第9話
お腹一杯になったエイミーさん達は、しばらく間雑談をした後に家を出て帰って行った。
「楽しかったなぁ〜」
家族以外の人達と夕食を楽しむなんて事は、以前の俺だったら無縁のだったろうな。
学校に友人はいないどころか、クラスメイトから嫌みを言われるばかりだったから、普通の人からしてみればツラい状況だっただろう。
それに誰も手を差し伸べる人がいなかったからな。
「じいちゃんには悪いけど、今の生活の方が充実している気がする」
そんな事を思っていたら電話が鳴り響いた。
電話? って、メルティナさんからだ!
あたふたさせながら電話に出ると、テレビ電話だった為モニターにメルティナさんの顔が映る。
『お久しぶりです。エルライナさん』
「お久しぶりです、メルティナさん。今日はどうされたんですか?」
また神様の仕事が遅いとか言うグチだと思うけど。
『聞いて下さいよエルライナさん。最近になってやっとウォント王国の勇者達が、まともな活動を始めてくれましたぁ!』
「やっと? 私があの国にいた時は、訓練ばかりしているとだけと聞いてましたが?」
『はい! アナタが国から出て行った後、みんな活動的になったんですよ!』
「・・・・・・身の危険から守ってくれる人がいなくなって、危機感を感じたからじゃないんですか?」
アイツらの事だから、きっとそうに違いない。
『いえいえ、そんな事はありませんよ! どちらかと言うと、青野さん達の頑張っている姿に感じるものがあったから、自分達も頑張ってみようと思ったみたいなんです!』
ほう、クラス委員達が他の連中をやる気にさせたのか。
『あ、因みにイノセって子はメンバーに入っているみたいなのですが、今までの事が祟ったのか孤立しております』
まぁ、あんな事をすれば当たり前だと思うけど。
「その二グループは同罪だと私は思っているんだけど?」
『その中でも自分の行いに反省している子もいるので、良しとしましょうよ』
「う〜ん。私には、やって後悔している感じにしか思えないけど」
『そんな感じも否めないですね。あ! 岡崎さんの事なのですが・・・・・・』
「なにかあったんですか?」
『はい、どうやら王都近くの森で洞穴の中で蹲っているところを兵士達に発見されました』
「それで無事に保護されてお城に帰った。って感じですか?」
『はい! 無事に保護されて帰って行きました!』
いっその事、見捨てればよかったのに。
『しかし、一つ問題が出てしまったんですよね』
「問題ですか?」
『はい、森で恐い思いしながら過ごしていたせいなのか、精神が幼児退行してしまったんですよ』
「幼児退行?」
おいおい、あの偉そうな岡野が?
俺がそう思っていると、メルティナさんが残念そうな顔で話し始める。
『はい。彼は元々メンタルが弱い人でした。その弱い部分を誰かを責める事で自分の精神を保っていたところがあったんです。誰かに嫌な事をされた時も、自分よりも弱い人を責めて苛々を鎮めていたのですから』
「普通の苛めっ子よりタチが悪いと、私は感じているんですが?」
『私も聞いた時、彼に嫌悪感を感じました』
今さらだけどよくもまぁ、そんな人を勇者にしたねぇ。
『向こうの世界にいた頃は良かったのですが、この世界に来てあんな事があってしまった為、彼の立場が一変してしまい責められる側になってしまいました』
「なるほどね。誰かに当たって責めようにも自分の立場上出来ないし、なによりもこの間の事で責められる立場になっちゃってるんだよね」
俺が言うこの間の事とは魔人に襲撃を受けた時の事で、彼は身勝手な事やった挙げ句散々な目に会ってしまった。
『はい、彼についていた取り巻き達は彼の事を見放し、自分達で活動する様になりました』
「所詮取り巻きは取り巻きって事ですか」
強いやつに対して
『彼らの場合は魔人との戦いで、岡野さんに良い様に使われたというと思っている節がある様です』
「ああ〜・・・・・・」
思い返してみればそうかもしれないな。だって頭ごなしに命令するし、挙げ句の果てには仲間を見捨て様とする始末。
「とにかく、その人達頑張っているんですね?」
『はい。彼らも後ろ盾がいなくなったので、人の目を気にする様になり、訓練に参加する様になりました』
体面的なところを気にして訓練かぁ・・・・・・まぁ、俺の気にする事じゃないか。
「とにかく、彼らが勇者らしい活動を始めてくれて良かったですね」
『はい! これもアナタのお陰ですよ!』
「私のお陰?」
う〜ん、俺のせいでこうなった。って責められる様な事があっても、お陰でこうなりました。ってポジティブな事は、なんにもやっていない気がする。
『アナタがどう思っているのか分かりませんが、良い意味でも悪い意味でも色んなところで影響がありましたよ。その理由を聞きますか?』
「はい、把握しておきたいので聞かせてください」
『良い意味の方は、先ほど話ていた勇者さん達がやる気になってくれたのとは他に、ウォント王国の経済が活性化された事ですね』
「まぁあの勇者達が大人しくなれば自然と経済が回復するに決まってますよ」
『いいえ違います。アナタが王都に来て国を守ったという事で観光地化されて、王都の方に観光客が殺到しているんです!』
「・・・・・・ハァ?」
どういう事だ?
『ファンクラブの他に、アナタの事を英雄と讃えている人が殺到しているんですよ。ほら、覚えがありませんか? ウォント王国の王都に向かう最中で村の危機を救ったじゃないですか』
「ああ〜、確かにそんな事をしていたね」
あの時は領主の対応がヒドかった。しかも不倫の証拠を隠す為に殺人までやろうとするとはな。
『その活躍もあって、エルライナさんのファンとファンクラブの会員が増えたそうです!
中には聖地巡礼と称してエルライナさんが行った場所を巡る人もいるみたいですよ。良かったですね!』
「いやいや、良かったですね! じゃないよ。私の家にくる可能性もあるって事ですよね?」
『はい、仰る通りです』
サラッと言うなよ。サラッと。
『ですが安心してください。そちらの件に関しては総合ギルドとファンクラブの人達が対応しているので、家凸される心配はなさそうです』
「本当に?」
『本当ですよ。なのでそのまま過ごしていても大丈夫ですよ』
う、う〜ん・・・・・・メルティナさんがそう言うのなら信じよう。
「分かりました。なるべく気にしない様にします」
家凸されたら、ポリスメェンよりも恐いバルデック公爵様に相談をしようか。てか、ポリスメェンいないし。
「それで、良い影響の方は以上ですか?」
『はい、次に悪い影響の話をしますね』
メルティナさんはそう言うと、コホンッと咳払いした後に真剣な顔つきで俺を見つめる。
『アナタがウォント王国で魔人と戦って以降、各国から目をつけられてしまいました』
「そうなんですか?」
『はい。アナタがどう思われているか知りませんが、自国に取り込もうとしている国もあるみたいです』
「それは無理なんじゃないんですか? 私はバルデック公爵家の養子になのですから」
誘拐なんてしたら大問題になる案件だ。なのでそう簡単に手を出す事が出来ないだろう。
『そうですね。でも、欲しいと思っている国はなにがなんでも取り入れようとするので気をつけてください。
場合によっては誘拐どころか脅迫される可能性もありますよ』
「そんな事される可能性があるんですか?」
『はい、なので気をつけてください』
「はい、気をつけます」
国との付き合いがある時は、バルデック公爵様に同伴して貰おうかな?
『長話をしてしまいました、そろそろお仕事の方に戻りますね』
「お仕事頑張ってくださいね」
『はい、なにかあれば連絡致しますね』
そう言って電話を終えたのであった。
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