Act.31 光は光、闇は闇の事情それぞれ

「まいったぜ……とんだ兵器に、警備隊ご登場――ったく、俺達の仕事がここまで空回りに終わるなんざそうそうねぇぞ?」


「すいやせん、兄貴!俺達が不甲斐無いばっかりに――」


「あんな危険な得物持ち出された日にゃ、お前達を役立たずなどとは罵れん……。流石に今回は運が悪かった――だれだよなんて抜かしたのは……。はぁ……俺だな。」


「やべぇ……兄貴が一人でノリ突っ込みしちまってる!?こりゃ尋常じゃねぇ事態だぜっ!?」


 美貌の卿配下の警備隊からまんまと逃げ果せた闇の冒険者ブラッドシェイド達——だが見舞う惨状へ、優男の頭取が微妙に思考を壊しつつ一人ごちる。

 頭取の様相を目にした手下でさえ、それが異常事態であると認識出来るほどで……。


 逃亡する闇の輩共は、そのまま警備隊が有する捕獲権の及ばぬ山間へと逃げ込み——ローブの武器商人との合流を待つ。

 闇の輩共としても別件依頼は惜しくも失態を犯すも——武器の試験運用依頼は見事に達し、充分な報酬が確約された状態であった。


「しかし兄貴……あの武器商人の野郎——ちゃんと報酬は準備して来るんすかね?」


「バカが……。言っただろ?奴はそんじょそこらの武器屋レベルじゃねぇ……。テメェの得る利益ばかり考慮して依頼を持ち掛け、都合が悪くなったら掌を返す様に報酬を無き物にする姑息な下等——」


「そう言う奴らじゃ、相手にならん程の芯を持ってやがる。あの汚ギャル女を始末する上で俺らの利益である破格の報酬を準備し、且つあちらの都合だろう……女の進退の先まで考慮した仕事を振って来た——それが姑息な奴らと一線を画す証拠だ。」


 手下の疑問へ解を提示する頭取は、無用にその武器商人を擁護する様な発言を放つが——いまいちが足りぬ手下は、疑問符と共に頭を捻る。

 予想していた優男の頭取も盛大な嘆息の後、簡略化した解を


「お前らには難解すぎたな(汗)要はあの汚ギャル女が奴の身内か何かだろうって事——それが組織を離反したせいで已む無く始末を買って出た……。その身内へせめてもの手向けとして、光で生きられる機会チャンスを提供――」


「そして仕事を依頼した俺達側には、も準備した……そんな所だ。」


「少なくとも、信を置く者へは義理を必ず通す——そう言う所に芯がある奴だと言いたいんだ。理解したか?」


 ブンブンと首を振り目を輝かせる手下は、ようやく優男の頭取の言葉を理解したのだろう——嘆息しつつそれに対応する頭取も、その扱いは手慣れた物を感じさせた。


 ——と、そこへ別の手下が山間の隠れ家となる岩場小屋へ姿を現し——


「兄貴!武器商人が来やしたぜ!」


 岩場での反響を意識し、やや抑えた声調で客人来訪を伝える手下へ目配せする頭取。

 「通せ。」の意に取った手下もその指示通り、来訪したローブの男を迎え入れた。


「派手にやったな……。こちらも魔導アグネス王国の警備隊がうろつき初めて、街へ居辛くなったではないか……。」


「ああ、そいつはすまねぇな。機械帝国の狂犬が、まさかあんなにこなれたパーティーを組んでいたとは——まぁその点は、あんたに落ち度もねぇ訳だが。と言う訳だ……あのメイド始末の依頼は未完遂って事で構わないぜ。」


 顔を合わせるや揚げ足を取られた優男の頭取も、返す言葉も無いと弁明し——二つの依頼の内一つを未完遂とローブの男へ申し出た。


 が——


「これは今回の報酬だ……一つは予定通り——もう一つは減額済みで準備した。受け取れ。」


 ローブの男が準備した報酬は、ジュエルを多分に内包した金包み——jmzジェムズにして、1200は下らない量の中身が傍目からも想像できた。

 裏社会に属する者達は表社会にその身を晒さぬ関係上、国際切手などを使用せず――ローブの男が準備した様な、キリの良い額のjmzジェムズで直接取引されるのだが――


 ローブの男はと言葉にし――優男の頭取も、今しがた己が提示した内容と食い違う提示報酬へ疑問をぶつける。


「待て……俺はメイド始末の依頼は未完遂と言ったぞ?何でその件への報酬が乗ってるんだよ。」


 その疑問へ僅かに口元を上げたローブの男は、お見通しとばかりに返答して来た。


「そちらもあらかた気付いてはいるだろう?。こちらでも確認したが——お嬢も足を洗う方向でケリがついた様だ。少なくともと……こちらでも認識している。」


「減額して報酬を出した理由が飲み込めたか?」


 直前にあった、頭取と手下やり取りを聞いていた訳では無い——ローブの男が提示したのは、最初から全て織り込み済みの解である。

 一介の武器商人とは一線を画す先見性を、まざまざと見せつけられた頭取は舌を巻いた。

 眼前の武器商人は、己が推察した通り——否……であると。


「そうかい。なら俺らは、暫く街を離れてほとぼり冷める頃にまた動くとしよう。世話になったな、武器商人さんよ。」


「こちらも良い商売をさせてもらった。提供した試験武装は、好きに使うといい……では、邪魔したな。」


 まさに商売の鬼の如く、きっちり商売上のやり取りを終えたローブの男——闇の冒険者ブラッドシェイド側へも依頼完遂結果以上の報酬を弾み、連中のアジトを後にする。

 それを見送った優男の頭取は手下へと収集をかけ——


「いいか、報酬は山分けだ!とりあえずガルキアの分は、俺達を逃す役を演じた分多めに残しておけよ!?あいつも時期を見て保釈させる——それを……覚えておけ!」


「「「アイサー!」」」


 ドレッドヘアガルキアを囮に使った割には、意外にもその功績を称える様に扱い――保釈と言う、彼らからする常套手段とも取れる言葉を発した優男の頭取。

 威勢良い相槌を木霊させた闇の冒険者ブラッドシェイド達は程なく……得た報酬を手に姿をくらます事となる。


 それより僅か後——山間から延びる崖上から、鋭く細めた双眸で港街を睨め付けるローブの男……人知れず覚悟をその思考に宿していた。


「(そう……光の世界で穏やかな安息に浸るなら、オレもこれ以上は関与するつもりもなかった。だが——)」


「お嬢——いや……オリアナがその道を行くならば、一切の容赦などせん。お前が——」


「我等が宿敵、魔導機械アーレス帝国第二皇子直属・超法規防衛部隊ロウフルディフェンサーの傘下に下るならば……このオレ——ラブレス帝国軍黒衣の将、・ダークブリンガー閣下直属……死霊の支配者ネクロスマイスターのリュード・アンドラストが相手をしてやろう。……せいぜい覚悟しておく事だな。」


 思考後……遠くお嬢と呼んでいた白黒少女へ向ける様に言葉を零した、死霊の支配者ネクロスマイスターを名乗りしリュード・アンドラストは——

 やがて、霞の消え入る如くその場を後にした。


 真の家族から見放されるも——新たなる家族と、因果の出会いを果たした少女への不穏を残して——



∫∫∫∫∫∫



 オリアナのこれからを話し合うため、報酬受け渡しのやり取り後もフェザリナ卿との会談へ応じる私達。

 すでに昼を知らせる連星太陽は、お空の天頂で燦々さんさんと輝いていました。


「だいたいのお話は分かりましたが……そうなると、こちらも無闇にお国を離れられぬ関係上――やはり代理人の同行が必要となりますね。」


「すまないね、フェザリナ卿。何分殿下より、万一部隊へ相応しき仲間勧誘と言う事例が発生した場合……まずは面接として、直接殿下に会わせる様にとの指示を受けているんだ。」


「が、卿から受けた依頼は未だ遂行中——しかし一度アグネス領地を離れるとなれば、その代理による監視も必要と話を振った次第。そこは協力をお願いしたいね。」


 そのお昼の最中続く話題は、これより僅か後に一路祖国領地へ向かう私達へ——現在遂行中の依頼が、確実に完遂されているかの判断を下す代理人同行の件。

 それは長期依頼を受けた私達にとって、必須とも言える件の話し合いでした。


 〈海日うみひの館〉客間で正座し向き合うフェザリナ卿は、逡巡の後何か閃いた様に両の手をポン!と合わせ——


「そうですね。見た所あなた方一行には、治癒術を生業とする方がおられない様に見えます。幸いにも私の部下で信をおける神官クレリックがおり—— 一通りの神聖魔術プリースト・マジックこなせますわ。」


「ですので、その者を代理人として同行させる事と致しましょう。無論、冒険への手助けに関しては無償――こちらも任務故、そこはご心配には及びませんわ。」


 願っても無い職種の助っ人案を提示してくれた。


「それは助かるね。実の所、私達は生憎あいにく治癒術の類にはうとい部隊構成だ。そもそもあらゆる術に精通するの賢者である私が、であるが故――殿下の配慮によりを——」


「いや、治せねえから!?」


「ミーシャっ!あなた私達を何だと思って——」


「……盾?」


 私の冗談へ見事に食いついたおバカ二人が面白かったので、あえてそのまま弄り倒す方向へ振ってみると——

 あまりのショックで、二人まとめて真っ白になったね。


「あー、もしかして私も盾って事なの?それ冗談にしては笑えないわよ?」


 そして危うく弄りの巻き添いを食らいそうになったオリアナが、釈明を求めてきたので——


☆として働いてくれるなら、その限りではない。」


 と、ドサクサでメイド喫茶での彼女の名を出したら……引き攣ったオリアナの顔からピキッ!と音がしたね。

 ただそのやり取りで、が思考を支配始める私——苦言としてあえて重き言葉へと変換してみる。


「オリアナが部隊に組み込まれれば……私達はより一層と、へと近付いて行く感じがするね。」


 そして無言。

 僅かな沈黙。

 ア然とする私達は皆一様に、額に嫌な汗を噴出したね。


 その言い様の無い空気の重みに耐えられず、言葉を発したのはフェザリナ卿。


「まぁ!その話は置いておいて——ミシャリア様がアーレスへ立たれるまでには、我が警備隊本体へ連絡し……当部隊の神官クレリックへ話を付けておきますので!それまではこのタザックでゆるりとお待ち下さいな!」


 まくしたてる様に言葉を放ったフェザリナ卿も、間違いなく私の発言の真意を理解してしまったのだと感じた私は——


「そうだね、そうするとしよう。その間に旅の準備もすませて置かないといけないからね。」


 にまとめる事にした。


 そんなこんなで今後の予定を一通り計画した私達は、思い出した様に鳴り響くお腹の音に即されて——

 合わせて事のあらましを例のメイド長さんへお伝えするべく、再びタイニー娘へと足を運んだのでした。

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