晴れたときこそ、人は死ぬか。
雨が降っている。
朝、昼とどうにか曇天も薄く、ときに晴れ間がのぞく空模様だったのが、夕になってポロポロと水滴を落とし始め、今はなかなかの音量で断続的に地面を打つ音が耳に届いている。
と思ったら雷も聞こえてきた。どうやら未明までにはこの雨も上がるだろう。
今一つだ。
雨というやつは、持論だが、朝昼から降り続け陽が落ちる頃に止むのが丁度よい。
今年の梅雨はその点でいえばなかなかに優秀で、夜に降り始めても翌日の日暮れごろまで途切れなくしとしとと振り続ける『おとなしい雨』が多い。
そうなると、すっかり晴れた夜は気温もいいところまで下がり、湿度も大したことはなく、窓を開ければ心地よい涼風を届けてくれる。
今日の雨はその点において、『今一つ』だ。
近年流行りのゲリラ豪雨もそうだが、まだ陽の高いうちに雨が上がってしまうと、溜まった水が蒸発し湿度が上がり、不快指数が跳ね上がる。
空ばかり無駄に晴れ渡っているのも「おれたちが高まる湿気と止まらない汗にひいこら言っている真上のお空で、なにを太陽のやつひとりだけ能天気に浮かんでいやがる」といった類の理不尽な苛立ちを人心に起こす。かもしれない。
天気、つまるところ天の気分にあまり駄弁を弄しても仕方ないが、雨上がりにもいろいろと我らは敏く感じ入ってしまうものだ。
統計上、自殺は午前中に集中する傾向があるという(厚労省のデータより)。
その日の天気については調べられなかったが、イメージとして、晴れの日が多いのではないかと思った。
もっといえば、今の時期のようにぐずついた天気が続いた一時の晴れ間だ。
雨が降れば、気も沈む。会話も弾まず、聞こえてくるのは雨音ばかり。傘を差さねば外も歩けん。靴底に水が入り込んで不快になったり、車が水たまりを跳ねてきたり、どこへ行こうにも何をしようにも、なんとも手狭で息苦しく、鬱々としている。
しかし、それは道行く誰もが一緒だ。
「辛く、苦しんでいるのはわたしだけではない」
その意識がしかし、雲の切れ間から日差しが降りた途端、明るく楽しげで明朗闊達に動き出した世界に置いてけぼりを食らう。
曇天から差す一条の、誰が言い出したか天国の階段が、文字通りのそれに見える。
皮肉なことに、人の気分を晴らし元気にする雨上がりが、ある人たちにとっての自殺する気力を起こしてしまう。これもまた文字通りに背を押され、本日の運行ダイヤに大幅な遅れが生まれる。
あまり天気に惑わされないように、というのは無理なので、人に惑わされないようにしよう、と申し上げておく。
天気は人の気分を決める。それは大事だが、他人の気分に付き合ってやることはない。
カンカン照りに晴れようが、二県を跨ぐような虹が架かろうが、一緒になって喜んでやる義理も責任も、あなたにはないのだ。
それこそ天にも及ばぬ人の気分に右往左往されるなど、馬鹿馬鹿しいではないか。
せめて私は、今の雨がどうにか明日のこの時間まで上がらないことを願うばかりである。
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