第5話

とりあえず王妃様から届いた手紙を破こうと思ったが、やったらやったでなんか言われそうな気がしたので机の引き出しへ入れた。


「さて、問題はここからだ」


王妃様が書いてあった場所を探してみると、なんとまぁ口では例えられない服が出て来るわ出て来るわのオンパレード。


「絶対に着たくない」


そう言った後に、取り出した下着全てを元に戻した。


「見なかった事にしてお風呂に入ろうか」


気分転換をする為に脱衣所へと向かい、服を脱いだ。


「やっぱり我が家のお風呂が一番落ち着くなぁ」


そう言いながら扉を開いた瞬間、石の様にピタリと動くのを止めてしまった。なぜかって? 目の前の光景が悲惨過ぎるからだ。


「ちょっ、これは」


床はビショビショ。天井にはカビらしき黒ずみが見える上に壁には飛び散った泡の跡が見える。


「床がヌメヌメしている」


恐らくこのヌメヌメ感も、洗剤をちゃんと洗い流さなかった影響と思える。


「お風呂入る前に掃除をしないとダメかぁ〜」


つーか、レンカさん達はよくこんな状況でお風呂に入ろうと思ったなぁ。もしかしてお風呂場をロクに掃除していなかったのか? どちらにしてもやらないと。


下着を着た状態でお風呂場の掃除を始めた。


「やっぱり洗浄剤の力は偉大だなぁ〜」


床をブラシで軽く擦っただけでヌメヌメ感はなくなり、風呂釜にこびりついていた水あかはなくなっていて、しかも壁や天井についていた黒カビはキレイになくてっている。


「良い汗を掻いたし、これで気持ち良くお風呂に入れるね」


今度こそお風呂に入ろうと風呂釜に水を入れる。


「水が満タンになったら、お風呂に入ろう」


それまでリビングで休憩していようか。


このまま姿で歩き回るのはよろしくないので上着だけ着てリビングへと向かったら、なんとラミュールさんが椅子に座ってお茶を飲んでいた。


「やっと来たか」


いやいやいやいやいや!?


「やっと来たか。じゃないですよ! なんでここにいるんですか?」


しかも優雅にお茶を飲んでるし。


「なんでって、お前に話があるから来たんだ」


「私に話?」


「そうだ。まぁそこに座れ」


「あ、はい」


ラミュールさんに言われた通り、向かいの席に座る。


「バルデック会長から話は聞いた。大変だった様だな」


「ええ」


「お前が向こうの勇者達に会っている間に、こっちの方も色々と変化があってな。それを話に来たんだ」


「変化ですか?」


大変な事じゃなければ良いんだけど。


そんな心配をしている中、ラミュールさんは真剣な顔つきで俺の顔を見つめてくる。


「実はな。深刻な事態に陥っているんだ」


「具体的に教えてください」


「ああ・・・・・・白銀の乙女が遂に世間に知れ渡ってしまい、本を求めている人達で溢れ返っているんだ。だから今後は一般にも販売をしようかと考えている」


「なんだってぇ〜!? ・・・・・・じゃなくて! なんで私に言うんですかぁ!?」


つーか、俺に隠して販売していたんじゃないの?


「いや、だってな。お前にバレたんだから隠す必要はないなぁ。と思ってな。ファンクラブの方も公開したら、ウナギ登りに数が増えて・・・・・・」


「あのプランOってそう言う意味だったの!?」


Open。日本語に直すと開放と言う意味。


「そうだ。一巻も増刊する予定だし、最新作の二巻も今月の下旬に販売する予定だ」


「二巻っ!?」


「ああ、現在は三巻目を作っている途中だ」


二巻も作っていたとは。


「勝手過ぎはしません?」


「売れるものを作ってなにが悪い」


「悪いもなにも、人権侵害じゃないですか!」


「私はそんなヒドい事を書いていないし、戦いのシーンはカッコ良く書いているから安心しろ」


「ん?」


今この人、なんて言った?


「今、私は。って言いませんでした?」


「ああ、私が作者だ」


「なんだってぇええええええっ!?」


あの物語りを書いていた張本人がいたぁっ!?


「私バルデック会長と出会った時、あんな会話をしていませんよ!」


「馬車を降りてすぐにゲロ吐いた。なんて書けるわけがないだろう?」


確かに書けるわけがない。


「それにアイーニャにも、 それは書いてはダメと言われたからな」


「アイーニャ様?」


「アイーニャは編集者だ」


「もうグルじゃん!!」


ファンクラブから本の出版まで、この二人は一体になにをやっているんだよぉ!?


「まぁともかく。これからはお金・・・・・・ではなく、総合ギルドの知名度の為に一般販売をする方針を固めた」


「もう、勝手にやってください」


投げ槍状態で、頬杖をついてしまった。


「そうそう、それに関してもう一つ報告があるんだ」


「もうなにを言っても驚きませんよ」


「あ、そうか。じゃあお前の友人のリズリナとエイミーが、エルライナファンクラブに入ったぞ。と言っても驚くわけがないか」


「はぁ!?」


リズリナさんとエイミーさんがファンクラブに入ったぁ?


「あ、それとこっちの勇者二人。ミウとイオリだったっけ? 彼女達も面白そうだからって理由で入ったぞ」


「マジですかぁ!?」


「マジだ。彼女達にもファンクラブの活動を協力して貰っているから大助かりだ」


美羽さん達まで協力している状況なのかよぉ〜・・・・・・。


「ミュリーナは設立当初に入って貰ったが、なんの協力もしてくれなかったから困ってもんだ」


「ミュリーナさんもぉ!?」


「ああそうだ。全くあの身勝手な性格は誰に似たんだか」


それはアナタに似たんだと思いますよ。


「お前、何か変な事を考えていないか?」


「いえ、決してそんな事はありませんよ」


相変わらず気配探知能力が高いな。


俺はそう思いながら、ラミュールさんを真っ直ぐ見つめる。


「話はそれだけですか?」


「いや、ここからが重要な話になるんだ」


「ああ、そうですか」


話の流れ的にファンクラブの交流会がどうのこうのって話でしょ?


「最近、どうも闇ギルドの様子がおかしいんだ」


「闇ギルド?」


確か総合ギルド追い出された者や、社会復帰が出来ないほどの罪を犯した犯罪者などのならず者達が集まって出来た組織の事だよな。

仕事内容は闇ギルドらしく、強盗から殺人と様々な仕事はあるが違約金が発生しないので、仕事が失敗したとしても渡したお金は戻らない。

その代わりに失敗に対しての報復が恐いらしい。


「まさか、なにか非合法な物を街で売買している感じですか?」


「いいや、そんな事ではない」


「じゃあ、どんな事をしようとしているんですか?」


「さぁ?」


「さぁ? って答えになっていませんよ」


「現在は調査中だから、なんとも言えないんだ。そうそう、その調査にダイキ達も協力してくれるみたいで、こっちに向かって来ているらしいんだ」


「へぇ〜、そうなんですかぁ」


「ああ、彼らもエルライナに会いたがっていたから、この街に来たら会ってやれ」


「分かりました」


大輝くん達と久々に会えるのかぁ。楽しみだなぁ〜。


「あ、私も調査に協力した方が良いでしょうか?」


「お前の場合は容姿でバレるから、協力はお願い出来ない」


「そうですかぁ」


「まぁ、人手不足と感じたら、お前に頼む事にする。だからふ普通に依頼をこなしていてくれ」


「分かりました。そうします」


魔人相手じゃなければ心配する必要はないだろうな。


「おっと、そういえばお風呂の水を入れていたんだった」


溢れ返っていなければ良いんだけど。


「・・・・・・風呂?」


「ええ、お風呂です。さっき床も天井も全部洗ったんですよ」


これから沸かして入るんだ。


「だからそんな格好をしていたのか、てっきり家だから・・・・・・」


自室でもこんな格好をしていないぞ。


「よし、私も風呂に入ろう」


「ええっ!?」


「なんだ。私が風呂に入ったらダメなのか?」


「ダ・・・・・・」


ダメと言おうとしたら、鋭い眼光で見つめて来た。


「か、構いませんよ」


「うむ、なら一緒に入ろうか」


「あ、はい」


本当は断りたかったが、ラミュールさんの眼光が恐くて断れず、渋々受け入れてしまったのであった。

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