第20話
とある屋敷の中、男が情けない姿の部下達を睨むと部下達は怯えた表情で男を見つめていた。
「あの女は、一体どうやってあの場所を特定したんだ?」
麻薬畑は闇ギルドにとって重要な資金源。だから厳重に隠蔽と密輸をして来た。
「まさかとは思うが、あの支部から場所を割り出したのか?」
「そんな滅相もありませんよ!」
「そうですよ! コイツの言う通り記載されたルートに関しては暗号化しているので、辿り着こうとしても無理なはずです!」
そうだなぁ。向こうには解読の為の本は置いていないはずだ。それに本無しで解読を出来る者は、俺を含めて三人しかいない。
「・・・・・・もしかして、裏切り者がいるのか?」
もしそうなら、怪しい人物が一人いる。
「あの支部を任せていた支部長はどこに行った?」
「えっ、えぇ〜っとぉ・・・・・・王都内にはいるみたいです」
「確かぁ、東の地区で目撃したとかなんとかぁ〜・・・・・・」
部下達は動揺しながらも、問いかけに答えてる。
「なるほど、そいつは裏切り者かもしれん。今すぐに行って始末してこい! そうすれば、お前達の失態を帳消しにしてやる!」
「「承知しましたぁ!」」
彼らはそう返事をすると、慌て様子で部屋を出て行った。
「あのクソアマめぇ〜っ! この落とし前をどうつけてくれようか?」
その後はブツブツなにを言いながら、仕事に戻る。そう、エルライナが出した損失をどうやって取り戻すか考える為に。
ところ変わって王宮の謁見の間。
「・・・・・・と言う報告が来ました」
「そうかぁ。エルライナと勇者達がねぇ〜・・・・・・」
「はい、こちらがその場所で見つけた書類です。どうぞ」
「うむ」
第二騎士団から闇ギルドが麻薬畑で保管していた書類に目を通していく。
「前々から怪しんでいた商会と貴族がここに載っているな」
「はい。グエル団長も見て驚いておりました」
「それに国外の貴族も載っておる」
帝国に魔国。それに総合ギルドに加入していない商会まで、数数え切れないほどに載っていた。
「そうですね。国内にいる者達は我々で捕まえる事が出来ますが、国外の方にいる者達は我々では捕まえる事が出来ません。
なので、この事を国外に通達した方がよろしいかと思われます」
「そうだなぁ。我々が勝手に動くと支障が出そうだ。だからこの報告については総合ギルド経由で報告して貰う事にしよう。
どう思う、メイラ?」
「賛同します」
「そうか。報告を頼む。後、念の為に写し書きをしておいてくれ。その書類がなくなってしまったら、元もこうもないからな」
「承知しました」
「用がないのなら、下がって良し」
「ハッ、私はこれにて失礼致します」
騎士はそう言うと、去って行った。
「全く。スゴい事をやってくれるなぁ。あの子は」
「左様ですね。我々が手を拱いていた闇ギルドを、短時間でここまで痛手を負わせられるとは・・・・・・私も驚いております」
そう我が妻の言う通り、この闇ギルドは先代の国王の時に設立され、リードガルムの裏で蔓延っていたのだ。ヤツらをなんとかしようにも繋がりのある貴族達が庇ってしまい、なにも出来ずにいた。
しかしそれも今日まで。彼女が持って来た証拠を照らし合わせて、闇ギルドに加担している貴族達を一気に一掃する。
「・・・・・・本来なら彼女をここに連れてくるべきなのだろうが、彼女自身が望まないだろう」
「そうですね。この件が終わるまで待っていらした方が良いと思います。そろそろ休憩いたしましょうか」
「そうだなぁ」
そう言うと彼らは立ち上がり、謁見の間から出て行くのであった。
時を同じくしてバルデック公爵家邸宅。
「とりあえず資金源の一つを潰せたね」
「そうですね。しかもこんなリストまで手に入れられるとは、思ってもみませんでした」
大輝くんが見せてくれたのは、あの麻薬畑で採れた麻薬の販売兼密輸ルートが書かれたリスト。
「下ろしたお店の方は、総合ギルドの方が責任を持ってガサ入れするみたいだね。でも・・・・・・」
「でも、なんですか?」
「リスト以外の場所も潰さないといけないから、そっちの方は私の方でなんとかしましょうか」
「リスト以外の場所? 他にも下ろしていた場所があるんですか?」
「あるけど、麻薬ではなく違法な商品や密輸品を売っていたみたい。ほら、支部を襲撃した時に見つけた資料だよ」
そう言って見せたのは貴族や商会などの顧客リスト。
「流石に貴族や商会相手に違法薬物の売買はしていないみたいですね」
「ん・・・・・・誘惑系のマジックアイテムは違法」
「それにこっちの呪具は相手を病気にさせる指輪! 教会で処分しないといけないアイテムを持っているのよ!」
「多分闇ギルドに登録している誰かが、ダンジョンに潜って手に入れたんだと思う」
総合ギルドに登録をしている人も中にはいたから、そういったアイテムを闇ギルドに流していたんだと思う。
「なるほどぉ〜。じゃあリストに載っている人達のところに直接行って、捕まえに行くのね!」
「そんな事をする気はないよ」
俺がそう言うと、大輝くん達は えっ!? と驚いた顔をする。
「どうしてですか?」
「ん・・・・・・一掃するチャンスなのに」
「伊織の言う通り、このまま野放しにしていたら危険よ」
「まぁ私自身も野放しにしているんは危険と思っているよ。でもね、顧客を捕まえるのは、色んな国と繋がりはある総合ギルドに任せようと思っているんだ」
このリストに載っていた。 という理由で行ったら ねつ造だ! って言われるのが関の山だと思うし。
「捕まえに行かない? エルライナさんは一体なにをしようとしているんですか?」
「普通にやったら捕まる手段だけど、相手が違法なら正攻法からちょっと離れたやり方をやろうと思ってる。さて、その為に準備をしようか」
そう言った瞬間、 この人はなにを言っているんだ? と言いたげな顔を向ける三人だが、その言葉の意味をすぐに理解するのであった。
「・・・・・・エルライナさん。こんなところで待ってどうするんですか?」
王都から草原に出て数時間後、大輝くん達と共に小高い山の上で伏せている。
「どうするって、待っているんだよ」
「待っているって・・・・・・アナタ、まさか!」
「ん・・・・・・ここの下のどこかが取り引きの場所・・・・・・って事?」
「うん、察しが良いね」
そう、俺は闇取引をする現場から離れた場所で待機しているのだ。
「でも、これだけ広い場所になると目立つんじゃないんですか?」
「目立つと思ったら間違いだよ大輝くん」
「なんでですか?」
「ここは小高いけど山に囲まれているから隠れられるし、なによりも周囲になにもないって事は、向こうの敵にとっても相手を目視しやすいって事だよ」
そう、自分達の周囲以外に隠れる場所がないってのは、奇襲されるリスクが少なくなるという強みだと俺は思う。ただし、この世界基準で考えたらね。
「・・・・・・っと、来たみたいだね。これを被って身を隠して」
そう言って迷彩色の布を上から被せた後に、側に置いていた Remington Arms MSR (338ラプアマグナム弾使用)を手に取り、バイポッドを立てる。
「エルライナさん、向こうに見える場所って」
「もしかしてもなにも、闇取引に来た馬車に決まっているでしょ。大輝」
「む・・・・・・もう一台来た」
伊織ちゃんが指を指す方向に目を向けると、もう一台みすぼらしい馬車がやって来て、もう一台の馬車の側に停まった。
「あれ? ボロボロの馬車から貴族服の人が出て来た」
「闇取引をするんだから、高級な馬車でくるわけがないでしょ」
「大輝・・・・・・常識で考えれば分かる事」
「ゴメン、二人共」
大輝くんはそう言って謝ると、ションボリしてしまった。
「話し合うのは構わないけど、狙撃をするから静かにしてね」
そう言ってから Remington Arms MSR を構えるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます