第5話 龍と楽士

むかしむかし長く栄えた国に王様がいた。

王様は年老いて何をしても楽しむことがなかった。

家臣たちは心配して、流行りの店につれていった。

王様は、豪華なご馳走を目の前にしてもつまらなそうだった。

楽士のけたたましい音とともに踊り子が出てきた。

王様が、今まで見たことのない美しい女性だった。

舞いも見事で天女のようであった。

王様は、満足して王宮に帰った。

楽しそうな王様の顔を見た家臣たちは皆喜んだ。

王様は、毎日足を運び、

しまいには王妃にしてしまった。

それからの王様は、毎日豪華な宴会をして楽しんだ。

彼女のために、大陸中から珍しい食べ物を集めさせた。

彼女のために、高価な宝石を集めさせた。

王様は、毎日楽しく過ごした。


国の蓄えがなくなっても改めることはなかった。


「お金がなくなったら、民から集めればよいではないか~」


王様は、民から搾り取ったお金で宴会を続けた。

国中の民はいつもお腹をすかせるようになって、国は乱れ放題になってしまった。


一人の楽士は、国の乱れに涙した。

彼女は、民のために毎日美しい音色を奏でた。

ある日、彼女のもとに一匹の龍が現れた。


「美しい音色を近くで聞きたくなってな。」


「存分にお訊き下さい。」


龍は毎日学士のもとに訪れた。

龍はたくさんの食べ物を持ってやってきたが、楽士は皆に分け与えた。

龍と楽士は民の間で評判になった。

それを耳にした王様は面白くない。


軍隊を率いて龍を捕らえようとしたが、お腹を空かせた兵士たちは言うことを聞かない。

ある時、隣国が攻めてきて王さまは帰らぬ人となった。


龍は民のために、隣国の大軍を追っ払った。


困った隣国の王様は、商人を王にするとたぶらかした。


「龍さま、あちらの方角でお友達が捕まっております。助けにいってはいかがでしょうか?」


「教えてくれてありがとう。たすけにいってまいる。」


「では、こちらの元気になるお薬をどうぞ」 


「かたじけない。」


商人から渡された薬を飲みほすと、龍は飛び立った。

はてさて、向かった先には隣国の大軍が待ち構えており、空飛ぶ槍で

攻撃された。

炎の息で溶かそうとしたが、急にお腹が痛くなり飛ぶことも難しくなった。

数百本の槍が龍に突き刺さった。

龍は、地面に落下し息をひきとった。


龍をたぶらかした商人は、隣国に忠誠を誓い新しい王様になった。

そして、国中に龍のことを話すのを禁じた。


楽士は、いまでも美しい音色を奏でている。


帰ってこない龍のために。





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