第21話
あの発砲音の後からは、何事もなく警戒が順番に行われた。
「・・・・・・そろそろ日の出かな?」
西側の空が明るくなって来たから、もう少し時間が経てば夜明けを見れるかもしれない。
「おはよう。エルライナ」
「おはようございます、ミュリーナさん。交代時間にはまだ早いんですが、起きて大丈夫なんですか?」
「いつもこれぐらいの時間帯に起きているから平気よ」
早起きなんだな、この人は。
「エイミーさんは・・・・・・まだ寝かせておきましょうか」
時間的に余裕があるしな。
「ええそうね。朝食、なににしようかしら?」
なんだろう。ミュリーナさんが俺に朝食を作って欲しそうにしている気がする。てか、目が語ってる気がする!
「か、簡単なものでしたら、私がお作りいたしましょうか?」
俺がそう言うと、ミュリーナさんが笑顔で俺の手を握って来た。
「流石エルライナ! 頼りになるわぁ!」
いや・・・・・・ミュリーナさんの目が作って欲しそうにしていたからだよ。
「手持ちの食材と栄養バランスを考えるとぉ〜・・・・・・パンに食材を挟んじゃいましょうか」
「あらぁ〜、こんな時でも栄養バランスを考えて作ってくれるのね」
「まぁ、人にとって必要な事ですからね」
昨日の夕食もサラダとか出して栄養バランスを管理していたのに、気がつかなかったのか?
それはそうと、ミュリーナさんの朝食はパンにレタスと目玉焼きとベーコンをパンの上に乗せたものを出そうか。あ、胡椒と塩で味を整えておこう。
ニコニコと俺の代わりに周囲を警戒してくれているミュリーナさんの側で、朝食の用意を進める。
「いい匂いがするわぁ〜」
それはまぁ、料理しているのだから、いい匂いが漂うのは当たり前だよなぁ〜。
そんな事を思いながら、焼き上がった目玉焼きとベーコンをレタスを敷いたパンの上に乗せ、塩と胡椒を少々塗したものをミュリーナさんに差し出す。
「はい、出来ましたよ。ミュリーナさん」
「ありがとうエルライナ。因みにこの料理、なんて名前なの?」
「あり合わせで作ったものなので、名前はないですよ」
どっかの国に、これと同じものを作っていた気がする。
「そうなの。名前を決めてると冷めちゃいそうだから、いただいちゃうわ」
「どうぞ、召し上がれ」
ミュリーナさんは俺の作った料理を一口食べると、美味しかったのか微笑みを浮かべながら頬に手を当てる。
「程よい塩加減にサラダのシャキシャキ感。それにベーコンの味を感じながらペッパーの風味を堪能出来る・・・・・・幸せ!」
「喜んで貰えてなによりです」
そう言いながら自分の分も作り始めたところ、ミュリーナさんが俺の側に
やって来た。
「あら? もう一枚はエイミー用?」
「私の分ですよ」
「そう。もうすぐエイミーも起きてくると思うから、彼女の分も作ってあげて」
エイミーさんも起きてくるのか。
「了解です」
ちょっと冷めちゃうかもしれないが、エイミーさんなら気にしないだろう。
そう思い、エイミーと自分の分を作り上げた。念の為に説明をするが、エイミーさんの分はお皿に乗っけいて、虫がつかない用に被せ物をしている。
「う〜ん・・・・・・胡椒がちょっと少なかったかなぁ〜?」
「そう? 私はこれぐらいでちょうど良いと思っているんだけど」
塩とか砂糖の加減は人それぞれだから、なんとも言えないよな。
「ところで、私達が寝ている間に、なにかあった?」
「なにもなかったですよ」
「本当に?」
ミュリーナさんが眉間に皺を作りながら顔を近づけて来たので、俺は顔を引きながら答える。
「ホントに本当ですから、そんな顔をしないでください!」
ただ、影の人達が俺に夜食を頼んで来たぐらい。一応、お金は貰っていました。
「・・・・・・顔を見る限り本当になにもなかったみたいね。早くそれを食べて眠っちゃいなさい」
「あ、はい」
そう返事をした後、自分の作った料理を平らげてからテントに横になる。
もう日が出るから、奇襲の心配をしなくてもいいかも。
そんな事を思いながら目を閉じたのだが・・・・・・。
「起きて! 起きてエルライナ!」
慌てた様な声で身体を揺さぶられたので、目を開けて確認してみると血相を変えたエイミーさんが俺の事を見つめていた。
「どうしたんですか、エイミーさん?」
「影の人達からの緊急伝令が来たのっ!」
「緊急伝令?」
なんだろう。その言葉に嫌な予感しかしない。
「もうすぐ着く魔国の軍が、魔物の群れに襲われたみたいなのよ! 私達に助けを求めているわ!」
「えっ!?」
魔国の人達が襲われているって?
身体を起こすと、その場に置いてある装備を身にまといながら、エイミーさんに話しかける。
「被害の状況は?」
「よく分からないけど、ちょっと苦戦しているみたいなのよ」
「魔物の種類は?」
「ウルフとオークだけど、共闘して魔国軍を襲っているみたい。そしてオークには弓矢を扱うのもいて、近づいてたたかえないとなんとか」
要するにウルフを捨て駒に突っ込ませて、遠距離重視で軍に挑んでいるってわけか。
「魔国軍の被害が拡大する前に向かいましょう!」
「そう言うと思って私達の方は準備を済ませてあるわ!」
ああ、想定済みでしたか。
そんな事を思って後、すぐに準備が整ったのでテントの外へ出ると、既にミュリーナさんがハンヴィー1151に乗っていた。
みんな行動が早すぎる!
「早くこれを動かして!」
「は、はい! 乗りましょう、エイミーさん!」
「え、ええ!」
なんだろう? エイミーさんもミュリーナさんとネネちゃんが既にハンヴィーの乗っていのは、想定外だった様な顔をしている気がする。それとネネちゃんは・・・・・・多分道先案内人なんだろうな。うん!
そんな事を思いながらハンヴィーに乗り込むと、影の者がハンヴィーの側までやって来た。
「ここは私達が見張ります。なので、エルライナ様達は同胞の事をよろしくお願い致します」
「うん、分かった」
「案内よろしくね、ネネちゃん」
「分かりました! 目の前の道を左に沿って行けば、我々魔国軍にたどり着きます!」
ネネちゃんの言葉通り、ハンヴィー1151を発進させると道に沿って走り始める。
「エルライナ様達って、私とエイミーの名前を言ってくれたって良いんじゃないかしら?」
「まぁまぁ、ミュリーナさん。落ち着いてください」
「落ち着いているわよ。ただ残念に思っているだけだから」
俺には気にしてる様に見えるんだけど。
「それよりもエルライナ。もっと飛ばした方が良いんじゃないの?」
「これ以上スピードを出したら、滑ってしまう可能性がありますよ」
てか、これでも時速60kmで走っているんだから、文句を言わないで貰いたい。
「お姉様、魔国の兵士達はそんなにやわではありません。なので、お姉様のペースで走って頂いても大丈夫です!」
ネネちゃん! キミは俺にとって天使だよ!!
「それに、もうすぐ見えて来ますよ」
あ・・・・・・もしかして、現場が近いから焦らずにいられるのか?
そんな事を思っていたら、目の前にそれらしき人達が見えて来た。
「あれですお姉様!」
「あれね。もうちょっと近づいて見てみましょうか」
「近づいてからって、助けに来たんだから、あそこまで行かないとダメよ!」
俺の憶測が正しければ、このまま魔国軍に近づいたら危ない。
「そうなのですが、戦況が分からないので一旦情報収集してからどうするべきなのか考えたいです」
「エイミー。私達、エルライナに色んなところで助けられたでしょ? 彼女のやり方で任せてみましょうよ」
「・・・・・・分かったわ」
ミュリーナさんのお陰で、無謀な突撃をしなくて済んだよ。
そう思った後、ハンヴィーを路肩に停めて外へと出るのであった。
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