Act.24 舞い込む珍依頼

「お話は分かりました……。あらかたお聞きしていましたが——あなた方は任務上、おおよそこの様な珍依頼も多分にこなして来たのですね……。全く……——」


 まさかの逃亡する監視対象が野盗紛いに攫われる珍事件に……急遽足を向けた大元の依頼主側である美貌の卿フェザリナ——慌ててバスターズの宿泊するお宿へ訪れ緊急会議を開いていた。


「ただでさえ監視対象がメイド喫茶に就職すると言う状況――そこへ上乗せする様に対象がさらわれる事態発生など……。正直私共も、は初めてですよ……。」


「お気持ちは分かるけど、残念ながら事実なんだよこれが……(汗)私も空いた口が塞がらないと言うか……誠に如何いかんともしがたいね。」


 お宿に借り受けた部屋内、年季の入った机と座椅子は〈アカツキロウ〉製——そこへ顔を突き合わせて正座する面々。

 しかし呆れ返る様な面持ちで、皆一様に嘆息していた。

 その原因はまさに白黒メイド氏のあられもない珍事——敵対者だの監視だのと言う依頼上の前提が、根元から吹っ飛んでしまったのだ。


 すでにこじれ始める事態に対し、無関係な人物を巻き込むまいと配慮し……バスターズ一行とフェザリナ卿は、白黒メイドの上司へ職務に触らぬ程度に正体を晒した結果——


「無関係などではありません!彼女は今ウチで働く従業員……それを放り出す様な真似は出来ません!」


 の言葉と共に、経営者の鏡の様な店主がとなっていた。

 

「お客様がまさか、あの【アグネス宮廷術師会】の賢者様とは驚きましたが……何とかオリリンを助けてあげて下さい!どうか……——」


「あー、賢者と言ってもまだ見習いだからね?有能極まりないチート共ではないから、それなりの対処しかできないけれど……善処はしてみるよ。」


 メイド長の切実な訴えが、薄桃色髪の賢者の抱く思考から——少しずつ、白黒メイドがである事実を失わせて行く。

 事実——すでに敗北を喫して後の白黒メイドの現状は日銭を稼ぐ事で手一杯な上、復讐を誓った相手にさえ謎の親近感を植え付けさせるなどと——

 すでに〈敵対者〉、〈監視対象〉としての立ち位置も霞んでいる現実があった。


 しばし思考を逡巡させた美貌の卿が、事に対応するため臨機応変の依頼内容を提示する。


「ではミシャリア様、これでいかがでしょう。こちらの依頼はそもそも継続的な種の物……この様な珍事でなくとも、恐らくは多少の依頼内容の誤差も生じたであろうと——私は感じております。ですので——」


「あくまで継続的な依頼の内と言う事で……今回はこのメイド長様からの依頼を、我らが肩代わりし——報酬に関しても、こちらが準備すると言う事で。」


 と、内容を聞き及んだ経営者の鏡ララァ……美貌の卿へ疑問を投げかけた。


「あの!依頼肩代わりの件は、確かに理解出来ますが……私どもでは守備隊様への報酬肩代わり代などを請求されても、十分に準備出来るかどうか——」


「それについてはご心配に及びません。元々こちらの依頼上の出来事……我らもその様に対処させて頂きますので、報酬などをメイド長様が気にかける必要もありませんよ?むしろあなたは、オリアナの素性は兎も角――大切な店員の命を危険にさらされた被害者側なのですから……。」


 当然の質問へ事も無し気に返答する美貌の卿。

 それを見やる桃色髪の賢者ミシャリアも、感嘆を覚えた。


 言うに及ばず、この美貌の卿は正統魔導アグネス王国を守護する警備隊の統括者——故に自国の民の悲しみや不利益あらば、全力を以ってそれを救済する……民にとっての守り神であるのだ。


「……ふぅ……。フェザリナ卿がそう言うのであれば、こちらも従う以外に道は無いね。私としても、女性を拉致るなどと言うゲスで非道な手口には——もはやしか浮かばないからね。」


「ふふっ……それはそれは、ならばこの様な仕打ちをしでかした悪党共は……が待っている事でしょう。」


 二人が笑顔を交わし合う——がしかし……そこに込められたるは先に桃色髪の賢者が口にした点への共感を顕とする。

 ——〈女性を拉致る〉——

 共通したその点への、煉獄より舞い出た魔王の如き憤怒が美貌の卿さえも同調させ……渦巻く憤怒のオーラを昂ぶらせていた。


「ララァさん、だっけ?……心配しなくてもいいわよ。なんせこれ……ウチのミーシャのを点火した感じだから。正直オリアナを拉致った奴ら——無事じゃすまないわね。」


 二人の憤怒に共感したオレンジツインテ——狂犬にの異名を付けられようと、やはり彼女も女性……しかし二人とは違う種の憤怒を宿していた。


「当然私だって拉致った奴らをただじゃ置かないけどね……。この私がと思ったメイドは、オリアナ——いえ、オリリンが初めてなんだから……!」


「は……はぁ?」


「ヒュレイカ……君はあくまで自分の欲望に忠実だね(汗)——しかし今回は、同じ気持ちだよ。。」


 まさかの桃色髪の賢者よりの許可が降り——ぐっ!と拳を握るオレンジツインテが、愚かなる輩への仕打ちに思考を巡らし……嫌な汗を滴らせるメイド長ララァ——

 さらにはその二人のやり取りが、美貌の卿の放つオーラを一層強きものとした。


 愚かなる不貞の輩の行く末を暗示する様に——



∫∫∫∫∫∫



 桃色髪の賢者ミシャリア美貌の卿フェザリナが、珍事態対応で謎の意気投合を見せる時間からさかのぼり——

 メイド長が駆け込んで来た同時刻……狂犬テンパロットは美貌の卿より提示された件の調査として街の散策に当たっていた。

 現在遂行中の依頼にも影響が出る程の事態を察した、賢者の少女の判断によるものである。


「オリ黒も確かに厄介だったが……あの黒の武器商人ヴェゾロッサ本体と思われる組織末端の動きがあると——こりゃ先が思いやられるな……。」


「……痕跡だって?ったく——こりゃ誘ってる様なもんじゃねぇか。決して尻尾を見せず……それでいて、無数の囮を撒いて真相から遠ざける——オリ黒なんて目じゃない狡猾な手口だ。」


 狂犬は美貌の卿がわざわざ封書をしたため提示して来た、僅かな痕跡がある場所へ訪れるが——目にしたと思しき証拠へ、嘆息のまま思考から選出した解を漏らし——

 そこへ込められた黒き組織の本質を垣間見ていた。


 同時に——美貌の卿はそれを知って尚、情報として提示して来たと言う思考に至った狂犬……肩を落とし項垂うなだれる。


「信用は……されている様だが——まだそこへ、一部の配下の思惑が噛んでいるって所か。……って、大概あのローブの男が占めるだろうが……あいつ、何者だ?」


 最初に依頼を受けた際を思い返す狂犬は、依頼があると持ちかけ——美貌の卿の元へ案内を買って出ていたローブの男を警戒していた。

 そこに敵対者と言う概念ではない——

 が、見知った者だからと油断すれば……自分個人ではない——狂犬のバックである国家……差し当たって、泣き虫皇子と罵られたサイザー・ラステーリ皇子殿下の信用に多大な影響を及ぼす存在と捉えていた。


「……皇子殿下の信用をおとしめる訳には行かない、か——はぁ……なんでオレにこんな重責がのし掛かってんだ?勘弁してくれよ……。」


 それは不満の吐露にも取れる狂犬の発言——だが……そのギラつく双眸には、一点の曇りも存在していなかった。


 そこにはローブの男が想定通りの者であり——且つその者が如何いかな試練を課そうとも、皇子殿下への忠誠は決して揺るがない。

 故に皇子の信用を貶める様な腑抜けを演じる事などない言う、頑ななまでの忠誠の志が宿っていた。


「さあ……状況はだいたい掴めたぜ。あとは奴らが動く前に、どう始末をつけるかだが――」


 調査が終了した時点――狂犬は未だ知り得なかった。

 であり、である少女が……まさかの野党紛いに拉致されると言う、目も当てられぬ珍事件が発生していた事を――

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