!」


 狂犬の号令がツインテ騎士ヒュレイカ白黒少女オリアナ――次いで奇襲に対し実体化したまま駆けつけた精霊二柱へと響く。

 同時にしたり顔で狂犬がすらりと抜き放つは〈アカツキロウ〉製の至高の業物わざもの、忍者刀・風鳴丸かなきりまる――霊銀の中でも高純度の個体から精製された、部隊内でも唯一死霊への確実な一撃を見舞える代物。

 それを視界に捉えた法規隊ディフェンサー各員は、首肯と供に各々の役へ回る。


 二柱の精霊に守られる桃色髪の賢者はその光景を一瞥し、策露呈を回避する様に舞い降りた不逞へ煽りかけた。


「目に映る戦況で事が大体測れている様だね、リュードとやら。きっとオリアナとの遭遇から今までの私達を、手の平で躍らせる様に観察していたんだろう――」


「ならば敢えて、その戦況分析を狂わせる戦いを演じてあげよう……!我ら帝国超法規防衛隊ロウフルディフェンサーを舐めた報い――しっかりとその身で味わうといいさっ!!」


 この時――

 法規隊ディフェンサーとしても類を見ない、部隊の総力を結集した全力戦闘が開始されたのだ。

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