第13話

ちょっと気まずい雰囲気の中、みんなで喋りながら料理の完成を待っていた。しかし、問題が一つだけあった。それは・・・・・・。


「それでな。ミュリーナが5歳の時に、 雷が恐いよぉ。 と言って私のベッドに潜り込んで来た時は、可愛いと思ってしまったよ」


「へぇ〜・・・・・・ミュリーナにも可愛いところがあったのねぇ〜」


「そうだ。私の周りをウロチョロしていたのが、いつの間にか大きくなっていた。子供の成長は早いと実感した」


そう、ラミュールさんがミュリーナさんの過去を大暴露しているのだ。


「もう、止めて・・・・・・」


完全ディスられている側のミュリーナさんは、恥ずかしそうにテーブルに突っ伏しているのだ。


「他にもあるぞ。初恋の人に告白しようとしたら・・・・・・」


「それは言わない約束でしょ!」


「ああ、そうだったな。気になっているヤツは後で話をしてやる」


「絶対ダメッ!!」


ミュリーナさんがそう言いながら、ラミュールさんの元へと行く。


「ムゥ・・・・・・そんなに恥ずかしいのか?」


「メッチャクチャ恥ずかしいに決まってるじゃない!」


「そうかぁ。それじゃあ、私のベッドの上でそs・・・・・・」


「だからもう止めてって言ってるでしょぉ!」


ミュリーナさんがものスゴい剣幕で、ラミュールさんに詰め寄った。


「ラミュールさん。そろそろ止めてあげた方が良いんじゃないんですか?」


「そうするか・・・・・・そろそろ料理が出来上がる。だからエルライナ、手伝ってくれ」


「あ、はい!」


ラミュールさんについて行く様にして、キッチンへと向かう。


・・・・・・ん? 焚き火用のオーブンで料理を作っているのか。


「器が熱くなってるからミトンをつけておけ」


「はい」


手渡されたミトンをつけている間に、ラミュールさんがオーブンの蓋を開いた。


「取り出すのを手伝ってくれ」


「はい!」


ラミュールさんがオーブンの中から器を取り出して俺に手渡してくるので、それをキッチンに並べる。


「ラミュールさん。もしかしてこれ・・・・・・グラタンですか?」


「ああ、アイツが大好きなんだよ」


ミュリーナさんって、グラタンが好きだったんだ。


「冷めると美味しくないからな。敷き物を持って行ってくれ」


「了解しました!」


ラミュールさんと共にグラタンをリビングへと持って行き、テーブルに並べる。


「お母さん。これって、グラタンだよね?」


「ああ、食べてくれ」


「・・・・・・うん」


ミュリーナさんはそう返事をすると、器に被せてある蓋を取って食べ始めた。


「美味しい。ありがとう、お母さん」


「ああ、他のヤツも遠慮しないで食ってくれ」


「はい。それじゃあ、遠慮なく」


「頂きます」


「い、頂きます」


そう言ってから、グラタンをスプーンで掬って口元へと運ぶ。


「ッ!?」


熱いっ!? でも、これは美味しいな。


「このちょっと歯応えのある感じは、もしかしてクルミを入れているんですか?」


「ああ、野菜と鶏肉だけだとミュリーナが飽きてしまうと思ってな。砕いたクルミを加えて別の食感を楽しんで貰おうしたんだ」


なるほど、ミュリーナさんが食べ飽きない様にする為に入れたのか。


「今度やってみようかな?」


「ああ、やりたければやれば良いさ。ところでエルライナ。勇者達がここに来ていると聞いていたんだが・・・・・・もしかして、宿の方に行ってしまったのか?」


「ああ〜、確かに美羽さん達はここにいましたよ。でも大輝くんがグエルさん達と朝まではしご酒していたんです。それで・・・・・・」


「二日酔いのダイキを介抱しているってわけだな?」


「はい。仰る通りです」


一応酔い覚ましの薬を飲ませたから、明日ぐらいには気持ち悪さが軽減されているはずだと思う。


「ハァ〜・・・・・・アイツらは限度というのを知らないからな。私からエイドに話をしておく」


多分、エイドさんの奥さんが言ってると思うけど、まぁそこら辺の事は俺が関与する事じゃないから、言わないでいようか。


ラミュールさんのグラタンを食べ終えると、器と蓋を台所へと持って行き、洗い物に取り掛かる。


「・・・・・・エルライナ」


「はい、なんでしょうか?」


「私が言えた事ではないが、ミュリーナの事を頼んだぞ」


ミュリーナさんの事を頼んだぞ? もしかして、ミュリーナさんの事を心配しているのか?


「なにを驚いているんだ? あんなのでも私が産んだ娘なのだから、心配するに決まっているだろう?」


「そ、そうですよね!」


そうだよ。俺の両親と一緒にしてはいけない。これが普通の親なんだよ、うん。


「お前の両親はどうだったんだ。私の様に自分の子を大切にしていただろう?」


そう言って見つめてくるラミュールさんに対して、俺は目を逸らしてしまう。


「・・・・・・私の両親はそうでもないですよ」


「そう、か?」


「はい。私の両親は、私達兄弟・・・・・・あっ! 私には、私そっくりな弟がいたんですよ」


「そうか。それで?」


話に興味が湧いたのか、聞いてくる。


「はい。あの人達は自分達のステータスの為に、私達を教育をしていたんです。でも、私が勉強が不得意だと知ると、切り捨てましたからね」


「ゲスだな」


「はい。父が立ち上げに協力した商会から追放されたのが信じられなかったのか、気が狂って失踪して。弟は行き過ぎた教育のせいで自殺してしまいましたからね。そして母は、その二つが重なってショックでおかしくなってしまい、自殺してしまいました」


「そ、そうか」


流石の話が不快だったのか、俺から引いていた。


「両親は死ぬ最後まで疫病神とか、 私のせいで弟が死んだ。 とか言ってましたよ。

今考えてみれば、私を責めなければ心の平常心を保てないほど、精神が参っていたんだと思います」


「・・・・・・そうか」


流石のラミュールさんも俺の話を不快に感じていたのか、顔を顰めていた。


「もう昔の話なので、私は気にしていませんよ。それに五年ぐらい前の話な上に本人達は亡くなっているので、怒り様がありませんからね」


「それも、そうだなぁ」


「それに私自身は今幸せですからね」


「・・・・・・そうか。なにかあったら、私を含めて周りの人に頼って良いんだぞ。お前が他のヤツらに作った借りは、大きいからな」


「はい、その時になったら頼らせて頂きます」


今が一番楽しい! そう思っているからね。


「・・・・・・エルちゃん」


「ん?」


後ろを振り返って見ると、エイミーさんとリズリナさんが縁後ろから顔を出して見つめているのに、ビックリしてしまった。


「エルライナ。アナタ、私達が想像していたよりもツラい人生を歩んでいたのね」


「え? まぁ他の人からしてみれば、ツラい人生を歩んだと思えますね」


「エルちゃぁああああああああああああんっ!!?」


リズリナさんは泣きながらそう言うと、俺の身体に抱きついて来た。


「エルちゃんには、私がついているからね! なにがあっても、親友でいるからねぇええええええっ!!?」


「リズリナさん! もしかしてさっきの話を聞いていたんですかっ!?」


「ゴメンなさい。なにか手伝おうと思って来たら、偶然聞こえちゃってね」


成り行きで盗み聞きみたくなってしまったという事か。


そう思いながら、半泣きになっているリズリナさんの頭を撫でる。


「私もリズリナと同じで、アナタの力になりたいと思っているの。だから、明日は遠慮なく頼って欲しいの」


「エイミーさん」


俺の事を思ってくれているとは・・・・・・ああ、俺は良い人達に巡り会えたんだなぁ。


「エルちゃぁあああああああんっ!!?」


俺の胸に顔を埋めているリズリナさんを抱きしめながら、そう思うのであった。

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